第44話:長い戦いの末に取り戻した父の願い
サジール国軍から軍用ロボットを無傷で奪い取り、人道支援ロボットへと塗り替える「おびき寄せ作戦」の成功から数日。前線基地と復興を進める古代石膏要塞シェルターには、つかの間の安らぎと活気が戻りつつあった。
しかし、敵施設を監視していた人民軍の味方偵察部隊から、緊迫した重要報告がもたらされた。
「ラーマン大佐! 敵補給基地に動きがありました! 敵軍はネオ・ロボティクス社製の軍用ロボットおよび自律型攻撃ドローン——合わせて約200機におよぶ戦力を、基地最深部にある耐爆構造の大型倉庫へ次々と運び込んでいます!」
偵察兵の報告で作戦幕舎の緊張が一気に高まった。
ネオ・ロボティクス社からサジール国軍へ輸入されたロボットおよびドローンの総数はおよそ400機。その約半数にあたる200機が一箇所に集められているのだ。人民軍側がこれまでに無傷奪還・再起動できたのは、ロボットとドローン合わせて約70機程度に過ぎない。
「200機もの戦力をわざわざ一箇所に集めるなんて……一体何のつもりかしら?」
作戦地図を見つめるカレンが真剣な表情で思案する。その傍らに佇む鋼鉄の相棒・シオンの青いセンサーアイが静かに点灯した。
『恐ラク……私タチニコレ以上ロボットオ奪ワレナイヨウ、プログラムノ根本書キ換エニ着手シタノデハナイデショウカ』
「プログラムの書き換え……!? 制御コードそのものを改造して、車載アンテナのジャマーパルスが効かない悪意の殺人兵器に塗り替えるつもりね!」
ラーマン大佐が重厚な机を叩いて悔しさを露わにした。
「ぬうっ……! もしその200機がジャマー無効の殺人兵器として前線へ投入されれば、これまでの勝ち目は一気に瓦解する! だが逆に……プログラムが書き換えられる前にあの倉庫を強襲し、200機を丸ごと奪取できれば、完全に形勢を逆転できる絶好の好機だ!」
「行きましょう、今すぐ電撃強襲を仕掛けるのよ!」
カレンの力強い宣言にラーマン大佐が首を振った。
「待て、カレン。敵基地の最深部へ二人だけで潜入するのはあまりにも無謀だ。私が人民軍の突入部隊を率いて同行する。我々が正面から強襲を仕掛け、敵の警備兵を引きつけて足止めしている間に、君とシオンで最深部倉庫へ侵入してくれ!」
「了解しました、ラーマン大佐! シオン、行くわよ!」
『了解デス、カレン。人民軍ノ皆サマノ支援ノ元、電撃強襲ニテ倉庫ヲ制圧シマス』
シオンの重厚な合成音声が作戦幕舎に響き渡った。
漆黒の夜闇を突いて、サジール国軍の補給基地へと接近する連合軍の突入部隊。
「全員、射撃開始! 敵の注意を引きつけろ!!」
ラーマン大佐の号令とともに、人民軍の装甲車が一斉に主砲と重機関銃を掃射! 夜空を焦がす激しい閃光と銃声が弾けた。
「襲撃だ! 敵の人民軍だ! 防衛線を維持せよ!」
混乱したサジール国軍の警備部隊が正面ゲートへ殺到し、激しい銃撃戦が勃発した。敵の意識が完全に正面へ集中した隙を突き、カレンとシオンは影のように基地側面の搬入口へと潜入した。
「カレン、こちらだ!」
激しい弾雨の中、シオンが巨大なシールドを掲げてカレンへの射線を完全に遮断する。シオンの胸の奥で、元人間の青年・ユウキの魂が激しく燃え上がっていた。
(カレンには絶対に二度と怪我は負わせない! 僕がすべての弾丸を受け止めて、あの倉庫へ辿り着いてみせる!)
背後で響く激しい交戦音を背に、カレンとシオンはついに補給基地の最深部——重厚なチタン合金の耐爆門で固く閉ざされた大型倉庫の前へと辿り着いた。
「シオン、この門を突破して!」
『了解!!』
シオンが超高出力アクチュエーターを全開駆動させ、油圧シリンダーから凄まじい駆動音を響かせてチタン重門の隙間に両手をかける。不気味な金属悲鳴とともに分厚いチタン門が力任せに抉り開けられた!
