第46話:一時の休息と繋がる絆
狂乱したサジール軍事政権が保有する全「人力兵器」を投入して仕掛けてきた、怒涛の大爆撃と砲撃の嵐。不眠不休の不屈の防衛戦と、シオン背部の《遠距離重砲》による連続狙撃によって敵の航空戦力と重装甲車部隊をことごとく壊滅させてから、丸一日が経過していた。
あれほど熱砂の荒野を揺るがしていた爆音や地鳴りのような着弾音は嘘のようにやみ、前線基地と古代石膏要塞シェルターの周囲には、静かで穏やかな砂漠の風だけが吹き抜けていた。
「大佐、敵陣地の通信傍受および偵察ドローンの最新報告がまとまりました! 首都周辺のサジール国軍は手動ドローンや重装甲車の弾薬、航空燃料を完全に使い果たし、現在は各陣地へ引きこもって要塞化を図っています。当面のあいだ、こちらへの再攻撃を実行する余力は皆無です!」
前線基地の作戦幕舎で報告を聞いたラーマン大佐が、深く胸をなでおろした。
「よし……! 我らは敵の総力を防ぎ切り勝利したのだ。全軍一時休戦とし、戦力の再編成と基地・シェルターの防衛網再整備に入る!」
ラーマン大佐の力強い指示のもと、前話までに無傷奪還・再起動に成功した約200機の元・軍用ロボットおよび自律型攻撃ドローン部隊が本格的に活動を開始した。
人道保護プログラムとガードレールが復旧されたロボットたちは、整然とした動きで崩壊した前線基地の瓦礫撤去や土嚢の積み上げ、避難所への水と食料の搬入作業を完璧にこなしていく。さらに、一部の警備用ドローンは要塞の全周360度を常時監視する自動哨戒ルートにつき、一撃の隙もない鉄壁の防衛網が完備されたのだった。
「ロボットたちがこれほど手際よく復興と警備を進めてくれると、みんなの負担が本当に減るわね……」
復興作業を見守っていたカレンが、隣に立つ相棒へ感謝の微笑みを向けた。
『再稼働シタ200機ノユニットハ全テ正常駆動中。防衛網ノ構築完了率ハ九十九パーセントデス』
重厚な剛性チタンシールドを足元に下ろしたシオンの青いセンサーアイが、頼もしそうに輝いていた。
午後、砂漠の強い日差しが和らぎ始める頃、カレンとシオンは一時休戦を利用して、久々の身心の調整と休息に入った。
「ふう……久しぶりに、こんなに温かいお茶を落ち着いて飲めた気がするわ……」
作戦幕舎の簡易ベッドに腰掛け、カレンがハーブティーのハーブの湯気を愛おしそうに見つめる。数日間の過酷な死闘で擦り切れていた神経が、温かな水分とともに少しずつほぐれていくのを実感していた。
そのすぐ横では、人民軍の熟練メカニック技師たちが、シオンの巨体の詳細な点検・調整作業を行っていた。
「シオン、右肩のアクチュエーターと関節油圧シリンダーの清掃、ならびにオイル交換が完了したぞ! 激しい砂嵐で微粒子がかなり入り込んでいたが、シリンダーの摩耗や損傷はゼロだ。さすがはネオ・ロボティクス社製の最新型特殊チタンフレームだな!」
「それから、背部の《遠距離重砲》の冷却用ラジエーター洗浄と光学センサーの校正も完璧だ。大容量バッテリーへの急速充電も98パーセントまで完了しているぞ!」
技師たちの温かい言葉に、シオンが丁寧に応答する。
『感謝シマス、技師ノ皆様。全システム最高効率駆動状態デス』
点検整備が終わり、技師たちが幕舎を後にすると、静かな夕闇が熱砂の荒野をゆっくりと包み込んでいった。
カレンとシオンは幕舎を出て、古代石膏要塞の屋上へと足を運んだ。夜空には、大都会では決して見ることのできない満天の星々が、宝石のように美しく瞬いていた。
「綺麗ね、シオン……」
夜風に髪をなびかせながら、カレンが星空を見上げる。
『ハイ、カレン。大気中ノ砲煙トチリガ収マリ、天体観測ニ最良ノ環境デス』
シオンの相変わらずの合成音声の解説に、カレンはクスリと可憐に微笑んだ。
「ふふ、相変わらず無機質な分析ね。でもね、シオン……あなたが隣にいてくれるだけで、私はどんな恐ろしい敵にも立ち向かえるの。いつも私を全力で盾になって護ってくれて、本当にありがとう」
