↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/40

第二十八話



俺は大きな扉の前に立った。


 その横には、先ほどまで共に戦っていた騎士長がいる。


 かなり傷を負っていた。


「……騎士長」


「はい。我が主」


「ここから先は、少し休んでいてくれ」


「承知いたしました」


 騎士長が静かに頷く。


 俺は一度だけ、その姿を見た。


「また呼ぶから」


「お待ちしております」


 俺は騎士長を戻した。


 しばらくは召喚できない。


 次に呼べるまで、八分。


 だけど、ここではそれでいい。


 この先にいる相手には、騎士長より別の霊媒の方が向いている。


 俺は扉に手をかけた。


 重い。


 ゆっくりと押し開ける。


 その瞬間だった。


「……来たか」


「……え?」


 声。


 人の声だった。


 俺は思わず足を止める。


 部屋の奥。


 そこにいたのは、巨大な狼だった。


 青白い毛並み。


 鋭い目。


 そして、その口には一本の剣が咥えられている。


 いや。


 剣そのものが普通じゃない。


 魔力で形作られたような、青い光を放つ剣。


「……喋った?」


 驚きはした。


 でも、それ以上に気になったことがある。


「お前……俺が来るのを知ってたのか?」


「当然だ」


 狼はゆっくりと立ち上がった。


「お前は、星霜の女王を救いに来たのだろう?」


「……は?」


 意味が分からなかった。


「救いに……?」


 俺は眉をひそめる。


 ゲームでは違った。


 セイスベールは、俺が倒すべき王臣だった。


 少なくとも、俺が知っている『王環』ではそうだった。


「どういうことだ?」


「……知らぬのか」


 カニスマヨルと呼ばれるその狼は、俺を見据える。


「ならば、なおさら先へ進ませるわけにはいかぬ」


「ちょっと待て」


 俺は長刀を構えた。


「その前に聞かせろ」


「何をだ」


「お前は誰の命令で、ここにいる?」


 カニスマヨルの目が細くなる。


「我が主人の命だ」


「……主人?」


「私は、我が主人の命を受け、星霜の女王を見張っている」


 意味が分からない。


 セイスベールを見張る?


 どういうことだ。


「なぜセイスベールを見張る必要がある?」


「星霜の女王には、役目がある」


「役目?」


「カルトの者どもに魔法を教えることだ」


 俺は言葉を失った。


「……何?」


「王のための、最強の魔法軍団を作る」


 頭の中が混乱する。


 セイスベールが。


 あのセイスベールが、カルト教団に魔法を教えている?


 でも、こいつの言い方だと……。


 本人の意思でやっているようには聞こえない。


「ちょっと待て」


 俺は頭の中でゲームの記憶を探した。


 そんな設定、あったか?


