第二十七話
俺は再び道具を手に取った。
洞窟の壁には、まだいくつか鉱石が残っている。
戦闘でかなり体力を使ったが、ここまで来たのだから、取れるものは取っておきたい。
俺は壁に向かってつるはしを振るった。
カンッ。
甲高い音が洞窟の中に響く。
何度か振り下ろすと、鉱石がぽろりと落ちた。
「よし」
拾って袋に入れる。
さらに奥へ進み、残っていた鉱石を一つずつ採掘していく。
その途中、足元に小さな瓶が転がっているのが見えた。
「……またか」
中には、緑色の液体が入っている。
さっきカルト教徒が投げてきたものと同じだ。
周囲を見る。
壁際には、いくつもの瓶がまとめて置かれていた。
毒のようなもの。
瘴気のようなもの。
種類ごとに分けてあるらしい。
「ここで使うために置いてるのか……?」
さっきのカルト教徒たちも、この洞窟の中から現れた。
どうやら、ただ洞窟に住み着いているわけではなさそうだ。
ここを何かの活動場所として使っている。
俺は瓶には触れず、そのまま先へ進んだ。
しばらくして、最後の鉱石を掘り出す。
「これで全部かな」
袋の中身を確認する。
十分な量が集まった。
これなら長刀を強化できそうだ。
俺は道具をしまい、来た道を戻った。
洞窟を進んでいると、少し先から声が聞こえた。
「……まだ残っている」
「持っていけ」
「分かった」
立ち止まる。
カルト教徒だ。
男たちは壁際に置かれた瓶をいくつか拾い、奥へ運んでいる。
俺には気づいていない。
「……やっぱり、ここを使ってるんだな」
何のためなのかまでは分からない。
だが、今は関わる必要もない。
俺は気づかれないようにその場を離れ、洞窟の出口へ向かった。
外へ出る。
冷たい風が頬を撫でた。
「やっぱり外はいいな」
俺は霊馬を呼び出し、その背に跨った。
そのまま湖を離れ、街へ戻る。
街に着くと、真っ先にモロトフの鍛冶場へ向かった。
「戻ったか」
「うん。これを使ってほしい」
俺は集めてきた鉱石をモロトフに渡した。
モロトフは鉱石を確認すると、長刀へ視線を移す。
「これなら、もう少し強くできるぞ」
「お願い」
俺は長刀をモロトフへ渡した。
モロトフは慣れた手つきで作業を始める。
金属を打つ音が鍛冶場に響いた。
火花が飛び散る。
しばらくして。
「できたぞ」
長刀を受け取る。
見た目は、ほとんど変わっていない。
でも、握った感覚が少し違う。
「これで四までだ」
「四?」
「今のお前が集められる素材では、それが限界だ」
ゲームと同じだ。
武器には強化段階があり、強化することで攻撃力が上がる。
さらに強化を進めれば、毒や出血、麻痺、炎、凍結といった性質を付けられる。
ただ、今の長刀にはまだ何も付いていない。
「残った素材はどうする?」
「取っておけ」
モロトフが言う。
「いつか、もっと良い武器を手に入れるかもしれん」
「……そうだな」
俺は残った素材をしまった。
「ありがとう」
長刀を腰に差し、鍛冶場を出る。
街の外へ向かって歩いていると、湖の近くで見覚えのある姿を見つけた。
「……あれは」
大きな花。
前に戦った魔物だ。
「ちょうどいいな」
俺は長刀の柄に手を置いた。
強化した武器が、どれくらい変わったのか。
試してみることにした。
花が俺に気づく。
花の中心に光が集まり始めた。
「来る!」
次の瞬間、レーザーが放たれた。
俺は横へ飛んでかわす。
地面を光が焼き、土煙が舞う。
花が次の攻撃へ移ろうとする。
瘴気だ。
だが、その前にほんの僅かな隙がある。
「今だ!」
俺は一気に距離を詰めた。
長刀を振り抜く。
ズンッ。
刃が花の身体へ深く食い込んだ。
「……!」
前より深い。
そのまま二撃目を叩き込む。
花が大きく揺れ、その巨体が崩れ落ちた。
「……ちゃんと強くなってるな」
長刀を見る。
強化した効果は、はっきり分かった。
でも。
「だからって、油断はできないな」
ここはゲームじゃない。
敵の攻撃を受ければ痛い。
傷を負えば、そのまま残る。
そして、死んだら終わりだ。
俺は長刀を鞘に収めた。
霊馬を呼び出し、湖の周囲を進む。
しばらくすると、周囲に霧が出てきた。
「……霧?」
視界が少しずつ悪くなる。
その時だった。
霧の向こうで、水面が大きく揺れた。
「なんだ?」
巨大な影が見える。
次の瞬間。
バシャッ!
