第45話:人力兵器の総攻撃と不屈の長距離砲
補給基地最深部の耐爆倉庫に封鎖されていたネオ・ロボティクス社製の未投入軍用ロボットおよび自律型攻撃ドローン——合計約200機を一傷も与えずに無傷奪還・覚醒させるという歴史的大勝利から数日。
サジール首都の大統領府・作戦司令室には、狂気と絶望に満ちた悲鳴が響き渡っていた。
「バカな……バカなバカなッ! 我が軍の誇るAI兵器約200機が、一砲も放つことなく丸ごと奪われ、敵の防衛戦力に変わっただと……!?」
サジール軍事政権の首領は血走った眼で拳を机に叩きつけ、激怒のあまり全身を震わせた。
「ええい、許さん……! こうなればAI兵器に頼るな! 手動操縦の旧式ドローン、手動戦闘機、重装甲車、砲兵部隊……我が軍が保有するすべての人力兵器をかき集めろ! 前線基地を総爆撃で跡形もなく叩き潰せ!!」
狂乱した首領の絶対命令が全軍へと下された。
翌朝。荒涼とした熱砂の荒野に、地鳴りのような重低音が轟いた。
「ラーマン大佐! 敵の大規模部隊が接近してきます! 前線基地へ向けて進軍中!」
前線基地の作戦幕舎に、青ざめた人民軍兵士の叫びが飛び込んできた。
作戦地図を囲んでいたカレンとラーマン大佐の表情が険しく引き締まる。
「AI兵器を失い、完全に後がなくなった敵軍が、残りすべてで総力を挙げて攻め込んできたか……!」
ラーマン大佐が重厚な声で言った。カレンが小銃の弾倉を確認し、決意に満ちた瞳で頷く。
「逃げるわけにはいかないわ。この基地と、古代石膏要塞シェルターの子供たちを守り抜くのよ!」
『了解デス、カレン。背部ノ《遠距離重砲》ヲ展開シマス』
シオンの重厚な合成音声とともに、シオンの背部アタッチメントに格納されていた超大型の狙撃兵装——《遠距離重砲》がスライド展開された。チタン合金製の重厚な砲身がシオンの右肩にがっしりと接合され、青いセンサーアイが激しい閃光を放つ。
「全軍、防衛配置につけ! 敵の総攻撃を迎え撃つぞ!!」
ラーマン大佐の号令とともに、連合軍の死闘が始まった。
直後、上空と地上から怒涛の砲爆撃が前線基地と避難所周辺へ降り注いだ。
サジール国軍が放った手動操縦の旧式ドローン群と手動戦闘機が、上空から猛烈な爆撃を敢行。地上からは重装甲車と砲兵部隊が手あたり次第に高密度火砲を叩き込んでくる。
「くっ……! 火力が桁違いよ! 避難所への着弾を防ぐのよ!」
カレンが小銃を構え、押し寄せる敵歩兵部隊へ精密射撃を叩き込む。しかし、途切れなく降り注ぐ榴弾の爆風と飛散する砲弾破片が、防衛ラインを容赦なく削り取っていく。
「カレン、危険デス!」
爆風がカレンを襲う瞬間、シオンが巨体を滑り込ませ、剛性チタンシールドを掲げて爆風と金属破片を完全に遮断した。
(カレンには指一本触れさせない……! どんな高密度火力であろうと、僕がすべてを受け止めて見せる!)
シオンの胸の奥で、ユウキの魂が燃え上がっていた。
しかし、攻撃は一日では終わらなかった。サジール国軍は交代制で絶え間なく砲爆撃を浴びせ続け、戦火は二日、三日と不休で続いていった。
「はぁ……はぁ……。敵の弾薬、一体どれだけ残っているの……!?」
不眠不休の連続戦闘で、カレンの吐息が荒くなる。人民軍の兵士たちも極限の疲労に達し、防衛ラインは薄皮一枚の死闘を強いられていた。
「カレン、限界デス。敵ノ航空戦力オヨビ重装甲車ヲ遠距離撃滅シ、敵ノ攻勢軸ヲ粉砕シマス」
シオンが前線へと歩み出た。右肩に接合された《遠距離重砲》の超精密光学センサーが、空と荒野の遠方を一瞬でスキャニングする。
上空では、急降下爆撃を狙う敵の旧式戦闘機と手動ドローン編隊が音速に近いスピードで旋回していた。
『照準固定。高精度演算完了。敵航空機ノエンジン部、一撃必殺デ粉砕シマス』
シオンの高度戦術演算AIが、風速、湿度、弾道特性、そして敵機の機動パターンをコンマ一秒で完全計算。
《遠距離重砲》から放たれた超高速徹甲弾が、熱砂の空を一直線に切り裂いた!
