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26 『千秋王の呼ぶ声』 挿絵有り

遠くで鐘楼しょうろうの鐘が鳴っている。


重い鐘の音だ。

ずーんと来る寺の鐘じゃなくて、陰鬱な教会の鐘の音だ。

どこか外国に来ているのだろうか。


空の色が薄く黄色い。

夏の盛りが終わり、秋も終盤の実る物もすべて剥ぎ取られて華のない時期の黄昏時のようだ。


雨が降っている。

激しくもなくただ惰性で降っている気が抜けた雨だ。

地面にはりつけになっている身をやる気なく打つ。


だが言いようのしれない不気味さが感じられる。

磔から逃れてここから逃げるべきだ。


誰かが顔を覗き込んでいる。

薄汚れた黄色い外套に身を包み、フードに隠れて顔が見えない。


「――夢では無かったと言ったな」

男とも女とも分からぬ声だった。


夢では無かった、そうかな。

いや、これは夢だな。

起きれば城のベッドの上で隣にミムさんが居るはずだ。


「夢から覚めれば現実と思うか?」

それはそうだろう。


「では覚めるが良いさ」

フードで身を包んだそいつが杖を心臓に突き落とした。


激痛が走る。

叫び声を上げる。



目が覚めた。

ベッドで目が覚める。

隣から声がする。


「夢から覚めたらば現実であろうな?」

誰かが言った。振り返る。


骸骨が頬杖をついて骨の猫を撫でていた。

手が四本ある。


これは、夢だ。変な汗がでてくる。

「夢から覚めたらまた夢か?」

骸骨が座ったまま黒い杖を突き出した。


激痛が走る。

叫び声を上げる


雨が降っている。

重い雲が広がっている。

地面に磔だ。骸骨が顔を覗き込んでいる。


「夢から覚めれば現実と思うか?」

骸骨が杖を心臓に振り落とした。


ベッドだ


「夢から覚めたか?」

隣から声がした。


骸骨がいる。四本の手を持った異形の骸骨だ。

声を振り絞って骸骨に言った。

「いい加減にしてくれ!」

ムカムカしてきた。


骸骨が笑う。杖で床をつく。

まるで舞台の小道具のように部屋の壁が全て倒れた。

骸骨の猫が走って逃げた。


カラスが一斉に飛ぶ。

様々な生物の頭骨の山が広がっていた。


骸骨が歩く。ドクロの山に埋もれた玉座に座る。

「さて。夢から覚めたらばの今。これは現実であろうな?」

王が問う。

王の肩にカラスが舞い降りた。


水取は声を出して尋ねた。自分の声なのにどこか遠い声だ。

「誰だ?」

「千年の秋を生きる者さ」

カラスを愛でながら骸骨が言った。


魔女ブラムシリカの時と同じような雰囲気を感じる。

そしてもっと禍々しいようにも思えた。

沼の魔女が沼ならば、こちらはまるで真っ黒なタールが詰められた高層ビルから一滴の墨汁が滲みでていて今にも決壊しそうなそれを見ているかのようだ。


「どうした、私が怖いのか? 怯えなくても良い。私は機嫌が良い」

骸骨が笑う。


「フム、お前は骨の娘が好みだと思ったが違ったか? これはどうだ?」

骸骨が骨をはぎ取ると生身が現れた。


美しい裸の女に変わる。

磨いた髑髏どくろの如く乳のように白い肌。

滑らかな下腹部に整った程よい大きめの胸とくびれ。

星空を溶かしこんだような艷やかな黒い長い髪には赤真珠のサークレット。

挿絵(By みてみん)


