95話 バブちゃんになっちまう
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「ようやく終わったか…」
チャイムの音が鳴り終わると同時に、教室のあちこちで気の抜けた溜息が聞こえた
隣に座る黒瀬からもクソデカ溜息が聞こえ、それから舌打ちをした後に机に突っ伏してしまった
お疲れさんと言いたかったが今は放っておいていいだろう
正面に掛けてある時計を見るとまだ11時50分。普段なら四限目がある時間だが、今日はここで終わりだ
後の時間は昼休みという名の自由時間で、13時までに下校すればいい
「うっし行くか」
この長すぎる自由時間で勝手に帰ってもいいが、俺には行きたい所がある
そう。生徒会室だ
九条のお弁当を食べてまったりしたいってことよ!
勢いよく教室から飛び出して、前を歩いているデブにタックルをかましながら通り抜ける
「べひょぉぉ!」
タックルでデブのポテチが舞い上がるが知ったことじゃない。そんな事より九条の態度が以前と変わっていないなら俺は精一杯甘えると決めている
たぶん依存してダメになるかもしれないがそれがなんだっていうんだ。俺には毎日癒しが必要なんだ!
「とまぁ勢いよく飛び出したのはいいが、俺アイツのクラス知らねーし」
この前みたく走って抱きついてしまってはよくない。運悪く男に抱きついたら死ねるしな
「先に生徒会室にでも行くか…」
二階しか特別棟への渡り廊下はない。その為俺が二階に降りるのは必然な訳だが…
二階に続く階段を降り、トイレの横を通り過ぎた時だった
ざわざわ ざわざわ
「ん?なんか騒がしいか?」
2年の廊下はヒソヒソ話が絶えなく響き、多くの女子が廊下に集まっていた
渡り廊下は右側だし、わざわざ左手に並ぶ教室前を通る意味もないし興味もない
「あの転校生調子乗りすぎじゃない?…」
渡り廊下に脚を踏み入れた時、まさかの俺の愚痴が聞こえて一瞬で殺意が湧いてきた
だが俺のイライラゲージ上限はルナのアホで鍛えられている。この程度ならもう我慢できる
それでも話の内容が気になって、廊下の壁に寄りかかった
「駅で生徒会長に暴言吐きまくったらしいよ?」
「マジやばいよね……会長は何も言い返さなくて大人の対応だったって聞いてるし…」
俺が九条に駅で暴言?…そんな事あったか?
「川島さんもあんなのほっとけばいいのにね…」
「一人にしたら三年のレイパーにまた襲われそうになるからじゃない?」
川島?そんな友達は俺にはいないしこれは西城の話か。しかも大した問題でもないしどうでもいいか
「しょうもな。はよいこ」
♢♢♢
人気が全くない静かな特別棟の廊下を誰ともすれ違わずに生徒会室の前に着くと、中から僅かだが声が聞こえてくる
「先来てたのか」
さっきも盗み聞きしたが、もっかい盗み聞きしたろうと思う。性格悪いから許して
「サッサとこっちまで持って来なさい」
「「は、はい」」
「…貴方達…力無さすぎよ…」
「お、重くて…」
「会長みたいに力持ちじゃないもので…」
「はぁ…分かったわよ。ゆっくりでいいから早くなさい」
いやそれどっちなんだ?てか鎌田くん達に何を運ばせてるんだ?
