第十八話
重い扉の前に立つ。
その向こうにいる。
最初の王臣――忌鬼の戦士、イメイ。
旺樹は長刀の柄に手を添えた。
ここまで来る途中、兵士や騎士、そしてトロールとも戦った。
だが、これから戦う相手は違う。
イメイ。
『王環』を始めたばかりの頃、何度も負けた相手だ。
一度は、本気でこのゲームは無理だと思った。
それでも何度も挑み、戦い方を覚え、ようやく倒した。
その相手が、今は目の前にいる。
しかも今回は、一度死ねば終わりだ。
旺樹はゆっくりと息を吐いた。
「準備はよろしいですかな?」
隣に立つアジュールが声をかける。
「ああ」
「かなり警戒しておられますな」
「そりゃするよ。強い相手だからな」
「なるほど」
アジュールは穏やかに笑った。
「では、私もお力添えしましょう」
「ああ。頼む」
旺樹は扉に手をかけた。
ゆっくりと開く。
外へ出る。
城の前には広い空間が広がっていた。
その中央に、一人の男が立っている。
忌鬼の戦士、イメイ。
イメイが旺樹を見る。
「……お前は、王を目指しているのか?」
「ああ」
旺樹は答えた。
「そうか」
イメイは少しだけ旺樹を見つめる。
「俺は、誰が王でも構わない」
「……え?」
「今の俺の地位、生活を脅かさないのであれば誰でもいい」
あまりにもあっさりした言い方だった。
「それを約束できるなら、王証を渡す。お前はそのまま通ってもいいぞ」
「……」
旺樹は黙った。
思わず拍子抜けする。
「そんなことでいいのか?」
「ああ」
イメイは何でもないことのように答えた。
「今の生活は楽しいからな」
「……楽しい?」
「ああ」
イメイが笑う。
「せっかくだ。私の生活を紹介してやろう」
そう言って、イメイは城の外壁へ視線を向けた。
旺樹もそちらを見る。
そして――。
「……なんだよ、これ」
外壁に、人がいた。
鎖で身体を拘束されている。
別の場所には、槍を身体に通された者。
腕を失った者。
そして、四肢を奪われた者までいる。
誰も死んでいない。
だが、誰一人として普通に生きているようには見えなかった。
「こいつらが私のコレクションだ」
イメイは嬉しそうに言った。
「……」
旺樹は何も言えなかった。
かすかな声が聞こえる。
「……殺してくれ」
「……頼む」
旺樹はただ、拳を強く握り締めた。
イメイはそんな様子を見ながら、楽しそうに笑う。
「よく言われる」
そして、何でもないことのように続けた。
「だが、私は殺さない」
「……」
「死んでしまったら、私のものではなくなるからな」
旺樹の目つきが変わる。
イメイは外壁の奥へ目を向けた。
「まだ他にもいるぞ」
そう言って、笑う。
「もっと見せてやろうか?」
「……いや」
旺樹は低く答えた。
「もう十分だ」
イメイは少しだけ首を傾げた。
「そうか」
そして、ふと思い出したように口を開く。
「子供もいいぞ」
旺樹の眉が動く。
「肌が綺麗だからな。私は特に気に入っている」
「……黙れ」
旺樹の声が低くなる。
「それ以上、喋るな」
長刀の柄を握る手に力が入る。
さっきまで感じていた緊張とは違う。
怒りだった。
目の前にいる男だけは――。
絶対に許せない。
「俺は……」
旺樹は長刀を抜いた。
「お前を倒す」
イメイの口元が歪む。
「そうか」
ゆっくりと武器を構える。
「ならば、約束は無しだな」
旺樹も構える。
「アジュール!」
「お任せください」
アジュールが杖を掲げる。
同時に、旺樹の横で霊媒クラゲが赤い光を帯びた。
赤い霧が周囲へ広がっていく。
イメイが一歩踏み込む。
次の瞬間――。
「来る!」
旺樹が横へ跳ぶ。
イメイの攻撃が、さっきまで旺樹が立っていた場所を薙いだ。
地面が大きく削れる。
「速い……!」
ゲームで知っていた。
それでも、実際に目の前で見ると速さも重さもまるで違う。
イメイが振り返る。
その目は、旺樹だけを見ていた。
「逃がさん」
再び踏み込んでくる。
「クラゲ!」
赤い霧がイメイへ向かって広がる。
同時に、アジュールの杖の先へ魔力が集まった。
旺樹も長刀を握り直す。
最初の王臣。
忌鬼の戦士、イメイ。
その戦いが、始まった。