正統派の美少女らしい美少女だ。四本の手で無ければ。

だが変化はまだ終わっていなかった。

続いて多い四の手は二の腕に戻す。その上腕には金の腕輪が輝いていた。

瞳は赤く強い。額に同じ色の宝石が埋まっている。


娘は宙から色褪せた紺色の長い布を引っ張りだすと無造作に胸と腰に巻いた。

夢ならではの直観でその布は死人を包む布だと判った。

どこかで見た紋様が入っている。


エイプリルと違って胸があるだけに破壊力の大きい衣装なのだが

冷涼な美しさと問答を一つ誤ると首を跳ねられそうな緊張感があるので

性欲を感じる余裕はない。


そうして誇りを感じさせる瞳でまっすぐに見つめてくる。


「これなら怯えなくても良いだろう。

 非力な女の体さ。

 怒っているように見えるのは私の癖だ。許せ」


女は親しげに語りかけてくる。

玉座であぐらをかいた。際どいポーズだが無頓着だ。

あくまで仮の姿ということだろうか。


「そうではない。これも私の姿さ。見目良い娘を望むならば他でも探せ」

黒髪の少女は肩をすくめた。


「私が墓地へ押し込められた時は裸であったが

 辛うじてある者・・・が私に贈った布さ」

娘が赤い唇を歪めて笑う。

その笑う姿が一瞬だけ痛ましく見えた。


「さて話を戻そう。

 ――王を王足らしめるのは何だと思う? 王の血を持たざるつ国の者よ。

 馬鹿でなければ答えると良い。どのような言葉でも私は許す」


「……知るものか」

こいつも王の血とか言ってる。

伝説の勇者の末裔だとか生まれ変わりだとか誰もかれも資格を求める。

そんな生まれる時に選びようがないのを今更要求するか。


「わからぬか? ならば言おう」

女が言った。

ちから・・・さ」


空気が震えた。怯えてカラスが飛ぶ。


「そう力だ。力ゆえに王は王たるのだ。

 血や生まれ、性別など関係ない。

 最初に王になった者の親は王であったか?

 否。否だ。力ある者が他を従えて初めて王となったのだ」

娘は大仰に演説をする。


力があれば王である。シンプルな主張だ。

そりゃ力があればな!


娘は強い瞳で言う。弱気は許さないとばかりに怒気を孕む。


「良いか。よく聞け。

 お前を王と認めない者がいれば殺せば良い。

 お前が力を示してもお認めぬやからが居れば殺せば良い。

 神が認めぬというのならば殺せば良い。

 悪魔デーヴァささやき己の手駒にしようとするならば殺せば良い。

 龍が己の誇りの為に向かってきたらば殺せば良い。

 人が慈悲にすがりついてきたらば殺せば良い」


この娘が強い調子で言うと非常に絵になる。


「全部殺すしか言ってないな」

だが内容は殺伐しすぎだ。


「簡単な理由だ。

 死人は扱いやすい。お前も死人を好ましく思っておろう?」


「そう、かな」

「そうさ。お前は生者には愛されず死人に愛されてきた男よ。

 良い事だ。

 全く愛されないよりもずっと良い。

 死人はお前を愛するだろう。

 ならば全てを死人に変えれば良い。

 死人で溢れる天津あまつの国は幸せだ。違うか!」



自分で言いながら理不尽に怒ってるようだ。迫力に気圧けおされる。


「お前は、いや、あなたは死人の王、という事か?」


女は息を吸って怒りを落ち着かせた。あでやかに笑う。


「いや違う。私は私、さ。

 死人の王は、ほれ。冥府に別におろう。

 死人は扱いやすいがそれを支配する必要もない。

 領民というのは義務を要求するものさ。

 王には不要だ。王たる者はただ力を持ち誰にも屈する事をせねば良いのだ。

 お前もそうすれば良い」


「――俺にはそうする力はない。あなたは強そうだが俺はそうじゃない」


「では私を滅ぼして王になれば良い。玉座はここにある。

 私から力を奪ってみせよ。

 私をお前の奴隷にするが良い。

 鎖で縛るが良い。鞭を打つが良い。奉仕を命じると良い。

 さあ、私を滅ぼしてみせよ」


「――無理だ」

目の前の美少女は余りにも禍々しい。

娘は親しげに語り掛けているが息が詰まりそうな迫力が隠せていない。


「なぜ試さない? お前は炎の剣を持っているではないか?」


娘が指をさす。手を見る。

手のひらが熱くなり炎の剣がゆっくりと出てきた。

直感的に炎の呼び鈴ベルフレイムのコマンド魔法の正体だと感じた。

見たことのある黒いリボンが持ち手に巻き付く。


「扱いやすい良い剣さ。上手く扱えばイデア界までも届く。

 お前に剣を与えた者はお前の身を案じて制限を掛けているようだが。

 お前の目では自分を焼くだろうからの。子供扱いさ」


「う、ん」

なんとも間の抜けた返事を辛うじてだした。


どん、どん、どん!


遠くから大きな音がした。

娘がそちらを一瞬振り向く。


空間にひび割れが広がる。


「そろそろ時間切れだ。済ませる事にしよう。止めたければ力で押し通してみせよ」


カラスがくるくると飛び回っている。カラスの声が歌のように聞こえる。

立ちくらみがする。魔法陣が回る。回る。


魔法陣が黒い蛇になる。左手に巻きつきゆっくりと心臓を目指して登っていく。

黒い蛇。どこかで見た。真珠の影に潜んでいた、あれが夢の中に入ってきたのか。


激痛が走る。蛇が腕の中に潜り込んで行く。

蛇が分解して文字となり、己の心の本へと滑り込んでいくのが判る。



――ゴーレム『阿修羅』の鍵をインストールしました。(67/300)

