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『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


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第二十六話


街を出て、しばらく。


 俺は霊馬にまたがり、湖の外れへ向かっていた。


 目的は洞窟。


 長刀を強化するための素材が、その洞窟の中にある。


 ゲームでも何度か通った場所だ。


 だから、道はだいたい覚えている。


「……あれか」


 湖の水面が見える場所まで来たところで、前方に大きな花が見えた。


 巨大な茎。


 人間の身体よりも大きな花弁。


 その中心には、真っ黒な穴が開いている。


「大きいな……」


 花がゆっくりとこちらを向いた。


 次の瞬間。


 花の中心が光を帯びる。


「来る!」


 俺は霊馬を走らせた。


 直後、光の線が地面を切り裂く。


 轟音。


 土と石が弾け飛ぶ。


「レーザーか」


 ゲームで何度も見た攻撃。


 だが、実際に目の前で見ると迫力が違う。


 あんなものをまともに受ければ、ただでは済まない。


 花の光が消える。


 その瞬間だった。


 花の周囲から、紫色の霧が広がり始める。


「瘴気か」


 近づかせないための攻撃。


 遠距離にはレーザー。


 近距離には瘴気。


 単純だが、厄介な相手だ。


 だが――。


 俺は長刀へ手をかけた。


「レーザーの後だ」


 花が再び光を集める。


 狙いをつけるように、花の中心がこちらを向いた。


 光が走る。


 俺は横へ飛ぶ。


 そして、そのまま地面を蹴った。


 レーザーを撃った直後。


 瘴気を撒くまでの、ほんのわずかな時間。


 そこが隙だ。


 一気に距離を詰める。


 花が紫色の霧を吐き出そうとする。


 だが、間に合わない。


「はっ!」


 一閃。


 長刀が巨大な茎を斬り裂く。


 花が大きく揺れる。


 もう一歩踏み込む。


 二撃目。


 花の中心を斬った。


 巨大な花は、そのまま地面へ倒れ込んだ。


「……ふぅ」


 俺は後ろへ下がる。


 その直後、花の周囲に瘴気が広がった。


「危なかった」


 あと少し遅れていたら、瘴気を浴びていたかもしれない。


 俺は長刀を振って刃を払った。


「……ん?」


 少し考える。


「これ、弓でもよかったな」


 レーザーを撃った後の隙を狙う。


 それなら、遠くから矢を撃つだけでも倒せたかもしれない。


「まあ、後からなら何とでも言えるか」


 苦笑する。


 ゲームでは何度も戦ってきた敵だ。


 だが、ここは現実。


 一瞬の判断が、生死を分ける。


「気を抜くなよ、俺」


 長刀を鞘へ収める。


 そして、洞窟へ向かって歩き始めた。


 洞窟の入口は、湖から少し離れた場所にあった。


 中へ入ると、ひんやりとした空気が肌に触れる。


 明かりは少ない。


 俺は腰の小さな灯りを取り出し、足元を照らした。


「……ゲームと同じだ」


 見覚えのある岩。


 見覚えのある道。


 だが、進んでいくうちに、少しずつ違和感を覚え始めた。


 壁に、人工的な傷がある。


 ただ掘っただけじゃない。


 何かを取り付けていたような跡。


 さらに進むと、床に瓶が転がっていた。


「瓶……?」


 拾い上げる。


 中には紫色の液体が残っている。


 嫌な臭いがする。


「毒か」


 別の瓶には、黒っぽい液体。


 こちらからは、鼻の奥を刺激するような臭いが漂っている。


「……瘴気」


 俺は瓶を元の場所へ戻した。


 ゲームでは、こんなものを気にしたことはなかった。


 ただ敵を倒して、素材を拾って、先へ進む。


 それだけだった。


 でも、現実になってみると違う。


 誰かが、ここでこんなものを扱っている。


「……何なんだ、この場所」


 そのとき。