ひんやりとした冷気が漂う広大な倉庫内部。
異様な破砕音と衝撃に、奥のメイン操作台でキーボードを叩いていた白衣のエンジニアたちと敵指揮官が驚愕して一斉に振り向いた!
煙の上がる壊れた門の向こうから、煙を払って現れたのは、剛性チタンシールドを掲げたシオンと、小銃を構えたカレンの姿だった。
無機質なラックにびっしりと収納された軍用ロボットと、天井のハンガーから吊り下げられた自律型攻撃ドローン——合計約200機におよぶ沈黙した殺戮兵器群の前に立つエンジニアたちが、蒼白な顔で金切声を上げる。
「な、何だ貴様たちは……!? どうやってこの耐爆門を打ち破った!?」
「そこまでよ! 全員、端末から手を離しなさい!」
カレンが小銃の銃口を突きつける。しかし、まだプログラムの書き換え作業自体は完全には終わっていなかった。間一髪、手動オーバーライドの書き込み完了前に滑り込んだのだ!
「く、くそ……! ここまで追いつめておきながら……!我々の兵器群を、貴様らごときに引き渡してたまるか!!」
狂乱した現地の敵指揮官が金切声を上げ、メイン操作台の側面に設置された赤く点滅する『非常用全爆破スイッチ』へ殺気立った手つきで指をかけた。200機のロボットとドローンもろとも、この倉庫全体を跡形もなく吹き飛ばす気だ!
(危険デス……! 自爆システムデス!)
シオンの高度戦術演算AIが、敵指揮官の指の筋肉の微小な収縮をコンマ一秒の精度で感知した。
『カレン! 指揮官ヲ射撃シテクダサイ!』
シオンの切迫した音声インジケーターが激しく明滅する。
カレンの思考が極限の集中領域へと研ぎ澄まされた。一切の迷いを削ぎ落とした銃口が吸い付くように指揮官へ向く。
静寂を切り裂く一閃の乾いた狙撃音!
自爆ボタンへ指が触れる直前、カレンの正確無比な小銃弾が敵指揮官の右肩を容赦なく撃ち抜いた。絶叫とともに崩れ落ちる指揮官。自爆スイッチは直前で完璧に阻止された!
「ヒッ……! た、助けてくれええっ!」
指揮官が崩れ落ちる光景を目撃したエンジニアたちは絶望の悲鳴を上げ、端末を投げ打って非常出口へと一斉に逃げ出した。
「ふう……危ないところだったわね。シオン、ナイスアシストよ!」
『了解デス、カレン。メインサーバーヘノ接続インターフェースヲ確保シマス』
シオンが太いチタンアームをメイン操作台の主端子へ直結。カレンがすばやく可搬型端末を接続し、安全プロトコルをダイレクトにインポートした。
「安全プロトコル、インポート完了! ガードレールおよび人道保護プログラムを復旧……再起動します!」
カレンが実行キーを強く叩き込む。
次の瞬間——倉庫を埋め尽くしていた200機の軍用ロボットとドローンが一斉に稼働音を響かせた。暗闇の中で眠っていたセンサーアイに、温かな青い光が次々と点灯していく。
カレンとシオンに向かって、整然と姿勢を正して深く礼を捧げる200機のロボット群。
(お父さん、ようやくお父さんの研究を取り戻せたわ!)
カレンは、心の中で歓喜の雄たけびを上げた。
(やった……! カレンの目的がようやく達成できた!本当に良かった!)
シオンの胸の奥で、ユウキもまた、魂が込み上げるような達成感と喜びに満たされた。
「さあ、みんな! ラーマン大佐たちの援護へ向かうわよ!」
『了解!! 全機、突破命令!』
シオン達の戦いはこれで終わらない。
戦争を目の前にし、現在の目的は民衆の平和を取り戻すことであった。
シオンの号令とともに、覚醒した元・軍用ロボットたちが門を脱出! 人民軍と合流して歴史的な大勝利を収めたのだった。




