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『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


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第四話


洞窟を出てから、少し歩いた。


 俺は霊馬の背に揺られながら、さっき手に入れた長刀を眺めていた。


「……長刀か」


 鞘に収まった細身の刀。


 ゲームの『王環』では、俺が何度も愛用していた武器の一つだ。


 打刀よりも間合いが長く、素早い攻撃ができる。


 俺の好きな技量型とも相性がいい。


「これなら、かなり戦いやすくなるな」


 そう呟いてから、ふと思った。


 今まで俺は、ゲームの知識を頼りに戦ってきた。


 敵の動き。


 攻撃のタイミング。


 武器の性能。


 そして、ステータス。


 けれど。


「実際に使ったら、どうなるんだ?」


 ゲームでは何度も使っている。


 でも、現実の身体で使うのは初めてだ。


 俺は霊馬を止め、地面に降りた。


 そして、ステータスを開く。


 頭の中に、いつもの表示が浮かんだ。


 名前――旺樹。


 生命力。


 精神力。


 筋力。


 技量。


 持久力。


 その他の能力値。


 数字は、ゲームの頃とほとんど変わらない。


「……ちゃんとステータスは見える」


 改めて確認すると、少し安心する。


「じゃあ、まずは武器からだな」


 俺は腰に差していた打刀を抜いた。


 こちらは問題なく扱える。


 軽く振ってみる。


 ヒュッ、と空気を切る音がした。


「うん。これは普通に使える」


 次に長刀を抜く。


 長い刀身が日の光を反射した。


「こっちは……」


 構えてみる。


 少し重い。


 でも問題はない。


 一度、ゆっくり振ってみる。


 シュッ。


「……いいな」


 長い。


 その分、敵との距離を取ったまま攻撃できる。


 何度か振ってみる。


「やっぱり俺、この武器好きだわ」


 自然と笑みがこぼれた。


 そこで、ゲームの記憶が一つ蘇る。


「そういえば……」


 俺は腰の袋を確認した。


 そこには、これまでに拾った装備がいくつか入っている。


 ゲームなら、筋力が足りない武器でも装備画面から選択することはできた。


 ただし、必要な能力値を満たしていなければまともに扱えない。


「実際はどうなんだろうな」


 俺は以前拾った、大きな剣を取り出した。


 見るからに重い。


「これ、筋力が足りないんだよな」


 試しに両手で柄を握る。


「よっ……」


 持ち上げる。


 持ち上がった。


「お?」


 意外だった。


「持てるじゃん」


 ところが。


 振ろうとした瞬間。


「うおっ!」


 身体が持っていかれた。


 慌てて剣を地面に落とす。


 ドンッ!


「……」


 俺は剣を見つめた。


「持てるけど、使えない……」


 ゲームでは、装備条件を満たしていないと攻撃がまともに出せなかった。


 でも現実では、もっと単純だった。


 力が足りない。


 ただ、それだけ。


「なるほどな……」


 俺は腕を振ってみる。


「筋力が足りないって、こういうことか」


 数字では分かっていた。


 けれど、実際に身体を動かすと意味がよく分かる。


「じゃあ次」


 今度は防具を取り出した。


 かなり厚い鎧だ。


 ゲームでは装備重量によって動きが変わる。


 軽い装備なら素早く動ける。


 重くなれば動きが鈍る。


「これも試してみるか」


 鎧を身につける。


 ズシッ。


「重っ……」


 立っているだけで身体に負担がかかる。


 俺は一歩踏み出した。


「……」


 もう一歩。


「……遅い」


 走ってみる。


「うわ、遅っ!」


 思わず声が出た。


 足が思うように上がらない。


 回避しようとしても、身体がついてこない。


「これで敵と戦うのは無理だな」


 ゲームでは数字を見ているだけだった。


 けれど現実では、動けない。


 たったそれだけの違いなのに、恐ろしいほど大きい。


 俺はすぐに鎧を脱いだ。


「やっぱり軽いほうがいい」


 俺にはこっちのほうが合っている。


 そして次に、長刀を握り直した。


「最後は……戦技だな」


 ゲームでは、武器ごとに特殊な技がある。


 何度も使ったことがある。


 操作方法だって覚えている。


「確か……」


 構える。


 意識を集中する。


 すると、身体の奥から力が流れ込んでくる感覚があった。


「これか」


 次の瞬間。


 長刀が大きく振り抜かれた。


 ザンッ!


 目の前の草がまとめて切り飛ばされる。


「……」


 俺は固まった。


「すげぇ……」


 ゲームでは見慣れていた。


 何度も使った。


 何度も敵を倒した。


 でも。


「実際にやると、こんな感じなのか……」


 腕に残る感触。


 足元から伝わる衝撃。


 そして、息が少し乱れている。


「……ゲームと違って、ちゃんと疲れるんだな」


 ステータスを見る。


 精神力と体力が少し減っていた。


「数字は同じ……」


 俺は自分の手を見た。


「でも、身体は本物か」


 当たり前のことなのに、妙に実感があった。


 俺は少し休んでから、今度は拾ったタリスマンを取り出した。


「これも試してみるか」


 タリスマンを装備する。


 するとステータスの一部が変化した。


「おお……」


 能力値が上がっている。


「ちゃんと効果がある」


 身体の感覚も確認する。


 ほんの少しだけ、力が増したような気がする。


 だが、劇的に変わるわけじゃない。


「なるほど……」


 俺はタリスマンを外す。


 数字が戻る。


 もう一度つける。


 数字が変わる。


「これはゲームとほぼ同じだな」


 ここまで確認して、俺は少し笑った。


「なんだよ。結局、王環じゃん」


 戦技がある。


 ステータスもある。


 タリスマンもある。


 武器には必要な能力があって、装備重量によって動きも変わる。


 ゲームで知っていたことが、現実でもちゃんと存在している。


「だったら……」


 俺は長刀を肩に担いだ。


「俺の知識は、まだ使える」


 そう思うと、少しだけ気持ちが楽になった。


 もちろん、実際の戦いがゲームと同じじゃないことは分かっている。


 血も出る。


 痛みもある。


 死ねば終わりかもしれない。


 それでも。


「知ってるっていうのは、やっぱり強いよな」


 俺は霊馬を呼び出した。


 黒い身体が目の前に現れる。


「よし」


 長刀を腰に差す。


 軽めの装備を整える。


 タリスマンも確認する。


「これなら大丈夫」


 霊馬にまたがる。


「次は、王臣だ」


 俺は前を見た。


 ゲームなら、ここから先に何があるのか全部知っている。


 敵も。


 道も。


 待ち受ける王臣も。


「まあ、何とかなるだろ」


 そう呟いて、俺は霊馬を走らせた。

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