5 『霧の魔女』
数瞬待った。
「ここに」
綺麗な声がした。
白い霧の中から白い少女が現れた。
杖を持った白魔導師といった風体だ。
フード付きのケープを羽織っていて前垂が体の前にある。
ファンタジー衣装という感じ。昨今のソシャゲでありそうな服だ。
顔面は白い仮面が被さって見えない。
脇に本を抱えている。
フードからは白いやや青みがある髪が覗く。
小柄で胸はつつましいけども腰からお尻のラインがどきっとするくびれで見とれてしまう。
骨盤が前屈して大きく、ただ立っているだけなのにお尻を突き出してるような感じになってる。
素肌が見える部分とあいまって童貞にとって刺激が強い。
なんというか体型が日本人離れというか漫画みたいだ。
だけども全体的に華奢で中学生ぐらいな気がする。背がちんまい。
そして気付いた。髪から覗く耳は横に長い。
えるふみみや……ええものみた……!
えるふは本当にいるんだ……!! ありがとう、ありがとう。
しばらくぼーっと見とれていた。
顔が見えなくても幻想的な雰囲気で心が奪われる。
少女が手に持った杖の石づきで地面を打つ。我に返る。
少女は言う。
「コボルトの君。この者が預言の者と?
外つ国の王の血を引く者?」
「左様。この者の祖先はかつてミジンコ達に恐れられたミジンコの王である」
待って。そこまで遡るの!
せめて人間でいたかったよ!
「それにこの宝石を惜しげもなく与える度量。問題あるまい」
ちゃっきーさんが宝石指輪の飴を高く掲げてみせた。
期間限定復刻販売の品である。貴重である。
「そう。贈り物を受け取ったと」
「にっ!」
少女の言葉に小人がにかっと笑う。
少女は嘆息して水取に向き直った。佇まいにどきっとするね。
「私はエイプリル。あなたは?」
「水取イッカク。えー、あー、あだなは……」
さりげなく本名を改名した。あばよ、ハジメちゃん。
「あだ名はどうでもいい。水取。出口まで案内するから帰りなさい」
「なんだと」
「ここに居れば死よりも酷い事になるかもしれない」
「え?」
「家族が心配する。まだ間に合う」
思わず小人を見ると小人は口笛を吹こうとして笛にならず口でぴゅーと言ってる。
あからさまに誤魔化してる態度。
「なにか騙されてる?」
「チートを希望するって言ったどすから……」
視界の端っこに何か表示が出た。
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まめちしき:チート=だますこと
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まって……! 豆知識の角帽被ったマスコットがドヤ顔で憎たらしい。
そしらぬ顔をして小人は少女に陽気に語りかけてる。
「まあまあ。エイプリルや。おいどんはこやつに結構な贈り物したんで
別な王子を連れてきてもカスみたいな力しか与えきれないべ」
「それは嘘」
「というかやる気がでないどす。
こやつならきっと爛れた中高生らしいエロ願望を邁進するであろう。
スカした貴族なぞごめんだぜ!」
「さいあく」
仮面の下ですげー蔑んだ目で見ている気がする……。
小人がズボンの裾をひっぱる。
頭に言葉が響く。
びびび「さっきから気になってどすが。
えろい目で見るのはまずいどすよ……!
そういうのはすぐ相手にわかっちゃう!
体よりも服とか本をみとけ」
やべえ! 思いっきり体見てた!
びびび「ロリ貧乳巨尻だひゃっほう!
とかマニアックに喜んだらあかんって」
そこまで思って、……思ってなかったよ!
ロリ貧乳巨尻とか言葉のインパクトすごいな!
畳言葉と対義語の組み合わせだ。
おお、ロリ貧乳、貧乳と巨尻。言葉にされると意識しちゃうな……!
体型が判る服というのがさらに良い。
このおんなさそってやがるぜ。
(一人前の男に許されるという紳士のゲームで覚えた句)
石づきが警告するかのように地を叩いた。
「すけべ」
「!?」
いけない、初対面のコンタクトが最悪だ。
話題を変える。なんだっけ。と思いだして聞く。
「ここに居ると死ぬの?」
「戻れなくなるかもしれない」
「目的を果たしたらクリア特典あるどすよ」
小人が割り込んできた。
「特典。そう、それは確かにある。プレイヤーへのギフト」
「へえ。どんなの?」
「外つ国で富を願うならそれを叶えるべ。例えば宝くじ1等を当てるとか。
美人の嫁さんを獲得できるとか。徐々に顔を変えて別人にするとか。
外つ国のルールの中で実現できる望みは認可できるべ」
「なんという未曽有のチャンス……!」
ざわ……。
「?」
漫画のキャラに自己を投影する事で心理的な余裕を作るライフハックだが
全く通じてなかった。文化が違った。
仮面の少女が続ける。
「失敗すれば戻れない。成功すれば今言ったような望みを1つ叶える」
「シンプル!」
「だけど、きっと水取。あなたは無理。王の血を引いて無いから」
「ミジンコキングだよ!」
「そんなコップの中で王になれるような王は認めない」
ミジンコが正しく把握されてる……。ぬかったわ!
結局出口までドナドナされる事になった。
小人が言うには資格試験として道中さまざまな敵を仕掛けた道を
エイプリルに案内して貰うつもりだったそうだ。
ところが王の血を引いてないからと少女が資格試験を許してくれなかった。
願書を出したら書類落ちである。
俺に仕えてくれるメイドさん達を見たかったな……。
しかしこの娘の服、改めてみると凄いな。
前垂やら後ろの飾り布が絶妙に邪魔してるけど下はきけんがあぶない、
童貞を轢き殺しに掛かった肌面積の多さだ。
冷静に考えればビキニぐらいなんだろうけど、
上に羽織ってそれを隠そうとしているのが
返って『逆にそれが彼を奮い立たせた!!』という感じである。だれだよ、彼って。俺だ。
前垂とお腹の間の空間がえっちだなあ、
男の体と造りが違って腰が後ろに傾いてるから下の方に空間が出来てるや。
絶対領域という奴だなあ。ありがとう、ファンタジー衣装。
と熱心に見てたら小人がズボンを引っ張った。
熱心さはこれまでの描写のしつこさで察してもらいたい。すごい集中していた。
「自重して。エイプリルがすげー困ってるで」と頭に声が響く。
はい。
と人にいっておいて小人がその服どうなってるのどすか!
可愛い衣装やな! ときゃきゃしながら尋ねてた。
自重はどこへ。
エイプリルは外つ国の人のデザイン感覚は判らないわ、とくるんと一回転して小人に見せてた。
かっこいいどすな! ごつい毛布の服より似合ってるで!
さすがやな! と言われて少女はまんざらでもなさそうになった。
ずるい。俺もきゃっきゃうふふしたい。
こういうのは会話のネタにすると楽しいべ、
黙っているとやましい事を考えてると白状してるもんだべさ、と小人がテレパシーしてきた。
なんだと!
おーぷんなすけべでいこう! と提案された。
童貞が信じて良い知識なのかな! また騙されてないかな!
わ、わからねえ!
知識を授けたので水取どん抱っこせよ、と小人が言った。
しかたねえ、このぬいぐるみ野郎め、と抱っこして歩く。
エイプリルがちょっと羨ましそうにこっちを見てる。
「フフフ。立場が逆転したようだな……!」
「何言ってるの、この人」
とエイプリル。前回の立場を知ってる小人が手を叩いて笑ってた。
会話は難しいね。
そして目的地についた。
出口は消えていた。
次回 6 『魔女ブラムシリカ』




