↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/35

第十七話


 城門の前まで来た旺樹は、設置された火炎放射器をじっと見ていた。


 一定の間隔で炎が噴き出している。


 その動きを見ていると、昔の記憶が蘇ってきた。


「……そうそう。このパターンだったな」


 炎が止まる。


 旺樹は霊馬を走らせた。


 次の炎が噴き出す前に、一気に通り抜ける。


「……あっさりだな」


 ゲームで何度も通った場所だ。


 パターンさえわかっていれば、それほど難しくない。


 しかも、この世界では一度倒した敵は戻ってこない。


 だから、一度ここまで来てしまえば、次に通るときはさらに楽になる。


「これもゲームとの違いだな」


 旺樹はそのまま城の中へ入っていった。


 城内を進む。


 いくつかの敵を倒しながら進んでいくと、やがて大きな扉が見えてきた。


 その向こうにいる。


 最初の王臣。


 忌鬼の戦士、イメイ。


 旺樹は扉の前で足を止めた。


「……」


 長刀へ手を添える。


 そして、ふと思い出した。


「そういえば……」


 旺樹が初めて『王環』をプレイしたとき。


 実は、一度このゲームを投げ出している。


 理由は――。


「イメイだったな」


 世間では、こういうゲームを「死にゲー」と呼ぶ。


 何度も死んで、何度も挑戦して、少しずつ攻略していくゲーム。


 旺樹にとって『王環』は、それが初めての経験だった。


 そして、最初に立ちはだかった壁がイメイだった。


 何度挑んでも勝てない。


 攻撃を避けられない。


 隙を見つけても、反撃される。


 何十回と挑戦して――。


 その頃の旺樹は、ついに思った。


「……このゲーム、無理だわ」


 本当に、一度投げ出した。


 それでも、しばらくしてからまた気になった。


 攻略動画を見た。


 他のプレイヤーがどう戦っているのかを調べた。


 装備を変えてみた。


 戦い方も変えてみた。


 そして――。


 ようやく勝った。


「……あのときは、めちゃくちゃ嬉しかったな」


 何十回も負け続けた相手を、初めて倒した瞬間。


 画面の向こうの敵に勝っただけなのに、ものすごい達成感があった。


 敵が強い。


 だからこそ、勝ったときが気持ちいい。


 その感覚に、旺樹はすっかりハマった。


 それが『王環』を何周もするようになったきっかけでもある。


「そう考えると……」


 旺樹は目の前の扉を見る。


「俺がこのゲームにハマった原因って、こいつなんだよな」


 少しだけ笑った。


 そして、扉の周囲を確認する。


 すると――。


「あれ?」


 壁に、金色の魔法陣が描かれていた。


「これ……あったっけ?」


 記憶を探る。


 確か、これに触れると一緒に戦ってくれるNPCを呼び出せたはずだ。


「名前は……」


 旺樹は眉を寄せる。


「……忘れた」


 何周もしているとはいえ、全部のNPCの名前を覚えているわけではない。


「まあ、呼んでみるか」


 旺樹は金色の魔法陣へ手を伸ばした。


 触れた瞬間――。


 霊馬や霊媒を呼び出したときと同じように、魔法陣の上に霧のようなものが広がった。


 その霧の中から、徐々に人影が現れる。


 やがて、一人の男が姿を現した。


 大きな帽子。


 魔術師らしい服装。


 そして――。


「おやおや。これはまた、随分と若い方ですねぇ」


「……あれ?」


 旺樹は目を丸くした。


「喋った?」


「そりゃ喋りますとも」


 男は楽しそうに笑った。


「私を何だと思っているんです?」


 旺樹は首を傾げる。


 ゲームでは、この男がこんなに喋ることはなかった。


 というより――。


「名前……」


 思い出した。


「魔術師……アジュール?」


「おや、私の名前をご存じで?」


 男は少し驚いたような顔をした。


「まあ、そんなところです」


 旺樹は曖昧に笑う。


 アジュールはそのまま旺樹を見る。


 そして、ふと視線を横へ向けた。


 そこにいるのは、霊媒狼。


「……おや?」


 アジュールの表情が変わる。


「その霊媒……」


 少し近づいて、狼を見つめる。


「それは、マリ様のものですか?」


「マリ?」


「ええ。大魔女マリ様です」


 旺樹は頷いた。


「そうだけど」


「なるほど……」


 アジュールは嬉しそうに笑った。


「やはりそうでしたか」


 ゲームでは知ることのなかった話が、次々と出てくる。


 アジュールは大魔女マリの弟子らしい。


 そして、今の王政を何とかしたいと思っているという。


 旺樹はしばらく話を聞いた。


 思っていたより、ずっと陽気なおじさんだった。


 ゲームではほとんど印象に残っていなかった。


 だが、この世界では違う。


 一人の人間として、ちゃんと意思を持っている。


「それにしても、あなたとはまたどこかで会いそうですね」


 アジュールが笑う。


「私は本体が別の場所にありますから。今の私は、いわばこちらへ呼び出された姿です」


「へえ……」


 旺樹は少し驚いた。


「じゃあ、また会うこともあるのか」


「ええ。きっと」


 アジュールはそう言って笑った。


 だが――。


 ふと、その顔つきが変わった。


 さっきまでの陽気な表情が消える。


 真剣な目で、目の前の大きな扉を見る。


「……さて」


 アジュールが静かに言った。


「そろそろ行きましょうか」


 旺樹も扉へ向き直る。


 その先にいるのは――。


 何度も自分を倒した、最初の王臣。


 忌鬼の戦士、イメイ。


 旺樹は長刀を握り直した。


 アジュールも杖を構える。


「さて、いきましょうか」


 そして――。


 イメイの待つ扉を、旺樹は見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。