「あの…配置は業者さんがやるんじゃ?」
「校内に生徒が居るからって学校側が断ったらしいわ。あっ、もう少し右よ」
「あの…なんでこん「ありがとう鎌田くん」
「どうしてこんな暗いと「もう帰っていいわよ」
質問黙らせて帰らせるとかマジか……これが九条の他の人間に対する態度なのか
暫くするとドアが開き、鎌田くん達が俺を見ながらペコペコと頭を下げて通り過ぎていった
そーいえば鎌田くん達は後輩だったっけな
「蓮く〜ん。ほらこっちにおいで」
通り過ぎる鎌田くん達を見つめていると、九条は微笑みながら“こっち来て“と指先を猫みたいに丸めてちょんちょんと手招きしてきた
いやかわよ
「お、おう」
生徒会室に入りながら視線を泳がせて配置された何かを探すがどこにも変化はない
一体何を置いたんだ?何も変わってないように見えるが
「もー蓮くんってば。…そんな探さなくても今から案内するから大丈夫よ」
「おう…よく分かったな…」
九条に手を引かれて付いていくと、書棚同士の隙間にソファが置かれていた
え?棚同士の隙間にソファ置くとか聞いた事ないが!?しかもご丁寧にお弁当を広げる為の小テーブルまであるが?
「どう?少し薄暗いし狭いかもしれないけど、蓮くんってお弁当食べたら眠そうな顔してるじゃない?だから先週の木曜辺りに発注しておいたのよ」
いつもは椅子に座って繋ぎ合わせた長テーブルに弁当を広げて二人で食べる。昼の眠気もポカポカ陽気あってのことだと思うが…
だと言うのにこんな薄暗いところで毎日二人で過ごそうって言うのか?雰囲気作りに来てないか?
「あ〜確かに眠そうな顔してるかもしれんけどさ。俺が横になる為に買った訳じゃ……ないよな?」
「?…蓮くんの為に買ったわ」
「…お、俺が朝挨拶しなかったらコレ使わなかったのか?…」
「えぇ。ゴミになっていたわね」
「そ、そうか。なんか安心したわ」
俺はお弁当だけではなくソファを救えて良かったよ
「それじゃ、どうぞお先に座って?」
「じゃちょっと失礼して…」
ゆっくりとソファに腰を降ろすと座面がわずかに沈み、背中を預けると硬すぎず柔らかすぎない感触が心地よい
「さいっこうだな……はぁ…」
思わず息がこぼれるほどだ
「あら、これは凄いわね。寝心地もきっといいと思うわ」
「だな。人をダメにするソファだわこ…………」
ソファは棚を挟んで横向きに置いてあり、俺はソファの奥側に座っている。右には壁で後ろには棚。前には小テーブルで左にはいつの間にか九条だ
うん?これ九条が出ないと出られなくないか?
「あら、どうしたの?お弁当食べたい?」
九条はすっとぼけてはいるが、俺を先にソファに座らせたのはたぶん逃さない為だろうな
「あ、あぁ。そうだな…」
手に持っているお弁当を机に置いて、九条は俺の方へと少しずつ距離を縮めてくる
「それじゃ食べましょう」
「ああ。いただきます」
♢♢♢
昼食を済ませるといつも通りの眠気がやってくる。昼の陽気に当てられなくても案外眠気はくるみたいで、いつもなら眠気覚ましに会話をしてくれるが…
今日の九条は眠気を誘うように無言だった。
「眠かったら横になっていいのよ?」
「いやそうは言ってもな…」
九条が退いてくれないと寝るにはちょっとスペースが足りないんだよなぁ…
「私の膝枕じゃダメかしら?」
別にダメとは言っていないに、九条は不満と不安が入り混じったような表情で尋ねてきた
「もしかして最初から膝枕するつもりで横になってもいいって言ったのか?」
「そうよ?ほら早く…おいで…」
自分の太ももを手のひらでトントンして誘ってくるのは反則じゃないでしょうか
「…まじか…」
眠気で働かない頭を置き去りにして、俺はただ甘い言葉に誘われるまま九条の太ももに頭を預けた
後頭部から伝わる温もりと柔らかさに更に眠気が加速してきていよいよ眠気が限界だ
「こんなんじゃバブちゃんになっちまうよ…」
「ふふ。そうなっても相手してあげるわよ」
どんな顔でそんな甘い言葉を放っているのか気になって薄目で確認しようとしたが……
目を開けてもおっぱいしか見えないのでもう寝ることにした




