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論破王セマユキ  作者: くりょ


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3/4

悪いのはタカヤ


「それでは話を戻します」

セマユキが姿勢を正す。


「タカヤ」

「……なんだよ」

「どうして私があなたと一緒にいると思いますか?」

タカヤは天井を見上げた。

どうしてこうなった。

数十分前までお好み焼きの話だった。

ソースの話だった。

マヨネーズの話だった。

それがなぜ。


人生相談みたいな方向へ進んでいるのか。

「なんでお好み焼きからこんな話になるんだ……」

タカヤは小さく呟く。

しかしセマユキは聞き逃さない。

「論点の整理ができていませんね」

「また論点かよ!」

「お好み焼きの話は終了しています」

「してないと思うんだけど!?」


「今は私の質問です」

逃がさない。

完全に逃がさない。

タカヤは観念した。


「わ、わかったって……」

「はい」

「それはあれだろ」

「はい」

「友達というか……」

セマユキは無言。

「相棒というか……」

セマユキは無言。

「そういう感じで……」


沈黙。数秒。十数秒。


やがて。

セマユキは心底嫌そうな顔をした。

「気持ちが悪いことを言わないでください」

「え?」

タカヤは固まる。

「え?」

もう一度言った。

「え?」

セマユキは真顔だった。

「非常に気持ちが悪いです」

「いや今のどこが!?」

思わず立ち上がる。

「友達とか相棒とかだぞ!?」

「だからです」

「だからってなんだよ!」

セマユキはため息を吐く。

「タカヤ」

「なんだよ」

「なぜ自分に都合のいい解釈しかしないのですか?」

「してない!」

「しています」

「してないって!」

「では聞きます」

来た。

タカヤは頭を抱える。

質問が来た。

「友達とは何ですか?」

「また定義!?」

「相棒とは何ですか?」

「やめろ!」

「そしてなぜ私がそのどちらかだと思ったのですか?」

「だって一緒にいるじゃん!」

「それは事実です」

「おう」

「ですが」


嫌な予感。

「熊と同じ檻に入れられた人間も一緒にいます」

「極端なんだよ例えが!」

「一緒にいることと友達であることは別です」「それはそうだけど!」

「つまり根拠になっていません」


セマユキは断言した。

タカヤは頭を抱えた。

もうだめだ。

何を言っても論理の包丁で細切れにされる。


だが。

セマユキはなぜか少しだけ口元を緩めていた。

本当にわずかに。

タカヤには気付けない程度に。


「では」

セマユキは再び尋ねる。

「もう一度考えてください」

「いや無理だって…」


「どうして私があなたと一緒にいると思いますか?」

タカヤは数秒考えた。

そして。

「……お前が暇だから?」


沈黙。

セマユキは箸を置いた。

かちゃん。

その音を聞いた瞬間。

タカヤは理解した。


――第六ラウンド開始だ。

そしてセマユキは静かに口を開く。

「なるほど」


セマユキは静かに笑った。

その笑顔を見た瞬間。

タカヤは背筋に悪寒が走る。

「タカヤ」

「……なんだ」

「あなたはついに」


一拍置く。

「私を本気にさせましたね」

「いや!」

タカヤは即座に立ち上がる。

「今までのは本気じゃなかったのかよ!」

「それより!」「本気ってなんなんだよ!?」


セマユキは細く目を閉じた。


「そんなことはどうでもいいのです」

「よくないだろ!」

「タカヤ」


静かな声。

「あなたは先ほど」

「うん…」

「友達」

「うん…」

「相棒」

「うん……」

「と言いましたよね???」

「ぁあ…言ったな…」

「では質問です」


また始まった。

タカヤは天を仰ぐ。

「友達なら、一緒に生活をしますか?」

「え?」

「相棒なら、一緒に生活をしますか?」

「そ、それは……」

タカヤは言葉を探す。

「そういう人もいるだろ……世の中には」

「なるほど」

セマユキは頷く。

「では」

一歩近づく。

「異性で」

「……」

「こうして生活を共にする」

「……」

「それの意味が、本当にわからないのですか?」

沈黙。

部屋の空気が変わる。

タカヤは目を見開いた。

「セマユキ……」

「はい」

「それは…………」

喉が鳴る。

「それはつまり、お前は……」

セマユキは静かに微笑んだ。

「ええ」

「その通りです」

タカヤは息を呑む。

ついに。

ついに答えがわかった。

長かった。

本当に長かった。


第五ラウンド。

第六ラウンド。

ようやく辿り着いた答え。

タカヤは覚悟を決める。


「セマユキは……住むところがないのか?」

沈黙。

完全な沈黙。

セマユキは目を閉じた。

ゆっくりと深呼吸をする。

そして。

何事もなかったかのように立ち上がった。


「さてと」

「……え?」

「お好み焼きの話に戻しますか」

「戻るの!?」


「はい」

「いや待て待て待て!」

「ソースを要求した際に――」

「戻るなぁぁぁ!!」


タカヤの叫びは夜空へ消えていく。

結局。

あの言葉の意味を聞くことはできなかった。

いや。

聞けたのかもしれない。

だが。

タカヤがあまりにも鈍すぎた。


セマユキは静かにソースを見つめる。

タカヤは静かに天井を見つめる。


そして悟る。

――今日は眠れない。


いや。

今夜も眠れない。


こうして。

お好み焼き一枚から始まった論争は、終わることなく夜へと続いていく。


タカヤは静かに絶望した。


そして―今夜は、長い。

その笑顔は。

今までで一番怖かった。

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