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『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


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第十二話


 翌朝。


 旺樹は、机の上に広げた地図を眺めていた。


 昨日、騎士長から手に入れた地図。


 そこには街道だけでなく、周辺の洞窟や廃屋、森の奥にある小さな祠まで記されている。


「まだ、結構あるな」


 ゲームで何度も見た場所だ。


 どこに何があるのかも、だいたい覚えている。


 ならば――。


「今のうちに、取れるものは取っておくか」


 旺樹は地図を折りたたみ、腰の袋へ入れた。


 最初に向かったのは、街道から少し外れた場所にある洞窟だった。


 岩陰に隠れるようにして、入口がぽっかりと口を開けている。


「ここもあったな」


 中へ入ると、薄暗い洞窟の奥から水滴の音が聞こえてくる。


 旺樹は足元を確認しながら、慎重に進んだ。


 そして、細い通路に差しかかったところで足を止める。


「……ここ」


 何の変哲もない場所。


 だが、ゲームではここに罠が仕掛けられている。


 旺樹は少し横へずれて歩いた。


 直後。


 シュッ!


 壁から矢が飛び出し、反対側の壁へ突き刺さった。


「うわ……」


 分かっていても怖い。


 実際に矢が飛んでくると、ゲーム画面で見るのとは迫力がまるで違う。


「これ、知らなかったら普通に食らってたな」


 ゲームでは何度も罠に引っかかった。


 けれど今は、その場所を知っている。


 それだけで生存率が大きく変わる。


「ゲームを何周もした意味は、やっぱりあるな」


 そう呟き、さらに奥へ進む。


 途中で何体かの魔物と遭遇した。


 長刀を抜く。


 敵の攻撃をかわし、間合いを取る。


 隙を見て斬り込む。


 必要なら居合を使う。


 以前よりも長刀が身体に馴染んでいる。


「……ちょっとずつ、強くなってるな」


 洞窟の奥では、いくつかの道具や装備を見つけた。


 使えそうなものは持ち帰る。


 自分には必要なくても、売れそうなものは袋へ入れていく。


 商人の言葉を思い出す。


 ――何か売れそうなものがあったら、持ってきてくれ。


「こういうのも金になるといいんだけどな」


 探索を終えて洞窟から出る。


 その時だった。


 旺樹は頭の中に浮かんだ表示を見て、足を止めた。


「……あれ?」


 レベルが上がっている。


 しかも、一つではない。


「二つも?」


 別にレベル上げを目的にしていたわけではない。


 洞窟を探索して、邪魔な魔物を倒した。


 それだけだ。


「まあ、上がったならいいか」


 旺樹は二つの上昇分を、どちらも技量へ振った。


 長刀を握る。


「これで、もう少し扱いやすくなるかな」


 次に向かったのは、地図に記されていた廃屋だった。


 森の中に、崩れかけた家が何軒か並んでいる。


「ここにも何かあったはず」


 旺樹は一軒の廃屋へ入った。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 そして、足を止める。


「……危ない」


 床板の一枚。


 そこを踏むと罠が作動する。


 旺樹は横を通り抜けた。


 その瞬間。


 ガコンッ!