――アーティファクトアイテム『阿修羅』を手に入れました。

――警告:『呪い:阿修羅ゴーレム』を手に入れました。

――実績:『アーティファクトの所有』を解除しました。




「王になるのだ。王の血を持たざる者よ。

 力ある者こそが玉座に相応しい。

 龍人の国を滅ぼし、神々を滅ぼし、真の王へとなるのだ。

 虚ろの王、むくろの王にな」


娘が再び四本の腕を持つ骸骨に変わる。


骸骨が玉座から立ち水取を玉座へ押し込んでいく……。



「どすこい!」

小人がすっ飛んできた。骸骨にドロップキック。

骸骨はバラバラになりながらも笑う。すでに儀式は終えたと。

もう手遅れさ、自分で座りにくるだろう。


小人が水取の手を引っ張り白い霧へ向かって走る。



そこで目が覚めた。




恐ろしい夢を見た気がする。

豆知識ウィンドウのマスコットがあたふたしている。

どうも最後に助けてくれたのは豆知識先生らしい。さんきゅー。


――いいってことよ。

返事が返ってきたのは予想外。


ベッドの横にミムさんは居なかった。

なんとも言えない気分だ。横にミムさんが座っていたらそれを見て叫び声を上げただろうか。

剥き出しの骸骨とお面を被った可愛らしい骸骨の違いは何だろう。

理屈はそうか。感情ではミムさんがいたら多分安心したと思う。



左手を見る。上腕に刺青みたいなのが増えてる。服の袖で隠す。

包帯を巻いて禁じられたチカラとか言うのもありだな……!

と思いつつも、とても恐ろしい。

自分の体に恐ろしい病が潜んでいるのを目の当たりにしたかのようだ。きつい。



見慣れない黒い切り札が増えてる。


確認するまでもなく、阿修羅ゴーレムの鍵のようだ。

24時間制限もないようだ。一杯使える。使えまくれる。


阿修羅は玉座に安置されていた四本の手足を持つ千の秋の王と呼ばれていた鎧だ。

正体はゴーレムで中に乗り込んで操縦できるという。

鍵が必要と言われてその場では諦めたやつだ。


あの時は光に照らしだされる白いゴーレムをかっこ良く感じたものだが、

今は言いようのない恐怖を感じる。


……。

なにかとんでもなく不味いものを手に入れた気がする。

インストールで潜在力の容量を50も使ってる。普通の人間だと入らないサイズだ。

アンインストールは効くのだろうか。


豆知識:呪いがあるとアンインストールできないぞ。

はい。なんとなくそうじゃないかと思いました。



「――大丈夫ですか?」

ミムさんが洗面器を持って入ってきた。


「随分とうなされていましたので、体を拭くものをと持ってきました」

「ありがとう。そしておはよう」

「――本当に大丈夫? 5日も寝てたのですよ?」

ミムさんが頭を抱いてくれた。ふんわりした胸にぽふんと顔が埋まる。


スケルトンボデーなのだけど魔力が皮膚とか筋肉のようになって触った感じは人間のようだと思う。

女の人のおっぱいに触った事がないので比較が難しい。

(エイプリルは貧乳なので除外した。豆知識先生に言われるまで意識になかった)



「大丈夫、大丈夫。ミムが最後まで守りますよ」

ぽん、ぽんと背中を叩いてなだめてくれる。

顔が見えないけど昨晩一瞬だけ見えた人間と同じ顔を思い出した。

ミムさんの声はほっとする。


ドタドタドタと小人が廊下を走ってくる音がする。

朝が始まる。


ピコン!と音がして豆知識のウィンドウが出た。


過去ログの確認を促している。

さっきは助けられたからな、見てみるかと覗く。


ヨアヒムさんの死亡メッセージだ。

「……」

ずんっと気を落ち込ませる。


次、次の奴を見て! と豆知識先生が騒いでる。


それを見た。


なんだ、これ。


朝から色々と起こりすぎだ。




挿絵(By みてみん)

白髮ポニテと迷った結果。黒髪ロングにしました。

正統派ヒロイン的なのが居ると良いよね! という事で。

そしてその後に黒髪ツインテールの人間verミムさんと微妙に被る被らないで

シルエットを色々といじった結果の特徴付けの結果でごわす。

とりあえず踊り子衣装とついで錫杖装備で。

布取ったverはそのうちピクシブにでもあげときます。


頭にターバンっぽいのを巻いたデザインも捨てがたいので

あとで変更するかもしれません。その時は絵と一緒にテキストも変わったりします。

重い鐘の音でかつ、高い教会の鐘の音というのがわかりづらい気がしたので

ちょっと表現を変更。響き方がなんか違うよね。

最初の方は夢を見てるので場面がその都度気付いた時に切り替わっていく、という事で

視点を完全に固定した描写にしない方が、という判断でそのままに。


ブックマークやら評価、感想があると喜びますどす。

そういったフィードバックがあると今後の参考になりますばい。

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