 奥から足音が聞こえた。


「!」


 俺は長刀を抜いた。


 暗闇から、人影が飛び出してくる。


「王に逆らう者め!」


 男が瓶を投げてきた。


「危ない!」


 横へ飛ぶ。


 瓶が地面に落ち、紫色の液体が飛び散った。


 ジュッ、と音を立てて岩が溶ける。


「うわ……」


 まともに浴びたら、かなり危険そうだ。


 男が続けて瓶を投げる。


 今度は黒い液体。


 俺は長刀で瓶を弾き飛ばした。


 空中で瓶が割れ、黒い霧が広がる。


「瘴気か!」


 俺は後ろへ下がった。


 そこへ別の男が迫ってくる。


 剣を振り下ろす。


 受け流す。


 そのまま懐へ入り、柄で腹を打った。


「ぐっ!」


 倒れた男の横を抜ける。


 もう一人。


 今度は槍。


 振り下ろされた槍をかわし、足を払う。


 倒れたところへ、峰打ち。


 男は動かなくなった。


「……ゲームなら、こんなに面倒じゃなかったんだけどな」


 瓶を投げられるだけで、戦い方が変わる。


 俺は周囲を確認してから先へ進んだ。


 しばらく進んだところで、また何かが動いた。


「今度は何だ?」


 岩陰から、小さな魔物が何匹も飛び出してくる。


 牙を剥き出しにして、一斉に襲いかかってきた。


「多いな!」


 長刀を横薙ぎに振る。


 一匹。


 二匹。


 続けて飛び込んできた魔物を身体を捻ってかわし、背後から斬る。


 残った一匹が足へ噛みつこうとしてきた。


「っと!」


 足を引き、柄で頭を打つ。


 魔物が倒れた。


「……ふぅ」


 息を整える。


 その先にも、何かいる。


 今度は大きな花だった。


「またかよ!」


 花が開く。


 中心が光る。


 俺は岩陰へ飛び込んだ。


 レーザーが頭上を通り過ぎ、岩壁を削る。


「やっぱり、さっきの花と同じだ」


 レーザーを撃つ。


 そして、瘴気。


 なら――。


 俺は弓を取り出した。


 花が再び光を集める。


 レーザー。


 俺は横へ避ける。


 光が消えた瞬間、矢を放つ。


 花の中心へ突き刺さった。


 花が揺れる。


 もう一度。


 矢を放つ。


 巨大な花が崩れ落ちた。


「……やっぱり、弓の方が楽だな」


 俺は弓をしまった。


 ゲームの頃なら、効率なんて考えずに好きな武器で倒していた。


 でも、ここでは違う。


 安全に倒せるなら、その方法を選ぶべきだ。


 俺は改めて気を引き締め、洞窟の奥へ進んだ。


 やがて、壁面に見覚えのある鉱石が見えてきた。


「これだ」


 目的の強化素材。


 俺は道具を取り出した。


 カンッ。


 カンッ。


 岩を叩く。


 何度か繰り返すと、鉱石がぽろりと落ちた。


「よし」


 拾い上げる。


 まだ残っている。


 俺はそのまま採掘を続けた。


 いくつかの鉱石を袋へ入れる。


「これだけあれば、長刀を強化できそうだな」


 顔を上げる。


 そのときだった。


 洞窟の奥から、低い音が響いた。


 ズル……。


 ズル……。


「……何だ?」


 地面が小さく揺れる。


 俺は長刀を握り直した。


 暗闇の奥から、何かが這ってくる。


 最初に見えたのは、一本の触手だった。


 太い。


 俺の身体よりも太い。


 それが岩壁を這い、ゆっくりとこちらへ伸びてくる。


「……まさか」


 さらに一本。


 また一本。


 何本もの触手が現れた。


 そして、その奥から巨大な身体が姿を現す。


「……タコ?」


 洞窟の奥を埋め尽くすほどの巨体。


 無数の触手。


 その中央には、大きな口。


 俺は思わず息を呑んだ。


「これ……ゲームにいたやつか?」


 記憶を探る。


 いた。


 洞窟の奥。


 素材を取りに来た時に戦う、中ボス。


「……そうだ」


 大タコが身体を震わせた。


 触手が一斉に動く。


「来る!」


 一本目。


 横へ飛ぶ。


 二本目。


 頭を下げる。


 三本目。


 長刀で弾く。


