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『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


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第九話


翌朝。


 旺樹は昨日、大魔女マリからもらったものを眺めていた。


「霊媒クラゲ……か」


 手の中にあるのは、不思議な形をした霊媒だった。


 ゲームでは何度も見たことがある。


 そして、一周目では実際にかなり使っていた。


「一周目は、結構頼ってたんだよな」


 初めて『王環』をプレイした頃。


 敵が強くて、どうしても一人では厳しいとき。


 そんなときに霊媒を召喚していた。


 霊媒が敵の注意を引いてくれる。


 その隙に攻撃する。


 危なくなれば距離を取る。


 かなり便利だった。


 だが――


「二周目からは、甘えだって言って使わなくなったんだよな」


 ゲームに慣れてくると、霊媒に頼る必要がなくなった。


 敵の攻撃を覚え、自分で避けて、自分で倒す。


 そのほうが楽しい。


 だから二周目以降、霊媒を使うことはほとんどなかった。


「でも……」


 旺樹は霊媒クラゲを見る。


「久しく使ってないから、どんな感じだったか思い出さないと……」


 ゲームで使わなくなってから、かなり時間が経っている。


 実際に召喚したら、どう動くのか。


 どれくらい敵の注意を引いてくれるのか。


 そして、現実でも本当に役に立つのか。


「試してみるか」


 旺樹は街道から少し離れた場所へ向かった。


 しばらく進むと、見覚えのある敵が現れた。


 ゾンビ。


 そして、その近くにはゾンビ犬もいる。


「ちょうどいい」


 まずはクラゲを使わずに戦ってみる。


 ゾンビがこちらへ向かってくる。


 旺樹は攻撃をかわし、長刀を振る。


 一体。


 二体。


 続いてゾンビ犬。


 今度は慎重に距離を取る。


 ゾンビ犬が飛びかかってくる。


 旺樹は横へかわし、そのまま長刀を振り抜いた。


 ゾンビ犬が地面に転がる。


「この辺はもう慣れてきたな」


 残ったゾンビを倒し、旺樹は一度長刀を下ろした。


 そして、霊媒クラゲを手に取る。


「じゃあ、今度はこっちだ」


 召喚の方法は、ゲームと同じだった。


 意識を集中させる。


 すると――


 ふわり。


 淡い光が浮かび上がった。


 その光の中から、半透明のクラゲのような姿が現れる。


「おお……」


 旺樹は思わず声を漏らした。


 本当に出てきた。


 霊媒クラゲは、ふわふわと宙に浮いている。


「……なんか、懐かしいな」


 旺樹は少し笑った。


 ゲームで何度も見た姿。


 それが今、自分の目の前にいる。


 だが、眺めているだけでは何も分からない。


「じゃあ、行ってみよう」


 旺樹は近くにいたゾンビへ向かって歩き出した。


 ゾンビがこちらに気づく。


 その瞬間。


 霊媒クラゲが、ふわりと前へ出た。


 ゾンビの動きが変わる。


 旺樹ではなく、クラゲへ向かっていく。


「おお……ちゃんと引きつけてる」


 クラゲはゾンビから少し距離を取りながら、ふわふわと宙を漂っている。


 すると、クラゲの周囲に赤い光が集まり始めた。


「ん?」


 次の瞬間。


 赤黒い霧が、クラゲの周囲から一気に噴き出した。


 ゾンビが、その霧に包まれる。


「これか!」


 ゲームで見たことのある攻撃。


 赤い酸の霧。


 霧に触れたゾンビの身体が、じわじわと崩れていく。


「結構、攻撃力あるな」


 旺樹は少し驚いた。


 ただ敵の注意を引くだけではない。


 自分が攻撃しなくても、クラゲ自身が敵を削ってくれる。


 その間に、旺樹は背後へ回った。


 長刀を振り抜く。


 ゾンビが倒れる。


「……便利だな」


 次に、ゾンビ犬がこちらへ走ってきた。


「クラゲ、頼む!」


 クラゲがふわりと移動する。


 ゾンビ犬がクラゲへ向きを変えた。


 赤い霧が広がる。


 ゾンビ犬は霧の中でもがきながら、クラゲへ飛びかかった。


 ガツン!


「!」


 クラゲの身体が大きく揺れる。


 それでも消えない。


「一発じゃ消えないのか」


 ゾンビ犬がもう一度飛びかかる。


 ガツン!


 またクラゲが揺れる。


 だが、まだ浮かんでいる。


 旺樹はその間にゾンビ犬へ斬りかかった。


 一撃。


 二撃。


 ゾンビ犬が倒れる。


「なるほど……」


 旺樹はクラゲを見た。


 何度か攻撃を受けても、すぐに消えるわけではない。


 その後も、近くのゾンビやゾンビ犬を相手に戦ってみた。


 クラゲに敵の注意を引いてもらい、その隙に旺樹が攻撃する。


 クラゲ自身も赤い酸の霧で敵を削っていく。


 敵の攻撃を何度か受けても、しばらくは戦い続けていた。


「結構、長く戦えるんだな」


 旺樹は感心した。


 ただし、攻撃を受け続ければ、いずれは消えてしまう。


 そのことも何度か戦ううちに分かってきた。


「無敵ってわけじゃないか」


 むしろ、それくらいのほうが使いやすい。


 完全に頼りきることはできない。


 それでも、自分が攻撃される回数を減らしてくれるだけで十分にありがたい。


「一周目の俺が使ってた理由、分かったわ」


 旺樹は苦笑した。


「これは確かに便利だ」


 ゲームでは、霊媒に頼ることを甘えだと思っていた。


 でも、ここはゲームじゃない。


 一度死んだら終わりだ。


「だったら、使えるものは使ったほうがいいよな」


 旺樹はクラゲを見る。


 ふわふわと浮かびながら、赤い霧を吐き出している。


「これからよろしくな」


 その後も、旺樹は近くの敵を相手に何度か戦った。


 ゾンビ。


 ゾンビ犬。


 クラゲと連携しながら戦うことで、一人で戦っていたときよりも安全に敵を倒すことができた。


 そして、いつもの感覚が身体を包む。


「……あ」


 レベルが上がった。


 これで七。


 旺樹は迷わず、上昇した能力を技量へ振る。


「よし」


 長刀を握り直す。


 少しずつだが、確実に強くなっている。


 そして、隣では霊媒クラゲがふわふわと浮かんでいた。


「霊媒か……」


 一周目以来、まともに使っていなかった。


 けれど今は――


「案外、悪くないな」


 旺樹はそう呟き、街道の先へ視線を向けた。

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