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75話 でっか

♢♢♢



「ここか…」


すれ違う通行人に聞いてなんとか桜丘学習図書館までやって来た


ウチの家から少し歩いた程度でよかった。駅より遠かったらどうしようかと思った所だ


桜丘学習図書館は、真っ白な外壁をした落ち着いた雰囲気の建物だった


正面は大きなガラス張りになっていて、中の読書スペースや吹き抜けのロビーが外からでも見える


「結構子供多いな…しかもうるせえし」


外には数脚のベンチがあり、子供たちがノートを広げてゲラゲラと笑ったりしている姿も見られる


流石に注意した方がいいか?…いやほっとくか


「とりあえず黒瀬を探すか…」


正面の自動ドアから中に入ると、静かだと思っていたエントランスホールですら少しざわついている


奥の児童書コーナーが賑わっているようだ


「ねぇお母さんこれ見て!これ借りよ!」


「こっち来なさい早く。変質者が居るから帰るわよ」


「フィギアぺろぺろするの最高だお!お!うおお!れろれろ!んんおゔ!」


どこかで聞いた事のある豚声が耳に響いたが、気にせずエントランス脇に設けられた階段を登っていく


「んお!んおゔ!舐め飽きないお!いくらでもーー


段を上がるごとに豚声は遠のいて、代わりに鉛筆の走る音やページをめくる音が耳に入ってくる


そして二階の踊り場に差し掛かると、廊下に寄りかかるようにして立っている一人の女の子が居た


「あっ佐藤くん」


目が合った瞬間、恥ずかしそうに顔を赤らめて小さく手を振るのは黒瀬だ


「なにちょっと可愛らしく手振ってんだよ」


「か、か…かわいい?…そっか…私も遂に女の子としてカウントされたんだ…」


「いやおまえは誰がどう見ても女の子だろう」


俺は胸元が控えめに開いた花柄のワンピースを見ながらそう言った。


気合いが入っているのか、薄手のカーディガンを肩から掛けていてデートにでも来たのかという感じだ


「…そう…よかった…よかったよぉー…」


何故か黒瀬はへにゃへにゃと階段の踊り場にへたり込んで床に手をついた


「いやおまえどうした?体調悪いのか?」


「そ、そうじゃないけど…そうじゃないんだけど…」


「…なら立てよ。ほらいくぞ」


そこら辺の優男じゃないからこんな対応なのも仕方ない。階段の踊り場は迷惑だしな


「うん…」


返事はしても、なかなか立ち上がろうとしない黒瀬の腕を掴んで俺は階段に脚をかけた


「ちなみに分からんとこあったら教えてくれ」


こんな態度を取っているが、俺の方が絶対に地頭悪い


「うん。…あ、あのお昼ご飯はどうしよっか?」


そーいえばスマホのバッテリーがイカれてて返信出来なかったんだ


「すまん。返信出来なくて。どっか食いいくか?」


「えっと…………」


階段を上がり切った所で黒瀬は脚を止めた


「どした?」


「…お、お弁当作って来たから一緒にどうかな?」


「…マジか…」


俺達そんな関係だっけ?って言う意味の発言だ


「うん…マジだよ?…」


「お、おう。じゃ先にちょっと食べるか。ありがとな」



♢♢♢



ほかほかとした昼下がり。図書館の外のベンチに並んで腰を下ろす


黒瀬は鞄から弁当箱を取り出して、ふたを開けて中を見せてくれた


「もしかしたら食べて来たと思って、ちょっと少なめなんだけど」


朝ごはん遅かったし逆に助かる


「ああ。連絡返せなかった俺が悪いしな。全然大丈夫だって」


「…どうして昨日は連絡返してくれなかったの?」


別に怒ってる訳じゃないと思うが、寂しそうなその声音に思わず息を呑んだ


「スマホのバッテリーが壊れたんだよ。だから今もスマホが使えなくてさ。……悪かったよ」


「…そっかぁ…そうだったんだ。よかったよかった」


何も良くないが、さっきと打って変わってにんまり笑顔の黒瀬に何か言うのも野暮かもしれない


「それじゃはい。どうぞ」


自分の膝に乗せていた弁当を、黒瀬は俺の膝に移動させてきた


「お、おう。ありがとな」


この際そんなお腹空いてない。とか言える訳がないし観念して中を見る


少し醤油が効いているであろう断面が茶色い卵焼きや、サバの塩焼きがある。


そして小さな仕切りの中には、煮汁を含んだしいたけと、ごぼうやこんにゃくが収められていた


男子高校生の大好物。唐揚げはなし…と


「唐揚げなくてごめんね…」


え、心読まれた?


「そんな事思ってない。……んじゃ頂きます」



卵焼きを箸で摘んで口に運ぶが、全く同じシチュエーションに、一瞬だけ九条の凛とした顔が思い浮かんで手が止まってしまった


「…どうしたの?…食べたくない?…」


「いや違うって。食べたい食べたい。超食べたい」


そう言って卵焼きを食べる


「美味しいな…」


思わず本音が漏れると、黒瀬は照れたように笑って俯いた


「そ、そう。よかった…」


「…でもなんで作ってくれたんだ?」


「えっ?…えっと、だってせっかくのデートだし?」


「…おう…そうか…」


まぁそう思うからこそ、服装に気合いが入っているんだろうな


それにしてもこれデートだったのか。今から一緒に勉強するだけならデートじゃなくないか?


「…なぁ、あのさ…」


コレってデートじゃないと思うんだがーー


と言いたかったが、脚をぷらぷらさせてご機嫌の黒瀬にそんな事は言えなかった


「うーん?どーしたの?」



不思議そうに小首を傾げて見上げる黒瀬に目もくれず、この角度でしか見えない深い谷間に目が行く


「でっか」


あっやべ

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