 天井から刃が落ちてきた。


「知ってても、嫌な音だな……」


 刃は床へ深く突き刺さっている。


 もし知らずに踏んでいたら。


 考えるだけで背筋が寒くなった。


 だが、罠さえ抜けてしまえば問題はない。


 その先にあった部屋を探す。


 棚の奥。


 床下。


 崩れた壁の隙間。


 ゲームで覚えている場所を順番に確認していく。


「これだ」


 小さな装備品を見つけた。


 さらに別の廃屋では、売れそうな道具もいくつか手に入った。


 そして、森の奥。


 地図に記された小さな祠へ向かった。


 そこには淡い光を放つ石碑があった。


「ここか」


 旺樹が手を伸ばす。


 石碑から霊気が溢れ出した。


 次の瞬間。


 三匹の狼が姿を現す。


「霊媒狼」


 三匹とも普通の狼より大きい。


 低い姿勢で地面を蹴り、一気に前へ飛び出す。


 速い。


「うわ、やっぱ速いな」


 敵へ飛びかかる。


 一匹が噛みつき、続けて二匹目、三匹目が襲いかかる。


 攻撃力も高い。


 ただし――。


 敵の反撃を受けた一匹が、淡い光となって消えた。


「やっぱりHPは低いか」


 狼は強い。


 だが、長く戦わせるタイプではない。


 一気に接近して、一気に攻撃する。


「短期決戦向きだな」


 旺樹は霊媒狼を手に入れた。


 次に向かったのは、森のさらに奥だった。


 古い石造りの建物。


 中へ入ると、一人の騎士が立っている。


 大きな盾を構えた騎士。


 その身体は半透明で、明らかに普通の人間ではない。


「霊媒騎士長……」


 旺樹は知っていた。


 だが、実際に見ると妙な感じがする。


 霊媒を手に取る。


 騎士長がゆっくりと頭を下げた。


「我が主」


「……喋った」


「召喚に応じました」


 騎士長は大楯を構える。


「この身を盾とし、我が主をお守りいたします」


「頼もしいな」


 旺樹は少し笑って歩き出した。


 騎士長もついてくる。


 旺樹が少し速度を上げる。


 騎士長も速度を上げる。


 だが――。


「……遅いな」


「申し訳ございません! 全力でございます!」


「全力なのは分かるけど!」


 旺樹が走り出す。


「我が主、お待ちください!」


 騎士長も走る。


 しかし、どんどん距離が開いていく。


「いや、これじゃ護衛にならないだろ!」


「必ずや、我が主をお守りいたします!」


「俺について来れてないって!」


 忠誠心だけは凄まじい。


 そして、実際の戦闘ではその防御力がよく分かった。


 近くの魔物を相手に召喚する。


 騎士長が大楯を構える。


 ガンッ!


 魔物の攻撃を正面から受け止めた。


 びくともしない。


 もう一度。


 さらにもう一度。


 それでも騎士長は動じない。


「硬っ……」


 だが、旺樹が離れると状況が変わった。


 敵は騎士長を無視し、旺樹へ向かってくる。


「やっぱり、そうなるか」


 旺樹が距離を取る。


 敵も追ってくる。


 騎士長は慌てて追いかけてくる。


「我が主!」


 しかし、遅い。


「……使い方が難しいな」


 それでも使い道はある。


 回復薬を飲みたい時。


 避けにくい範囲攻撃が来た時。


 敵が多く、一度分散させたい時。


 そういう場面では、この騎士長はかなり頼りになる。


「俺についてきてもらうんじゃなくて、敵を一時的に引き受けてもらう感じか」


「お任せください、我が主!」


「うん。その使い方なら頼りにしてる」


 最後に見つけたのは、森の中をふわふわと飛ぶ小さな霊媒だった。


「毒娥か」


 淡い紫色の霊気をまとい、蝶のようにゆっくりと飛んでいる。


 近くの魔物へ向かっていく。


 そして、細かな粉を撒いた。


 魔物の動きが鈍くなる。


「痺れ粉」


 完全に動きを止めるわけではない。


 だが、明らかに速度が落ちている。


 しかも、毒娥自身が敵から見つかりにくい。


「こいつは補助向きだな」


 クラゲ。


 狼。


 騎士長。


 毒娥。


 これで四種類。


 ただし、召喚できるのは一度に一種類だけ。


 そして、一度召喚したら次の召喚まで八分。


「どれを使うか、ちゃんと考えないとな」


 旺樹は四つの霊媒を見た。


 攻撃。


 接近。


 防御。


 補助。


 それぞれ得意なことが違う。


 トロール相手に使うなら、どれがいいのか。


 まだ決められない。


 その後も旺樹は領地を歩き回った。


 洞窟。


 廃屋。


 森。


 小さな遺跡。


 ゲームで覚えている場所を一つずつ確認していく。


 その過程で魔物を倒すこともあった。


 気がつけば、レベルは二つ上がっていた。


 レベルを上げるために戦ったわけではない。


 必要なものを探していたら、自然と上がっていた。


「まあ、これなら悪くないか」


 二つとも技量へ振る。


 そして最後に、地図を見ながら目的の場所へ向かった。


 そこには、装備が置かれていた。


 軽く、動きやすい。


 刀を使う者を思わせる装備。


「これならいいな」


 重装備ほどの防御力はない。


 だが、旺樹にとっては防御力より動けることの方が重要だ。


 長刀を背負う。


 新しい装備を身につける。


 そして、もう一つ。


 持久力を高めるタリスマンも手に入れた。


 今つけている技量を高めるタリスマンと合わせる。


「これなら、居合も回避も少し余裕が出る」


 これで準備はかなり整った。


 長刀。


 軽い侍風の装備。


 技量を高めるタリスマン。


 持久力を高めるタリスマン。


 四種類の霊媒。


 そして、これまでの探索で自然に上がったレベル。


 旺樹は地図を閉じた。


 視線の先には、あの巨大な門がある。


 その向こう。


 ゲームで何度も自分を殺した怪物がいる。


「……トロール」


 ゲームなら、何度負けてもやり直せた。


 でも、ここでは違う。


 一度死んだら終わり。


 旺樹は長刀の柄に手を置いた。


「これで、今の俺にできる準備は……ほとんど終わったな」


 まだ門はくぐらない。


 もう一度だけ、自分の装備を確認する。


 回復薬もある。


 霊媒もある。


 地図もある。


 そして、ゲームで得た知識もある。


「……よし」


 旺樹は門を見つめた。


 次にここへ来る時。


 その時は――


 トロールと戦う。


「絶対に、死ぬなよ。俺」


 そう自分に言い聞かせ、旺樹はその場を離れた。

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