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僕は最高の冒険者になるんだ!!

 アレンは15の時に家を出た。

「僕は最高の冒険者になるんだ!!」

 と、啖呵を切って威勢よく飛び出したが、実は口減らしのために自ら進んで家を出たというのが本音だった。ただ、冒険者を目指したのは本当だ。手に職を持たない学の無い田舎者の青年が街でやれることなどたかが知れている。冒険者になるというのは間違った選択ではない。


 この国では15歳以上という規定があるものの、誰もが勝手に冒険者を名乗れるものではない。


 まず初めに冒険者ギルドに登録する。

これを破ると”モグリ”の盗掘者として処罰される。だが、登録したからと言って勝手にダンジョンに入って行っていい訳では無い。まずは研修。そしてD級パーティーの見習い(荷物持ち)として半年は修業させられる。それでようやくF級冒険者と呼ばれるようになるのだ。

(そう言えば、メギドは荷物持ちとかしたんだろうか・・・する訳ないか・・。)

 冒険者にはS級からF級までの7段階あり、どんなに優秀であっても最初はFから始めなければならない。そしてD級までは真面目にやっていれば誰でも昇格することが出来る。なぜなら昇級は魔石のポイントによる加算で昇級されるからだ。

 (ちなみにパーティーを組んでいる場合は等比率(見習いを除く)でポイントが分配される仕組みである。)


 冒険者の間でよく言われるのが”C級の壁”である。

D級になると誰でもC級を意識するようになる。ただ、これには今までのように魔石のポイントによる加算だけでは昇級することが出来ない。

 C級になるにはギルドが用意するいくつかの実戦ミッションをこなさねばならない。それ故に万年D級に甘んじる者もいるし、無謀に挑戦して命を落とす者もいる。

 そして次に控えているのは”S級の壁”である。

S級になるには、王都で試験を受けなければならない。

 A級はただのベテランといった扱いだが、S級に至っては貴族に等しい名誉も与えられるからだ。

 この試験では現S級やSS級の冒険者が試験官となり、挑戦者と実戦形式で戦うのが通例となる。ゆえに異常なまでに狭き門となっている訳だ。ちなみにパーティーのランクをどうやって決めるかは、そのパーティー内の個人のランクによる。例えばS級パーティーと呼ばれるにはパーティーの冒険者にS級が70%いなければならない。

 つまり、<紅の翼>が真にギルド専属パーティーと呼ばれるには3人のS級を輩出しなければならないわけだ。


 アレンはF級冒険者の肩書を得ると、世話になったD級パーティーを抜け、ソロとして活動を始めた。それこそ働いて働いて働いて働いて馬車馬のように働いて瞬く間にE級に昇格すると、ソロでの限界を感じ、同郷のソナタとコンビを組むことになる。あまりにも凄まじい働きに”火の玉小僧ども”とまで揶揄され、またしても最速でD級に上り詰める。

 やがてC級の壁に阻まれた二人は、研修生だったシャールとエリザベスを仲間に加え、当時解散したC級パーティーにいたギタンとサブリナを加えてC級に上る。その後、一時は14人ものメンバーを抱えるまでになったが、取り分の矮小化(わいしょうか)によりパーティーは分裂する。ソナタを筆頭とする<鋼の牙>とアレンを筆頭とする<白炎の翼>である。(後の蒼い牙と紅の翼)

 そして現在に至る訳なのだが、アレンはC級に昇格した時の事がいまだに忘れられない。

 C級の認定を受けた時、ギルド長のブルーノに呼び止められ、アレンとソナタはブルーノと少しばかり話し合った。今までのような無謀な探索は慎むこと。知力を尽くしたパーティーでの戦略と戦闘方法。運営に当たるノウハウ。それら一通りをブルーノに説教された後にブルーノはこう言った。


「お前たちの剣は我流だろう?」

「ええ。でも特に不便は感じていません。魔物もちゃんと倒せてるし。」

「今はまだいいだろうが・・。これからB級、A級に上がっていくにつれ多分限界を感じるようになる。()()()()()()()()()()正式に剣術を習ったらどうかね? 良かったら適当な人間を紹介するが・・。」