シオンの胸の奥深く——厚いチタン装甲と電磁バリアに護られた量子核心の中で、元人間の青年・ユウキの魂があたたかな愛おしさと幸福感で満たされていた。
(カレン……僕の方こそ、君の笑顔と優しさがあるから、どんな苛烈な死闘でも立ち上がれるんだ。僕の命……ううん、この鋼鉄の身体が存在する限り、君を絶対に護り抜くよ)
言葉には出せないユウキの無償の誓いが、シオンの青いセンサーアイの柔らかい光となってカレンを温かく包み込んだのだった。
「カレンお姉ちゃん! シオン!」
静かな夜空の静寂を破るように、元気に駆け寄ってきたのは、シェルターで暮らす現地サジール国の少女・アミーラだった。
「アミーラ! どうしたの、こんな夜遅くに?」
カレンがかがんで目線の高さを合わせると、アミーラは大事そうに抱えていた木製のトレーを二人に誇らしげに差し出した。
「あのね、シェルターのおばさんたちと一緒に、温かい野菜スープと焼きたてのパンを作ったの! ずっとみんなのために戦ってくれたカレンお姉ちゃんに、一番に食べてほしくて!」
「まあ……! ありがとう、アミーラ!」
湯気が立ち上る香ばしいスープを受け取り、カレンがスープを一口口に含む。地元のスパイスと新鮮な野菜がじっくり煮込まれた優しい味わいが、疲れた身体の隅々にまでじんわりと染みわたっていく。
「とっても美味しいわ! 身体の芯からポカポカ温まる……!」
「本当!? よかったぁ!」
アミーラが弾けるような満面の笑顔を見せた。そして、大きなシオンの足元へ駆け寄ると、その剛性チタンの脚にぎゅっと抱きついた。
『危険デス、アミーラ。装甲表面ガ冷エテイル可能性ガアリマス』
『大丈夫だよ! シオンは、世界で一番温かいんだから!』
無邪気に笑うアミーラを見つめ、カレンとシオンは顔を見合わせた。
「あのね、カレンお姉ちゃん。私ね、こうして過ごしていると……本当のお姉ちゃんと一緒にいるみたいで、すっごく安心するの。お父さんとお母さんを亡くして悲しかったけど、カレンお姉ちゃんがいてくれるから、私、もう寂しくないよ!」
アミーラのまっすぐで澄んだ瞳から零れた愛おしい言葉に、カレンの胸が強く熱くなった。カレンはアミーラをそっと抱きしめ、その小さな頭を優しく撫でた。
「ありがとう、アミーラ……。私たちもね、アミーラのことが本当の妹みたいに大好きなのよ」
(アミーラの心が打ち解けて、本当に良かった。カレンもうれしそう!)
シオンが大きな鉄の手をそっとアミーラの頭上に掲げ、優しいセンサー光で包み込んだ。
夜が更け、アミーラが満足そうにシェルターの寝床へ戻った後、二人は要塞の屋上から静まり返ったサジールの町並みを見つめていた。
「子供たちが安心して笑っていられる世界……それこそが、私たちが戦う理由なのよね」
カレンが小銃をぎゅっと握りしめる。
「サジール国軍の弾薬と重火器は底をついた。次はいよいよ、サジール首都の大統領府への最終解放作戦……この戦争を終わらせる最後の決戦よ」
『了解デス、カレン。敵首都陣地ノ攻略計画演算ハ完了シテ居リマス。我ラ連合軍ノ勝算ハ極メテ高イデス』
「ええ。サジールの人々を独裁政治から解放し、本当の自由と平和を取り戻す。そして、アミーラたち全員がずっと笑顔で暮らせる未来を作るのよ!」
カレンの瞳に、決して折れることのない不屈の決意の炎が宿っていた。
シオンの胸の奥で、ユウキも力強く頷いた。
(行こう、カレン。君と僕の絆があれば、どんな強敵が塞ぎ立とうと切り拓ける。明日、僕たちの手で新しい平和の光を掴み取ろう!)
『ハイ、カレン。私タチノ不屈ノ絆デ、自由ト平和ノ熱砂ヲ切リ拓キマショウ』
満天の星空の下、最高状態に整った心身と不屈の絆を胸に、カレンとシオンは明日訪れる最終決戦の刻を静かに待つのだった。