「重っ!」


 腕が痺れる。


 そこへ別の触手が横から飛んできた。


「くっ!」


 後ろへ飛ぶ。


 だが、大タコは休ませてくれない。


 触手が地面を叩き、岩が飛び散る。


 俺は走りながら距離を取る。


 そのとき。


 大タコの口が大きく開いた。


「……!」


 口の中に、水が集まっていく。


「まずい!」


 俺は横へ飛び込んだ。


 次の瞬間。


 轟音。


 高圧の水が、まるで光線のように一直線に飛んだ。


 水圧レーザー。


 背後の岩壁が削り取られる。


「当たったら死ぬだろ、あれ!」


 ゲームでは見慣れた攻撃。


 でも、現実で見ると洒落にならない。


 大タコの触手が迫る。


 俺は避ける。


 また避ける。


 だが、足元へ伸びてきた触手に引っかかった。


「しまっ――」


 身体が引っ張られる。


 長刀で触手を斬る。


 解放された瞬間、別の触手が迫ってきた。


「ぐっ!」


 身体を叩き飛ばされる。


 地面を転がる。


「痛ぇ……!」


 立ち上がろうとした、そのとき。


 横から瓶が飛んできた。


「まだいるのかよ!」


 瓶が地面に落ちる。


 紫色の液体が広がった。


 俺は慌てて後ろへ下がる。


 そこへ黒い瓶まで飛んできた。


「瘴気まで!」


 敵は大タコだけじゃない。


 周囲のカルト教徒まで、俺を狙っている。


「面倒くさすぎる!」


 俺は長刀を振り、迫ってきた男を倒す。


 だが、その隙に大タコの触手が迫る。


「くそっ!」


 避ける。


 別の触手。


 かわす。


 また別の触手。


 その瞬間、足元から紫色の霧が立ち上った。


「……っ!」


 吸い込んだ。


 身体が重くなる。


「毒……!」


 視界が少し揺れる。


 まずい。


 このまま戦い続けるのは危険だ。


「巫女!」


 霊媒を呼び出す。


 光が集まり、祈りの巫女が姿を現した。


 巫女は何も言わず、俺の後ろに立つ。


「巫女、毒を治してくれ!」


 巫女が手を合わせる。


 淡い光が身体を包んだ。


 重かった身体が、少しずつ軽くなっていく。


「助かった……!」


 これが巫女の力か。


 戦うことはできない。


 でも、この状況では頼りになる。


「巫女は俺から離れるな!」


 俺は前へ出た。


 大タコの触手が迫る。


 かわす。


 斬る。


 またかわす。


 触手の隙間を抜ける。


 だが――。


 大タコが口を開いた。


「また来る!」


 水が集まる。


 俺は横へ走る。


 水圧レーザーが洞窟を駆け抜ける。


 その直後。


 大タコの動きが止まった。


「……今だ!」


 俺は走った。


 触手の間を抜ける。


 大タコの身体へ近づく。


 長刀を構える。


「これで――!」


 一気に踏み込む。


 刃が深く食い込む。


 大タコが大きく震えた。


 触手が暴れる。


 俺は必死に身体を低くしてかわす。


「もう一発!」


 長刀を振り抜く。


 大タコの身体が大きく揺れた。


 そして――。


 ズズン。


 巨大な身体が地面へ崩れ落ちた。


「……はぁ……はぁ……」


 俺はその場に立ち尽くした。


 長刀を握った手が震えている。


「……倒した」


 周囲を見る。


 割れた毒瓶。


 黒い瘴気。


 無数の触手。


 そして、倒れた大タコ。


 ゲームなら、ここまで苦戦しなかった。


 でも、ここは現実だ。


「……相変わらず、気を抜けない世界だな」


 俺は長刀を鞘へ収めた。


 そして、後ろを振り返る。


 祈りの巫女が静かに立っていた。


「助かったよ」


 巫女は何も答えない。


 ただ、静かに俺を見ている。


「……さて」


 俺は洞窟の奥を見る。


 まだ採掘できる素材が残っている。


「もう少し集めていくか」


 俺は再び道具を手に取った。

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