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『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


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第二十五話


マリの塔を出た旺樹は、三つ並んだ塔を見上げた。


 一番高い塔がマリの塔。


 そのすぐ近くに、もう一つの塔がある。


「……確か、あっちだったよな」


 旺樹は塔へ向かって歩き出した。


 ゲームでも、この塔には何度か訪れたことがある。


 中にいるのは、マリの弟子。


 そして――。


「おや?」


 塔の前まで来たところで、声が聞こえた。


「その顔は……」


 振り向くと、そこに一人の男が立っていた。


「やっぱり君でしたか!」


「レイヴァン」


 魔術師レイヴァン。


 以前、イメイとの戦いで力を借りた男だった。


「お久しぶりですね」


「ああ。こないだは助かったよ」


「いえいえ。こちらこそ、なかなか面白い戦いでした」


 レイヴァンは旺樹を眺める。


 そして、ふと長刀へ視線を落とした。


「ところで、旺樹さん」


「ん?」


「魔法に興味はありませんか?」


「ない」


 即答だった。


「おや……」


「全然ない」


「そこまできっぱり言われるとは」


 レイヴァンは苦笑する。


「せっかく私が弟子をしているというのに」


「悪いな」


「いえいえ。興味がないものを無理に勧めるつもりはありませんよ」


 レイヴァンは笑いながら頷いた。


「では、これからどちらへ?」


「湖の近くにある洞窟へ行くつもりだよ」


「洞窟?」


「ああ。武器を強化するための素材を取りに行く」


 旺樹は長刀へ目を向けた。


「モロトフに聞いたんだ。鉱石が必要らしい」


「なるほど」


 レイヴァンは少し考えるように顎へ手を当てた。


「それなら……」


 何かを思い出したように、懐から小さな光を取り出す。


「これを持っていってください」


「何これ?」


「霊媒です」


「霊媒?」


「ええ」


 レイヴァンの手の中で、光がゆっくりと形を変えていく。


 やがて、そこに一人の女性の姿が現れた。


 白い衣。


 静かな表情。


 両手を胸の前で組んでいる。


「霊媒、祈りの巫女です」


「祈りの巫女……」


「戦うことはできません」


「じゃあ、何ができるんだ?」


「呼び出した者の状態異常を癒やします」


「状態異常を?」


「はい」


 レイヴァンが説明する。


「一度呼び出すと、三度まで癒やすことができます」


「三回か」


「ええ。そして、いつ癒やすかは呼び出した者の指示に従います」


 旺樹は祈りの巫女を見る。


 武器らしいものは持っていない。


 戦えるようにも見えない。


「つまり、状態異常になったら、こいつに回復してもらうってことか」


「その通りです」


「便利じゃん」


「ただし――」


 レイヴァンの表情が少し真剣になる。


「体力はあまりありません」


「……なるほど」


「敵の攻撃を受ければ、すぐに消えてしまうでしょう」


「守りながら戦う必要があるのか」


「ええ」


 旺樹は少し考えた。


 これまでの霊媒とは違う。


 クラゲは敵を攻撃できる。


 狼は敵へ突っ込んでいく。


 騎士長は敵の攻撃を受け止める。


 毒娥は敵の動きを鈍らせる。


 祈りの巫女は戦わない。


 その代わり、旺樹を助けてくれる。


「状態異常か……」


 旺樹は腕を組んだ。


 その言葉を聞いて、ゲームの記憶を探る。


 確かに『王環』には、状態異常を使ってくる敵がいた。


 毒。


 出血。


 それ以外にも、いくつかあったはずだ。


 でも――。


「……誰だっけ?」


「はい?」


「いや」


 旺樹は首を傾げる。


「状態異常を使ってくる奴、いたよな?」


「もちろん」


「うーん……」


 何周もしたゲームだ。


 敵の配置も、ボスの攻撃も、かなり覚えている。


 なのに、今は思い出せない。


「……思い出せないな」


 旺樹は頭を掻いた。


「まあ、いいか」


 祈りの巫女を見つめる。


「ありがたく使わせてもらうよ」


「それがいいでしょう」


 レイヴァンは笑った。


「気をつけて行ってきてください」


「ああ」


 旺樹はレイヴァンと別れ、湖の洞窟へ向かおうとした。


 けれど――。


「……いや、ちょっと待て」


 足を止める。


 洞窟に行くなら、準備をしておいた方がいい。


 回復薬も少なくなっている。


「一回、街に戻るか」


 旺樹は来た道を引き返した。


 街へ戻ると、道具を扱っている店へ向かう。


「回復薬を多めに」


「はいよ」


 回復薬を買い足す。


 ついでに矢も補充する。


 食料も買い、必要になりそうな道具を一通り揃えた。


「よし」


 これで準備はできた。


 店を出た旺樹は、街の中を歩きながら周囲を見回す。


 白い建物。


 整えられた石畳。


 湖から吹いてくる風。


 ゲームで何度も見た景色なのに、実際に歩いていると不思議な気分になる。


 そして、街の中央から見える巨大な建物へ目を向けた。


「あそこ……どうやって行くんだ?」


 セイスベールのいる場所。


 ゲームでは、そこへ向かう方法を知っている。


 けれど、現実ではまだ行っていない。


 旺樹は近くを歩いていた男性に声をかけた。


「すみません」


「ん?」


「あの上にある建物へ行きたいんですけど、どうやって行けばいいんですか?」


 男性は旺樹が指差した先を見上げる。


「ああ……あそこか」


「はい」


「悪いが、俺には分からないな」


「そうですか……」


「あそこへ行く方法なんて、聞いたこともない」


「……行ったことがある人はいないんですか?」


「少なくとも、俺は知らないな」


「なるほど」


 旺樹は礼を言って男性と別れた。


 少し歩きながら、考える。


「……ってことは」


 住民が知らないということは、転移門そのものが知られていないのか。


 ゲームでは、街から少し離れた場所に転移門があった。


 だが、そこへ向かう途中には敵がいる。


 巨大な生物もいる。


 普通に暮らしている人間が、わざわざそんな危険な場所へ向かう理由はない。


「そりゃ、知らないよな」


 旺樹は納得した。


 自分が転移門の場所を知っているのは、何度も『王環』を遊んだからだ。


 住民が知らないのも、むしろ当然なのかもしれない。


「ゲームの知識が、こういうところで役に立つんだよな」


 旺樹は小さく笑った。


 ただ――。


 ゲームと同じ場所に、本当に転移門があるのか。


 それはまだ、自分の目で確かめていない。


「……まあ、行けば分かるか」


 旺樹は湖の方へ向き直った。


 まずは洞窟。


 武器を強化するための素材を手に入れる。


 そして、その途中で転移門を探す。


「今度こそ行くか」


 長刀を背負い直す。


 俺は霊馬にまたがると、街を後にした。

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