第二十一話
旺樹は長刀を構えていた。
目の前には、第二形態となったイメイ。
だが、不思議と怖くなかった。
むしろ――。
楽しかった。
極限まで研ぎ澄まされた集中力。
呼吸。
足の動き。
視線。
イメイの身体がわずかに動く。
それだけで、次に何が来るのか分かる。
ナイフ。
避ける。
ハンマーの薙ぎ払い。
下がる。
突進。
横へ。
旺樹は一つ一つの攻撃を、完全に避けていく。
イメイの攻撃が何度も空を切る。
「……おかしい」
イメイが呟いた。
旺樹は答えない。
「先ほどから感じていたが……」
イメイがハンマーを構える。
「お前、私の攻撃が読めているのか?」
旺樹はニヤリと笑った。
「分かるさ」
「何?」
「何百回と戦ったよ」
イメイの動きが止まる。
「たくさん負けた」
旺樹は長刀を構え直す。
「何度も何度も負けて、心も折られた」
「……何を言っている?」
「でもな」
旺樹は笑った。
「一つだけ、感謝してる」
「感謝……だと?」
「ああ」
イメイを見る。
「王環に引きずり込んでくれたことだ」
「……何を訳の分からないことを」
イメイがハンマーを握り直す。
「だが――」
旺樹は目を細めた。
イメイの体力は、もうほとんど残っていない。
決着の時は近い。
イメイが踏み込む。
旺樹はかわす。
次の攻撃。
かわす。
さらに攻撃。
かわす。
イメイの動きが少しずつ乱れていく。
そして――。
イメイが大きく後ろへ下がった。
旺樹には分かった。
「来る……!」
イメイが跳ぶ。
高く。
これまでで最も高く。
巨大なハンマーを頭上へ掲げる。
最大の威力を持つ攻撃。
直撃すれば、間違いなく死ぬ。
だが。
旺樹は動かなかった。
待っていた。
この瞬間を。
イメイが落ちてくる。
地面が震える。
その一瞬――。
旺樹は静かに呟いた。
「……イメイ。ありがとな」
長刀を構える。
最大まで力を溜める。
イメイのハンマーが振り下ろされる。
旺樹は紙一重で身体をかわした。
そして――。
一気に踏み込む。
「――居合!」
長刀が閃いた。
渾身の一撃。
イメイの身体を捉える。
静寂。
イメイの動きが止まった。
ゆっくりと、身体が崩れていく。
「……この程度の力で……」
イメイが呟く。
「王臣は……倒せんぞ……」
その身体が光へと変わっていく。
そして――。
消えた。
その場に、一つだけ残されたものがあった。
王証。
旺樹はしばらく、それを見つめていた。
「……これが」
手に取る。
頭の中に、王証の効果が浮かぶ。
筋力+十。
体力+十。
そして――王証の効果は重複しない。
「……これもゲームと一緒か」
思わず苦笑する。
だが、旺樹はすぐに周囲を見回した。
外壁に繋がれていた人々。
彼らの姿が、少しずつ薄くなっている。
「え……?」
旺樹が駆け寄る。
だが、間に合わない。
一人。
また一人。
他の敵と同じように、光となって消えていく。
「……待ってくれ」
その中の一人が、旺樹を見る。
そして、小さく笑った。
「……ありがとう」
その言葉を最後に、その人も消えた。
誰もいなくなった。
静かな城の前。
旺樹はその場に立ち尽くした。
「……」
勝った。
王臣を倒した。
王証も手に入れた。
なのに。
なんだろう。
この気持ちは。
達成感はある。
でも、すっきりしない。
旺樹は王証を握り締めた。
「……回復薬、買わないとな」
今いる商人のところまで戻るか。
それとも、少し先にいる別の商人を探すか。
どちらにしても――。
「疲れた……」
旺樹はその場に座り込んだ。
身体中が痛い。
何度も死にかけた。
最後なんて、本当に死んだと思った。
「……ほんと、死ぬかと思った」
思わず笑う。
ゲームで勝ったときよりも、ずっと強い達成感があった。
自分の身体で戦った。
自分の判断で避けた。
自分の力で勝った。
そして――生きている。
旺樹はゆっくりと立ち上がった。
遠くを見る。
まだ見たことのない土地が、その先に広がっている。
七つの王証。
その一つを手に入れた。
「……さて」
旺樹は王証をしまう。
「あと……六人か」
そう呟いて、苦笑する。
疲れている。
今すぐ休みたい。
それでも――。
足は、前を向いていた。
「まあ……やるしかないよな」
旺樹は歩き出した。
最初の王臣を倒した男は、次の王臣が待つ土地へ向かっていく。
まだ、旅は始まったばかりだった。




