↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/40

第三十話


「まず、子供たちを助ける」


「……本当に?」


「ああ」


 セイスベールの顔が、少しだけ明るくなった。


「……ありがと」


 そして彼女は、涙を浮かべたまま笑った。


「ほんと、助かる……」


 俺は少しだけ気まずくなって、視線を逸らした。


 とりあえず、次にやることは決まった。


 八人の子供たちを助ける。


 そのために、次のエリアへ向かう。


 ただ、その前に。


「セイスベール」


「何?」


「赤き荒野について、もう少し詳しく教えてくれ」


「赤き荒野?」


「ああ」


 俺は長刀を鞘に収める。


「俺はあそこに行ったことがない」


 これは嘘ではない。


 ゲームでは何度も行った。


 だけど、現実の赤き荒野は知らない。


 そこにいる人間がどんな奴なのか。


 どんな危険があるのか。


 ゲームと同じなのか。


 それは、実際に行ってみなければ分からない。


「そうね……」


 セイスベールは少し考える。


「まず、町はないわ」


「町がない?」


「ええ。少なくとも、普通に人が暮らしているような町はない」


「じゃあ、休める場所も?」


「ほとんどないと思ったほうがいいわ」


「店は?」


「ない」


「宿は?」


「ない」


「……かなり厳しいな」


「だから言ったでしょ?」


 セイスベールは苦笑する。


「マジでつまんない場所なの」


「そこまで言うか?」


「言うわよ」


 少しだけ頬を膨らませる。


「だって、景色はずっと赤っぽいし、町もないし、話し相手もいないし」


「話し相手も?」


「ほとんどいないわ」


 セイスベールの表情が少し曇った。


「人間の姿をしている者がいたとしても、普通に話ができるとは思わないほうがいい」


「どういう意味だ?」


「人だったものが、別の姿になっているの」


「別の姿……」


「ええ」


 セイスベールは窓の外へ目を向けた。


「赤き荒野では、そういうものが多いわ」


 俺は黙って聞いた。


 ゲームの記憶が頭をよぎる。


 確かに、あの場所には異形の怪物が多かった。


 人間に近い姿をしているものもいた。


 だけど、会話をした記憶はほとんどない。


「そういう奴らは、襲ってくるのか?」


「こちらを見つければ襲ってくるものもいる」


「全部じゃない?」


「全部じゃないわ」


「じゃあ、敵じゃない奴もいる?」


「……いるかもしれない」


「かもしれない?」


「私は、あの場所を自由に歩けるわけじゃないから」


 なるほど。


 セイスベール自身も、赤き荒野のすべてを知っているわけではない。


 そりゃそうか。


 あそこにいる子供たちを人質にされているだけで、本人が自由に行き来できるわけじゃない。


「他に危険なものは?」


「場所によっては、歩いているだけで身体が弱っていくところがあるわ」


「毒?」


「違う」


 セイスベールは首を横に振る。


「何かに触れているわけでもないのに、少しずつ体力を奪われるの」


「……地面そのものが危険なのか」


「そういう場所もあるわね」


 俺は頭の中で赤き荒野の地形を思い浮かべる。


 確かに、そういう場所があった。


 ゲームでは、回復薬を使いながら通り抜けていた。


 でも現実では。


「そこを歩くなら、回復薬を多めに持っていったほうがいいな」


「そうね」


「他には?」


「怪物」


「やっぱり?」


「ええ」


 セイスベールはため息をついた。


「本当に、怪物ばっかりよ」


「強いのか?」


「強いものもいる」


「ものも?」


「全部が強いわけじゃないけど、油断はしないほうがいい」


「なるほど」


「それと、あそこには兵士も騎士もほとんどいない」


「ほとんど?」


「今の王に仕えている者たちがいるにはいるけど、普通の領地みたいな軍隊がいるわけじゃないわ」


「じゃあ、教皇の周りには?」


「教皇の周りには、それなりにいるでしょうね」


「魔法を使う奴ら?」


「ええ」


 俺は城で戦った敵を思い出した。


「セイスベールが教えた魔法を使う?」


「そう」


「……かなり厄介だな」


「だから気をつけて」


 セイスベールは真剣な顔で俺を見る。


「あなた一人で行くつもりなんでしょ?」


「ああ」


「仲間は?」


「いない」


「……一人?」


「一人」


 セイスベールは呆れたような顔をした。


「無茶じゃない?」


「まあ……」


 俺は苦笑する。


「何とかする」


「何とかって……」


 セイスベールは少し黙った。


 そして、ふっと笑う。


「本当に変な人」


「それ、また言ったな」


「だってそうじゃん」


 俺も少し笑った。


 だけど、すぐに真剣な顔に戻る。


「もう一つ聞きたい」


「何?」


「教皇がいる場所まで、どうやって行けばいい?」


「それは……」


 セイスベールは少し考えた。


「赤き荒野に入ったら、まず北へ向かって」


「北?」


「ええ。そこからしばらく進むと、大きな岩山が見えてくるはず」


「岩山」


「その先に、教皇のいる場所へ続く道がある」


「分かった」


「ただし……」


 セイスベールの声が低くなる。


「途中で、絶対に無理をしないで」


「そんなに危険なのか?」


「危険よ」


 即答だった。


「私の子供たちがいる場所も、その先」


「……分かった」


 俺は頷いた。


「必ず連れて帰る」


 セイスベールはしばらく俺を見つめた。


 そして、少しだけ笑う。


「お願いね」


「ああ」


 俺は扉へ向かって歩き出す。


 そのとき。


「旺樹」


「ん?」


 振り返る。


「私と会ったことは、誰にも言わないで」


「分かってる」


「あなたは私とは会ってない」


「そういうことにするんだろ?」


「うん」


 セイスベールは小さく頷いた。


「じゃあ、気をつけて」


「行ってくる」


 俺は部屋を出た。


 長い廊下を歩きながら、これから向かう場所を考える。


 赤き荒野。


 町はない。


 普通の人もほとんどいない。


 異形の怪物が徘徊している。


 場所によっては、歩くだけで身体が削られる。


 そして、その奥には教皇がいる。


 ゲームで何度も攻略した場所。


 それなのに。


 今は、まったく別の場所に感じる。


 俺が知っているのは、ゲームとしての赤き荒野だけだ。


 現実のあそこが、どれだけ危険なのか。


 行ってみなければ分からない。


 俺は長刀の柄を握った。


「……行くか」


 今度の目的は、教皇を倒して王証を手に入れ、八人の子供たちを無事に連れて帰ることだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。