霧の中から、巨大なサメのような魔物が飛び出してきた。
「うわっ!」
俺は霊馬を走らせる。
サメは水の中を泳ぐように、霧の中を進んでくる。
「霧の中でも動けるのかよ……」
サメが大きく口を開いた。
「噛みつき!」
霊馬を横へ走らせる。
巨大な顎が、俺のすぐ横を通り過ぎた。
「危なっ……!」
距離を取ろうとした、その時。
空が光った。
「……雷?」
次の瞬間、湖へ雷が落ちた。
バァンッ!
水面が大きく弾ける。
「雷まで使うのか!」
俺は霊馬を走らせる。
だが、雷は落ちた場所だけで終わらなかった。
水面に広がった電気が、波紋のように周囲へ広がっていく。
「そういうことか!」
水の中にいると危険だ。
雷が落ちた場所から離れていても、電気が水を伝ってくる。
俺は迫ってくる電気の波を見て、霊馬を跳ばせた。
電気の波紋を飛び越える。
「よし!」
着地した直後、サメが霧の中へ消えた。
「見えなくなった……」
どこから来るか分からない。
俺は周囲を警戒する。
霧の中で、水が動いた。
「来る!」
右。
俺は横へ飛ぶ。
巨大な身体が目の前を通過した。
その隙に長刀を振る。
だが。
「浅い!」
サメの身体は思った以上に硬い。
サメが方向を変える。
再び雷が落ちた。
俺は着弾地点を見る。
水面に広がる電気。
「そこだ!」
波紋を跳び越える。
そして、俺は霊馬から飛び降りた。
「ここからは、こっちでやる!」
霊馬に乗ったままだと、長刀を片手で振ることになる。
それに、霊馬自身も攻撃を受ける。
ここからは自分の足で戦った方がいい。
俺は水に入らないように足場を選びながら、サメを待った。
霧の中から巨大な影が現れる。
来た。
サメが飛び出してくる。
俺は横へ避ける。
そして、その懐へ踏み込んだ。
「そこ!」
長刀を振り抜く。
一撃。
さらにもう一撃。
サメが身体を大きく揺らす。
「まだだ!」
三撃目。
サメが苦しそうに水面へ落ちる。
そのまま動かなくなった。
「……はぁ」
俺は息を吐いた。
長刀を見る。
さっきの花ほど簡単には斬れなかった。
武器が強くなったからといって、戦いそのものが楽になるわけじゃない。
「……まあ、そんな簡単な話じゃないよな」
俺は長刀を鞘に収めた。
霊馬を呼び戻し、再びその背に跨る。
湖の周囲を進んでいく。
しばらくすると、木々の向こうに見覚えのあるものが見えてきた。
「あった」
石造りの台座。
その上に、不思議な光を放つ装置がある。
転移門だ。
ゲームで何度も見たものだった。
俺は霊馬から降り、その前に立つ。
「これで……行ける」
転移門の先にあるのは、あの巨大な建物。
街の遥か上空に浮かぶように存在する、セイスベールの居城。
ゲームでは、何度もここを通った。
でも今回は違う。
この世界では、まだ何も分からない。
俺は長刀の柄を軽く握った。
「……行ってみるか」
転移門が強い光を放つ。
俺の身体が、その光に包まれていった。




