南国探訪
リュカは目を覚ました。なんだか、視界が揺れて、潮の香りがする。目の前には巨大なガラス越しの海だ。魚の群れが優雅に泳いでいる。
「ここは…?」
「ランドゴン帝国でございます。」
リュカが連れてこられたのはランドゴン帝国の首都・ロンソンであった。ロンソンは、海に面した港湾都市で、大陸最南端の都市である。ランドゴンはカトゥル帝国に反旗を翻す方針を決定したために、海底に自らの都を沈めたので、今は海の底で健在している。ランドゴンは古来より「都を海底に沈める秘術」を受け継ぐ国だったのだ。
朝堂の間に通されたリュカは、ナーガ、クレソン、ミント、タイムに挨拶した。
「それで…反旗を翻されるのも困りますが、なぜ私までここに…?」
とリュカは拉致された自分の身の上を怪訝に思う。
「まあ、あなたを拉致すればというのは建前で…」と、クレソン
「実際には我が国の問題の解決をお願いしたいのです。」と、タイム。
「我らにはもはや時間はありません。」とミント。
「まあ、いざとなったら独立させてもらおうかのう。」とナーガ。
「父上、戯れが過ぎますぞ。」「おお、ついつい。」クレソンが父をたしなめる。
「それで…お話をお聞きしても?」「おお、そうじゃ。」ナーガがコホンと息をつく。
「此度の反旗は、カトゥルのランドゴンへの冷遇にとどまらぬ。」
「と、おっしゃいますと?」「汚染が深刻なのです。」とクレソン。
「自然が破壊されている。」とタイム。
「汚染は、われわれの生活圏を脅かし始めています。」とミント。
「それで、私にその解決する腹案がないかと。」
ランドゴンの面々はコクっと頷いた。
いきなりは無茶だ―とリュカは思った。
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その頃、カトゥル帝国の帝都では、リュカの拉致と反旗を翻すとの南国の宣言に動揺が走っていた。
「宰相が拉致されるなど、前代未聞のこと。」と一人の公爵があわてている。
「このまま南国の分離独立につながるのではないか。」と侯爵。
「そうなったら、帝国の損失がはかりしれない。」とその脇の子爵。
ざわめく式典の場において、ドゥラスの一声が響く。
「南国が独立なさるというなら、こちらはそれを押しとどめるまで」
「ドゥラス殿、何か策がおありなのか?」
「もちろん。」とドゥラスは答える。「南国が困ることをやればいいのです。つまり、南国の生命線を断つ。港を封鎖するのです。…すでに準備は整っております。」
一方こちらは、テレサ陛下の御前では、リゼ皇女とパンチ陸相が控えている。
「お母様、お父様。どうしてですか!」
「わらわも聞きたいぐらいじゃ…」
「しかし、南国が実力行使でリュカ殿をさらうとはなぁ。これからどう対応なさいますか?」とパンチ。
「むろん、南国の独立を阻止せねばなるまい。あと、あの計画も進めねばなるまい。」
「お母様、今度こそ宜しくお願い致しますよ。」
その時、部屋のドアがコンコンと鳴った。「入るがよい。」
「これは、ピシー家にロレンソ家、いかがした。」そこには、リルの父・ハリー・ピシーと、ヘレナの父のティカル・ロレンソが立っていた。
「申し訳ございません。我が娘どもが、南国に向かったとのことです。」
パンチとテレサ、リゼは目を丸くした。「とはいうものの、南国は今海底にあるぞ。どうやって向かった?」「”南国へ向かう海軍の軍船に紛れ込むつもりだ。”と、置手紙がありました。」
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さて、海底に沈んだ南国・ランドゴンを訪問したリュカ。彼の滞在する王都・ロンソンは、海底に沈んだものの、周りに空気が保たれているため、呼吸が可能である。
リュカは一度深呼吸をしてから、提案した。「あの…一度この国を見廻っても構いませんか?」
リュカは戸惑っている。いきなり、自分に解決策を見つけることはできない。しかし、南国の人々に寄り添うことはできるかもしれない。そう考えてリュカは、南国の巡回を提案したのだ。
「もちろん、かまわんのじゃ。ごゆるりと滞在なされよ。」ほっほと笑いながらナーガが喜んで答える。
なるほど、市場の話を聞いても、近年漁獲量が減っているらしい。「最近は、小魚しか取れなくなっちまった。」「ああ、海への恵みが足りねえのかな。」「このままじゃ、子供たちが飢えちまうよ。なんとかしてくれないかい?」「この国の人達は、本当に困っている…」とリュカは危機感を強くした。
「しかし、農業は何故できないのですか?」肩をすくんでナーガが答える。「この辺りは、海流が激しすぎるので、海底に何かを農場を作っても流されるし、海上へ浮上する時に農場を作っても、塩の害で枯れてしまうのじゃ。」なるほど、海流の激しさと塩害が原因なのか。
