第43話:車載アンテナと天空の防壁
サジール国近郊の通信検問タワー制圧から数日。通信検問タワーからの電波が届く範囲はせいぜい数百メートル程度であり、タワー周辺の敵を制圧したに過ぎなかった。首都や荒野の各地には、なおもサジール国軍の軍用ロボット部隊が多数潜伏していた。
「タワー周辺以外にも軍用ロボットたちは潜伏しているわ。このままでは復興を進める村や補給ルートが再び狙われてしまう」
作戦幕舎で地図を見つめるカレンが、真剣な表情で唇を噛む。その傍らに佇む鋼鉄の相棒・シオンのブルーのセンサーアイが、力強い光を湛えてカレンを見つめていた。
その時、日本のアーク・システムズの社長・天童湊から連絡が入った。
「カレンちゃん。通信検問タワーの制圧はお見事だったね。新しい装備を用意したよ。今、設計図を送るね」
天童の言葉と同時に、届けられた設計図を見ると、装甲車の屋根へ直接マウントできるほどコンパクトなアンテナだった。
「これは……小型のジャマーアンテナですか、天童さん!?」
「そうだ。通信検問タワーほどの広域拡散はできないが、この小型のアンテナは半径数十メートルの局所空間へ超高密度な解読パルスを集中照射できる。これなら敵の軍用ロボットを破壊することなく、完全に無傷のまま捕獲可能だね!」
天童の説明に、カレンの瞳が大きく見開かれた。
「無傷捕獲できれば、そのまま私たちの人道支援や防衛戦力として再利用できますね!?」
しかし、人民軍のラーマン大佐が懸念を口にした。
「だが天童殿、アンテナの有効射程は半径数十メートル程度……。敵の軍用ロボットをそこまで引きつけるには、誰かが危険を冒して誘い込まねばならんぞ」
「私とシオンがやります!」
カレンが迷いのない声で即答した。右肩の傷もすでに完治し、身体のキレを取り戻したカレンの表情には、刑事としての不屈の覚悟が宿っていた。
「私とシオンが敵の哨戒線を突破して、おびき寄せ役になります。追撃してきた敵の軍用ロボットを車載アンテナの待機ポイントまで誘導すれば……一傷も負わせずに無効化できます!」
『了解デス、カレン。私ガ貴女ノ絶対ノ盾トナリマス』
シオンの重厚で滑らかな合成音声。シオンの胸の奥で、元人間の青年・ユウキの魂が熱く燃え上がっていた。
(僕が敵の弾丸をすべて受け止めて、カレンには二度と怪我は負わせない!)
「あとこの電波は同じAIを搭載したネオ・ロボティクス社製のドローンにも有効だよ。これを基地や避難所に設置すれば厄介なドローンの撃退にも効果がある。パーツは現地でも入手可能なものばかりだから大量に製造すれば、ネオ社のロボットたちの脅威はほぼなくなるだろう」
本部では早速送られてきた設計図を基にアンテナの製造に着手した。
荒涼とした熱砂の荒野。カレンとシオンは、車載アンテナを搭載した装甲車を背後の岩陰に待機させ、自らは快速バギーに乗ってサジール国軍の遠方哨戒エリアへと侵入した。
前方から、不気味な関節駆動音を響かせて現れたのは、ネオ・ロボティクス社の軍用ロボット10機による哨戒小隊だった。
「発見されたわ! シオン、行くわよ!」
カレンが小銃を構え、敵の軍用ロボットの足元へ正確な牽制射撃を叩き込む。
敵の軍用ロボット群が、一斉に重機関銃とレーザー兵器を構え、猛烈な追撃を開始した。ドガガガガッ! と砂塵を巻き上げて迫り来る殺人機械の群れ。
「引っかかったわ! 車載アンテナの待機ポイントへ誘導するわよ!」
カレンたちがバギーを急旋回させ、後方へと後退する。追撃する敵の軍用ロボット群は、執拗に弾丸の雨を降らせてきた。
「シオン、後ろをお願い!」
『了解!!』
シオンが巨大なシールドを後方へ掲げ、追撃してくる敵の重機関銃弾とレーザーを弾き返す。
カレンとシオンの息の合った連携により、追撃する敵の軍用ロボット群は前方の罠に気づくことなく、岩陰の狭隘部へと雪崩れ込んでいった。
「今よ! ジャマー照射!!」
待機していた装甲車のアンテナから、青白い高密度電磁パルスが局所空間を包み込んだ。
追撃していた10機の敵の軍用ロボットが一斉にその場で急停止。センサーアイが点滅し、そのままガラガラと砂塵の中に崩れ落ち、完全な沈黙を守ったのだった。
「作戦成功……! 傷一つ与えずに、敵の軍用ロボットを無力化できたわ!」
カレンが歓喜の声を上げる。すぐさま端末を接続し、安全プロトコルをインポートした。
次の瞬間、沈黙していた10機の軍用ロボットたちのセンサーアイが、温かな青い光を湛えて静かに点灯した。武器をその場に置き、カレンとシオンに向かって静かに礼をするロボットたち。
(やった……! 敵の戦力を削ぎ落とし、無傷で味方に変えることができたんだ!)