 覚えていない。


 いや。


 そもそもゲームでは、こんな会話自体なかった。


 セイスベールは戦ってきた。


 俺は倒した。


 それだけだった。


「……お前の主人っていうのは、誰なんだ?」


 カニスマヨルは答えなかった。


 ただ、口に咥えた魔法の剣をゆっくりと構える。


「それを知る必要はない」


「……そうかよ」


 俺も長刀を握り直す。


 分からないことだらけだ。


 でも、一つだけ変わらない。


 俺はセイスベールに会わなければならない。


 本人から話を聞く。


 それまでは何も判断できない。


「だったら、とりあえずお前を倒す」


 次の瞬間。


 カニスマヨルの姿が消えた。


「っ!」


 速い。


 反射的に横へ飛ぶ。


 直後、目の前を魔法剣が通り過ぎた。


 床を削り、青い火花が散る。


「……!」


 俺は長刀を振った。


 だが、当たらない。


 カニスマヨルはすでに俺の横を通り過ぎていた。


 振り向く。


 そこにいた。


 ……いや。


 もういない。


「どこだ……!」


 視界の端で青い光が動いた。


 俺は咄嗟に身をかがめる。


 頭上を魔法剣が通り抜けた。


「これ……」


 俺は距離を取った。


 カニスマヨルの口には、最初と同じ魔法剣がある。


 だが。


「増えた……?」


 狼の周囲に、青い魔法剣がいくつも浮かび上がる。


 一本。


 二本。


 三本。


 そして、それらが一斉にこちらを向いた。


「来る……!」


 魔法剣が飛んできた。


 一本目を避ける。


 二本目。


 三本目。


 避けたはずの剣が空中で軌道を変えた。


「追ってくるのかよ!」


 俺は走った。


 魔法剣が後ろから迫ってくる。


 振り返りながら長刀で一本を弾く。


 その隙に、カニスマヨルが目の前に現れた。


「速っ!」


 魔法剣を咥えたまま、突っ込んでくる。


 俺は紙一重で避けた。


 長刀を振る。


 届かない。


 また避けられた。


 ゲームでは。


 このボスは、そこまで苦戦した記憶がない。


 一周目では確かに苦戦した。


 でも、それ以降は何度も戦った。


 動きも分かっていた。


 攻撃のタイミングも覚えていた。


 だから、いつの間にか苦手な相手ではなくなっていた。


 ……なのに。


「なんだよ……これ……!」


 目で追うだけで精一杯だった。


 速すぎる。


 ゲーム画面で見るのとは違う。


 目の前を、本物の巨大な狼が走り回っている。


 音がする。


 風が起きる。


 魔法剣が迫る。


 一瞬でも判断を間違えれば、死ぬ。


 俺は何度も攻撃を避けた。


 何度も長刀を振った。


 そして、ようやく一撃が入った。


「当たった!」


 カニスマヨルの身体がわずかに揺れる。


 効いている。


 こいつは速い。


 でも。


「……HPは、そんなに高くない」


 ゲームの記憶通りだった。


 問題は、そこまで削るのが難しいことだ。


 俺は攻撃を避ける。


 魔法剣を弾く。


 走る。


 斬る。


 また避ける。


 少しずつ。


 本当に少しずつ、カニスマヨルの体力が減っていく。


 俺の体力も減っていく。


 回復薬を一本使った。


 さらに一本。


 それでも、まだ終わらない。


「くそ……!」


 カニスマヨルが跳ぶ。


 俺も横へ飛ぶ。


 着地した瞬間、魔法剣が背後から迫った。


 間に合わない。


 そう思った瞬間、身体を捻った。


 魔法剣が肩をかすめる。


「ぐっ……!」


 痛い。


 本当に痛い。


 それでも、止まれない。


 俺は長刀を握り直した。


「ここだ!」


 一歩踏み込む。


 カニスマヨルが避けようとする。


 その動きを読んで、さらに踏み込む。


 長刀が青白い毛並みを切り裂いた。


「……っ!」


 カニスマヨルが大きくよろめいた。


 俺は追う。


 最後の一撃。


 長刀が深く食い込む。


 巨大な狼の身体が、ゆっくりと崩れた。


「……はぁ……はぁ……」


 俺はその場に立ち尽くした。


 勝った。


 けど。


「……ギリギリすぎるだろ……」


 残った回復薬を確認する。


 一本。


 たった一本しか残っていない。


「……マジかよ」


 ゲームなら、ここまで苦戦する相手じゃなかった。


 でも、ここはゲームじゃない。


 俺は一度、来た道を戻ることも考えた。


 回復薬を補充したい。


 装備も確認したい。


 できれば、もう一度準備を整えたい。


 だけど。


 転送門までの道には、まだカルト教団の連中が大量にいる。


 敵は倒した。


 だから、ゲームのように復活することはない。


 それでも、残っている敵は多い。


 ここから戻るだけでも戦闘になる。


「……戻るのも危険か」


 俺は大きく息を吐いた。


 そして、目の前にある道を見る。


 この先に、セイスベールがいる。


「……行くしかないな」


 俺は長刀を握り直した。


 残り一本。


 それでも。


 セイスベールに会う。


 それだけは変わらない。


 俺はゆっくりと歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。