南国は素晴らしい国だ。海底に沈んでいるため、いたるどころで魚が泳いでいる。しかし、地面に足が着くし、息もできる。あそこにはピンク色、オレンジ色、黄色といった色とりどりの魚群が舞い、あちらにはサンゴが樹のように生えている。魚が窓を横切り、クラゲが街灯の代わりとなっている。
ルサーク教の寺院は珊瑚でできていて、市場のアーケードは真珠で覆われている。荷物を運ぶのは馬の代わりにエイだし、郵便事業はタツノオトシゴが務めている。
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リュカは、庭にある海藻と、それに群がる魚を見て、ふと思いついた。「では、今思いついたのですが、海底牧場ならいかがでしょうか?」
「海底牧場?」とタイムが尋ねる。
「ランドゴン帝国の海底に沈んでいる地域に、海藻などを育てます。海藻などを育てて、海の生き物の餌場とし彼らを寄せ付けます。そして、餌場に寄ってきた魚や甲殻類などを育成して、生態系をうまく循環させるのです。」
またこれならランドゴンの “海底森林”(海藻類などの養殖)による生態系の維持にもそぐうことになる。
「それは……我々も考えたことはありました。しかし海流で失敗しましてな。」
「海流が強いなら、岩礁の陰だけ利用しては?」
「汚染に関しては、帝国議会で法律を可決させて、投棄を辞めさせ、万一不法投棄が発生した時に取り締まる法律を制定しましょう。」
「何から何まで。リュカ殿。恩に着ます。」とミント。
ほっほっほっと笑ってナーガはリュカに語り掛ける。
「リュカ殿、海底森林についてはこれから取り掛かるとして、まずはこのランドゴン帝国を一度観光くださいませ。」
リュカは、自分は拉致されたという体で来てるから、王宮のみんなが心配しないか不安だったが、招待をむげに断るわけにもいかない。
「わかりました。貴国を満喫させてもらいますね。」
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南国の首都・ロンソンは、別名を「竜宮城」ともいう。その名の通り、龍神族の王族が住んでいるからだが、その皇城は「竜宮城」の名に引けを取らない、目に物言わせるほどのきらびやかな美しさである。瓦は石膏でできており、屋根には真珠や珊瑚を飾り付ける。庭には太湖石みたいな巨石が置かれ、周りは枯山水で表現されている。水が豊富な南国ながら、水を使わない表現が珍しく、王侯貴族が見せつける贅沢であるため、枯山水は人気を博している。その周りを、ワカメや魚が舞う様子は、圧巻である。昼には、子どもたちが魚の群れを追いかけるように笑いながら駆け回り、夜になると淡く光るクラゲが街路を照らし、都はまるで星空を海底へ映したような景色になる。
「今日は感謝いたしますぞ。何か礼をせねば。」
一通り、竜宮城を見廻ったリュカは、ナーガとの酒宴に誘われている。
「リュカ様は、この国の大恩人じゃ。」
「ありがとうございます。」
「時にリュカ殿は、奥方はおられますかな?」
「いえ、まだ独身です。恋愛というものも、よくわかっておりません。」
「そうですか。」とナーガは配下に合図をする。
「実は、わが一人娘がちょうどリュカ殿と同い年でしてな。リュカ殿さえよろしければ、娶ってやってほしいのですが。」
とナーガの発言の直後、リュカの耳元で聶声がする。
「お初にお目にかかります。クシイナダと申します。」
リュカは、突然の耳元への攻撃に動揺しかかったが、冷静さを取り戻し立ち回る。
「これは、リュカ・チェザーレです。クシイナダ様ですね。なんだか、御兄弟とお名前のイントネーションが違うような。」
「よくお気づきで。この娘は私の後妻との間の子でしてな。彼らとは腹違いの妹なのですよ。」
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クシイナダは、リュカよりも2歳年下に思える。頭が龍の姿の兄弟とは違って、人間の顔をしているし、美人である。ただ、瞳は真珠のように真っ白で、髪は海のように鮮やかな青色をしている。
「われら南国は、リュカ殿との結びつきを強めたいと思います。クシイナダをリュカ殿に娶らせてはいただけないでしょうか。」
リュカは突然の申し出に困惑した。リュカは何せ、まだ13歳である。
「ちょっと待ったー!」
とリュカが返事する前に、広間で誰かが声を上げた。
そこにいたのは、リルだった。「リル!」どうやってここに来たのだろう。
「リュカ君にお嫁さんは、まだ早いの!」
「そうよ、そうよ!私達だって、告白がまだなのに…!」
と第二の声の主は、マリーさん。
「既成事実を作ろうたって、そうはいかないんだから!」とヘレナ。
リルもマリーもヘレナもとても不満そうだ。
このあと、3人に僕は問い詰められることになり、特に何もないと言い切ってこの場を切り抜けた。この姿を見られてとっても気まずいが、3人にまた会うことができて嬉しい。




