96話 気付けば6月
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6月某日。気付けばとっくに6月の中旬になっていて、制服は俺の真っ白な心を象徴するかのような夏服になっていた
この1ヶ月で俺はどう変わったって?そんなん決まっている
「蓮くん。ほらおいで」
「くじょ〜」
そう、俺はバブちゃんになっていた。
いつも通りお弁当を食べて膝枕をしてもらっては、毎日の授業をボチボチ頑張る程度の存在
卒業までに意識改革みたいな分からせを目標にしていた気がするが、今は休憩中ってヤツだ
とりあえずなんの問題もない学校生活なんだしそれでいいだろう
「今日も蓮くんは甘えん坊さんね」
「こんなん普通だ……たぶん…」
ここに全く人が来ないのが悪い。まるで閉鎖空間にでも居るような二人きりの時間だ。
ぶっちゃけここで男女がやる事やってもバレないレベルだ。俺にそんなつもりはないと思いたいが
「ねぇ蓮くん…」
「ん……」
膝枕されながら頭を撫でられて俺はこれ以上ないくらいに眠気が限界に来ていた
「もう少しで体育祭よね。蓮くんは何か実行委員とかについているのかしら?」
「……………ハッ!」
逃げようと勢いよく起きあがろうとしても、頭を抑えつけられてビクともしない
「おい痛い離せ」
「相変わらず瞬時に牙が出るわね…」
あぶねぇ。完全に飼い慣らされる手前まで来てたぞ。頼み事って一瞬気付かなかったわ
「それで実行委員じゃなかったらなんだよ。テスト終わってすぐに色々決まったけど俺はめっちゃ忙しいが?」
「あら、蓮くんは暇だって西園寺くんは言ってたわ」
こんなところで冒頭に俺がなりたがってた苗字でるのかよ。そんな奴クラスに居たか?
「西園寺って誰だよ…」
「貴方のクラスのまるまると太った生徒ね…」
「……いやアイツかよ…」
あんなデブが西園寺とか苗字の無駄遣いすぎるがどうなんだホントに……
「蓮くんはなんだったら居眠りしてたって聞いたけれど?…」
「おまえ俺よりアイツのこと信じるのかよ」
「そう言っていたのは黒瀬さんよ…」
「明らかに情報収集してるじゃねーか。それならこのやりとり必要か?」
「えぇ。必要よ。蓮くんが思っている以上に…」
「…そうでっか。で…なんだよ?」
「コホン」
九条が改まって何かをお願いするかのような空気を醸しだした時だった
「好きだ!俺と付き合ってくれ!」
そんなストレートな告白が窓の外から聞こえ、俺は九条の膝枕から瞬時に起き上がった。
九条も驚いたのか、俺の頭を腕で押さえつけはしなかった
「…蓮くん。私のことやっぱり好きだったのね」
「いや明らかに聞こえてくる方向違ったろ」
かなりデカい声での告白だったが、女の子からの返事はこの距離では聞こえないだろう
結末がどうなったのか気になってソファから立ち上がるが、九条が退いてくれないから全く出れない
「ちょっとどいてくれ」
「はい。どうぞ」
そう言って九条は腕を広げ、抱っこして窓際まで運んでくれアピールをしてくる
指をわきわきさせて抱っこ待ちをするその姿は、普段俺を甘やかす人には見えない
「おまえも気になってんじゃねーか…」
九条をお姫様抱っこで抱き上げて、ゆっくりと書棚の隙間を抜けていく
「惨めにフラれた男の顔が見たくて堪らないのよ…」
いや性格わる
そっと窓際に顔を近づけていくと、ポツンと一人の女子生徒が立っていた
「あー…あれは…」
「西城さんね。……こんな人気のないところで何してるのかしら……」
「いやおま……ボケ過ぎだろ…」
「冗談よ。それにしても振った側が残るなんて珍しいわね…」
「そんな珍しい事なのか?」
「えぇ。私も性格の悪さが露見する前は週に二回のペースで告白されていたけれど、振ったらすぐに去るものよ」
いやめちゃ自慢してくるな
「なら西城が立ち尽くしていた理由は分からないって事だな?やれやれ生徒会長さんもまだまだだな」
どうせ怒らないし煽ってみるか
「ふふ。それで煽ってるつもりなのも可愛いわね蓮くん」
案の定、九条は顎に手を当てて嘲笑っているかの様に俺を見つめてきた
「じゃあ分かんのかよ…」
「分かるわよ…ここは人気が少ないしきっとフラれた腹いせに襲われるのが怖かったのよ。だから背を向けて立ち去らなかった…」
「あー…西城なら確かにその通りだな…」
「あら?…蓮くんってばあの子と話した事あるの?」
窓から西城を見つめていた九条は、突然俺のことを不安げに見上げてきた
「まぁあるが…」
「そう。ところで柔道部の半数を病院送りにしたのって誰なのかしら…」
「いや突然なんだ。知らんけど」
俺の中ではそんな事あったなー程度だし、なんなら話に聞いただけだ
「そう……ならいいのよ…」
九条の突然の話題転換より、俺は少しだけ西城が心配だった。思えばここ最近全然構ってやれてない気がする
アイツにとっては余計なお世話かもしれないが、転校生仲間がえらい目に遭うのは見てらんないしな
「ん…」
「ん?…」
「ちょっと待てよ…」
「ちょっと待てよ?…」
いちいちマネすんなよ…てかそろそろ腕が限界
「川島っていうボディーガードが居たはずだが…」
「ボディーガール?…」
「おまえちょっと黙っとけ」
アレが居たから告白とかされないかと思っていたが、そうじゃないのか?
「なぁ。女子二人組が毎日一緒につるんでるって結構男子が近寄るハードルって高いはずだよな?」
「………」
お姫様抱っこで抱えたままの九条に話し掛けるが、返事は何も返ってこない
「どうした?」
「………」
そっと顔を背けて無視を続ける九条だが、俺の腕もそろそろ限界なのでゆっくりとその場に降ろすことにする
「おーい。無視すんなー」
「………」
目の前で手を振ってもなんの反応も示さない。もしかして黙っとけって言ったからか?
「はぁ…次無視したら胸揉むぞ?…」
「そうね。結構ハードルは高いと思うわ。でもだからといって告白されないとは限らないものよ」
「……おまえ自分が無視した事なかったことにするつもりか?」
「なんの話かしら?」
すっとぼけて会話を続ける九条の後ろに回り、俺は背後から体を抱きしめる
「あら素敵…」
「おまえがそのつもりなら一揉み二揉みされても文句はなしってことで」
謝罪もなしとは致し方ない。屑だから許して
そして俺の指先がそっと九条の胸に触れた時、勢いよく手首を掴まれて一揉みすら阻止される
「汝、姦淫することなかれ」
呟くように不穏な言葉が聞こえたが、一瞬のパイタッチで俺が終われる訳がない
つまり隙を見つけて一揉みでもしてやらないと気が済まないって事だ