ユウキの思考が歓喜に震えた。カレンとシオンの「おびき寄せ作戦」は、その後もサジール国の各エリアで繰り返し実行され、サジール国軍の軍用ロボット戦力は着実かつ劇的に剥ぎ取られていったのだった。
さらに、現地パーツで量産された据え置き型ジャマーアンテナは、前線基地、復興中の旧市街の村、そして「古代石膏要塞シェルター」の3拠点に緊急設置された。
直後、陸上戦力を失いつつあるサジール国軍が前線基地やシェルターを狙って放ったネオ・ロボティクス社製の自律型攻撃ドローン群が飛来した。
しかし、空を覆い尽くさんばかりに迫ってきた無数のドローン群は、拠点のアンテナから放射されたジャマー電磁波に触れた瞬間、一斉に制御を失って沈黙! 羽を折られた昆虫のように、次々と熱砂の上へと落っこちて無効化されたのだった。
「ドローン防空網、完全作動! シェルターと村の安全が確立されました!」
多国籍軍と人民軍の兵士たちから大きな歓声が沸き起こる。
ガードレールを復旧・再起動された元軍用ロボットやドローンたちは、重い水汲みバケツや物資コンテナの運搬、上空からの警戒パトロールを担当。過酷な労働から解放された住民や子供たちに、温かい水と笑顔が届けられていった。
アミーラをはじめとする子供たちも「ロボットさん、お水ありがとう!」と笑顔で駆け寄り、再起動した軍用ロボットの手を無邪気に握りしめる。
(僕たちの戦いは、ただ敵を壊すためじゃない……こうして人とロボットが分かり合える未来を作るためなんだ)
シオンの胸の奥で、ユウキの魂が込み上げるようなあたたかな感動に満たされていた。
その頃、サジール首都の大統領府・作戦司令室。
「何だと……!? 我が軍の誇るネオ・ロボティクス社製の軍用ロボットやドローンが、ことごとく無傷で奪われ、奴らの雑用係や水汲み係に塗り替えられているだと……!?」
ホログラムモニターに映し出された前線の報告を受け、サジール軍事政権の首領が拳を叩きつけて激怒していた。
「バカな……! 殺人兵器ロボットが、なぜこうも易々と敵の手先へと裏返るのだ! これでは我が軍の戦力が、そっくりそのまま敵の防衛・補給力に変わっているではないか!」
高官たちが青ざめた顔で震え上がる。陸の軍用ロボットも空のドローンも無力化され、サジール国軍の戦力比率は数日のうちに完全逆転を許していたのだ。
追い詰められた首領は、血走った眼で司令官たちを睨みつけた。
「ええい、こうなればAI兵器だけに頼るな! 手動操縦の戦闘機、重装甲車、砲兵部隊……保有するすべての人力兵器をかき集めろ! 前線基地を総攻撃で叩き潰せ!!」
首領の悲鳴のような叫びが、豪奢な作戦室に空しく響き渡った。
夕闇が迫るサジール国の荒野。
柵の木陰に佇み、橙色の美しい夕日に染まる前線基地と遠くの街並みを見つめるカレンとシオン。
「やったわね、シオン……。敵の戦力を削ぎ落として、みんなを守る力に変えることができたわ」
『ハイ、カレン。不屈ノ意志ト絆ガ未来ヲ切リ拓キマス』
青く優しく輝くシオンのセンサーアイと、カレンのまっすぐな瞳。決戦のサジール首都攻略へ向け、二人のバディは胸の中に確かな勝利の確信を抱いて佇んでいたのだった。