 ソナタは何か思うところがあって、ブルーノの勧めで王都の剣術指南を紹介してもらったのだが、アレンは我流を固辞した。

 そのツケが今来ている。

  と、アレンは感じていた。

 あの時、自分がもっと強かったら・・・こうまで無様を晒さずに済んだかもしれない。

 名前だけのギルド専属などと、蔑まれずに済んだかもしれない。

 だが、もしかすると、その後悔を残したまま今日、一生を終えるかもしれない。

そう思えるほどの凄まじい殺気にアレンは(さら)されていた。


「やあ。」

と、その男は気さくにアレンに声をかけた。

ずるり・・・ずるり・・・という音は、右手に<藍の影>(アイシンク)の誰かの襟首を掴んで引きずって来ていた音だった。

「おっと。逃げないでくれよ。お友達は死んじゃあいないよ。気絶してるだけだ。」

 左の腰に剣を指しているところを見ると、剣を抜く気はないようだが・・。

「僕に・・・何の用だ?」

 自分でもはっきり分かるほどその声は震えていた。


 その男はメギド並みの長身で、異様なほど痩せていた。のっぺりとした顔立ちで、爆発したような黒髪のカーリーヘヤ。そして異常なまでに長い両手は膝に届くほどだった。

 その男はアレンを()め回すようにジロジロと見た。

   そして・・

「なーんだ。まだひよっこじゃないか。」

男は拍子抜けでもしたかのように、素っ頓狂な大声を発した。

「ガッカリだあ、ガッカリだよ。コズロフが殺られたと聞いたから、どんな奴か見てみたくなったんだよなあ。少なくともあいつを倒せるのはS級以上のパーティーだろう・・・・と、思ってたんだよォ・・。」

 男は本当にがっかりした様子で深いため気をついた。

「僕を・・殺すのか?」

「う~~ん。最初はね、そのつもりだったよ。でも、気が変わった。それに丸腰の人間を殺しても自慢にならないしねえ。」

 男は薄ら笑いを浮かべながら、引きずっていた<藍の影>(アイシンク)のバイエルをそっと地面に下ろした。そして、(きびす)を返すと、ゆっくりと暗闇の方へ向かって歩き出す。

「そうそう・・もっと強くなったら殺しに来てあげるよ。じゃあね、期待してるよォ。」

 甲高い笑い声が暗闇の中から聞こえてくると、アレンは力が抜けてへなへなと地面にへたり込んだ。そして、猛烈な吐き気に襲われ、盛大に吐いた。胃の中が空っぽになってキリキリと痛む。それでも吐き気が治まらず、鼻や目からも胃液と涙がしたたり落ちる。

 ハアハアと荒い息をしながら、アレンは地面に寝転んだ。

 星空は何事もなかったように静寂で、いくつもの流れ星が空を駆け抜けて行った。


「なーんだ。まだひよっこじゃないか。」

勘に(さわ)る甲高い声が耳の奥でまた響いた。

(クソッ! クソッ! クソッ!)

 強烈な胃の痛みにまた吐く。

 しかしもう酸っぱい胃液しか出てこない。

なにか、アレンの胸の中に熱いものが目覚めて、ブスブスとくすぶり始めた。

(クソッ! クソッ! クソッ!)

アレンはまた泣いた。声を上げずに泣いた。叫びたかった。

 すべての生き物を呪った。

 自分が不甲斐なく、何よりも弱い子供のように思えた。

(何で、何で、僕は弱い!)

悔しくて、悔しくて・・・・。

(僕は、誰よりも弱いのか! 僕はここまでなのか!!)

悔しくて、悔しくて・・・・また泣いた


 やがて涙が枯れると、アレンはヨロヨロと立ち上がった。 

 しかし、赤く充血した瞳の奥には、決意の光が小さく宿っていた。

































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