数キロ先の空中で旋回していた敵戦闘機の右エンジンへ吸い付くように直撃! 凄まじい大爆発とともに、敵機は火焔の尾を引いて熱砂へと墜落していった。
「な……何だと!? 数キロ先の旋回機を狙撃で撃墜しただと!?」
旋回していた手動ドローン編隊が混乱に陥る。シオンは容赦なく砲身をスライドさせ、次々とトリガーを引いた!
空を切り裂く一閃の狙撃音が響くたび、上空の手動ドローン群がエンジン部を正確に撃ち抜かれ、次々と爆炎を上げて墜落していく!
「次は地上の重装甲車部隊デス!」
『了解!! 次ナル敵装甲車部隊ヲ撃滅シマス』
シオンは視線を地上へと向けた。遥か遠方から前線基地へ砲撃を浴びせかけていた敵の重装甲車3両。
一発の徹甲弾が重装甲車の最厚部装甲をあっさりと貫通し、内部のエンジンブロックを破壊! 重装甲車は激しい黒煙を上げて沈黙した。
さらに残る2両の重装甲車も、砲身の先端や車体中央を正確に撃ち抜かれ、完全に爆砕・沈黙したのだった!
「すごい……! シオンの狙撃で、敵の重火器と航空戦力が次々と壊滅していくわ!」
カレンが歓喜の声を上げる。
シオンの神業とも言える遠距離重砲スナイピングにより、サジール国軍の突撃軸は完全に崩壊。激しい砲撃に晒されていた人民軍の兵士たちから、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「今だ! 残存する敵歩兵部隊を押し返せ!!」
ラーマン大佐の号令とともに、息を吹き返した人民軍と、復旧された元・軍用ロボットたちが一斉に反撃を開始! 支柱を失ったサジール国軍の歩兵部隊は、恐怖の悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように敗走していった。
『砲身冷却完了。最後ノ敵部隊ヘ向ケ、精密照準射撃ヲ実行シマス』
シオンが最後の一砲を放ち、遠方の敵砲兵陣地を完璧に沈黙させた。
数日間に及んだ激しい総力戦の砲声が、ついに静かにやんだ。
荒涼とした荒野には、焦げた煙と静寂だけが漂っていた。
「ラーマン大佐! 敵軍の通信を傍受しました! 数日間の無差別総攻撃により、サジール国軍の重火器、弾薬庫、航空燃料は完全にお底をついた模様です! 敵軍は首都周辺の自陣地防衛すら危うい状態まで疲疲・激減しています!」
報告を聞いたラーマン大佐が、感無量の表情で空を見上げた。
「勝った……! 我々はサジール国軍のすべての総力を耐え抜き、勝利したのだ!」
人民軍の兵士たちと避難所の住民たちが抱き合い、歓喜の涙を流した。
夕闇が迫る荒野の中、熱砂の風に包まれながら立ち尽くすカレンとシオン。
「やったわね、シオン……。敵の狂乱の総攻撃をすべて防ぎ切ったわ。これで、サジール国軍の戦力は完全に崩壊したわね」
青く優しく輝くシオンのセンサーアイ。シオンの胸の奥で、ユウキの魂があたたかな達成感に満たされていた。
(僕たちの不屈の絆が、みんなの未来を守り抜いたんだ……!)
「さあ、シオン。残すはサジール首都の解放だけね。一緒に行きましょう!」
『ハイ、カレン。私タチノ絆ト不屈ノ意志ガ、熱砂ノ荒野ニ確カナ未来ヲ切リ拓キマシタ』
燃えるような橙色の夕日に照らされながら、二人のバディは首都攻略への確かな手応えを胸に、まっすぐな瞳で前を見つめていたのだった。




