海
テーブルで冷えたドリンクを飲むことでさっきのモヤモヤを消そうと俺が必死に……。
…………っていうか! 何をそんなに必死になる事があるんだ!? もう! なんなんだよこのモヤモヤは!!
一人で内心が荒れてる俺に気づきもしない、というか周りの景色とドリンクに夢中になってるヨルが、ズコーっとドリンクを飲み干すと今度は腹が空いたと言い始めた。
「なあ! もう昼過ぎだし昼飯食べないか!? なんか周りの奴らも美味そうなの食ってるし!」
「……確かに、腹は減ったな…………」
ヨルの言葉に同調した俺を見たゼンが、近くにいたスタッフらしき人物を呼び食事メニューを持って来るよう頼んだ。
するとスタッフは腰に下がってるサイドポーチから食事メニューを差し出すではないか。
なんだあれ、マジックバッグになってるのか?
スマートに食事メニューを差し出したスタッフにゼンはお礼を言うと俺たちに向けて食事メニューを差し出した。
「何が食べたい? ここの食事メニューも無料だ。遠慮なく食べると良い」
「わあああ、美味そうなのばっかり載ってる……」
「ヨル、ヨル、涎出てる」
差し出されたメニューにはどんな料理にも写真がついており、どれもが美味そうなのは同意する。
同意するけど、ヨルは涎を拭こうな。
「どれにしよう……」
「どれと悩んでるんだ? 俺も頼むから分け合いっこしようぜ」
「リンタロウ! 良いのか!?」
「あぁ、その方が俺も色々食べられるし、一泊二日しかない貴重な時間を有意義にしなきゃな」
「じゃあ! これと、これ、あとこれも! あぁ、でもこれも食べたい……、あぁ一泊二日しかないのに……食べきれないぞ……」
「ハハっ、俺も一緒に食べよう。俺の方が胃袋がでかい。付き合うさ」
「ゼン! 良いのか!?」
確かに、今までゼンとは一緒に食事してきたけど、俺がリッシュ領で過ごしてた時は普通に俺の倍は食べてた。
旅の道中、びっくりするくらい食べる量が少なかったから逆に大丈夫か確認したくらいだ。
ゼンにとって食事はあくまで嗜好品って感じで、腹を満たす為やエネルギーに変える為といった感じはしなかった。
普通の人間は自分のエネルギーに変える為に食事を取るが、ゼンにはそれが感じないのだ。
本人も『食べたい時に食べたい物を食べてるくらいがちょうど良い』などと、謎の言葉を吐いていた。
どういう腹をしているのだろう、こいつは。
また、ゼンに対しての謎が増えた。
「じゃ、じゃああと四つ頼んでも良いか……?」
「四つ!?」
それは流石に俺だけでは食べられないし、ていうかヨルもこのメニュー、一個ずつ結構量有りそうだから少しずつしか食べられないと思うけど大丈夫か??
「大丈夫だ。頼んで良いぞ」
「やったあ! でも残すと勿体無いぞ……?」
「俺が残りを全部食べるから」
「ゼン本気か……、結構量あるぞこのメニュー」
「リンタロウはまだ俺の本気食い見た事なかったな。まあ、大丈夫さ」
けろっと言ってのけたがこいつ、本当に大丈夫だろうか……。
と、さっきまで心配してたことなんて本当に無かったことにしやがったこいつ!!!
その胃袋のどこに入ったんだ!?
「ぷはあ! もうお腹いっぱいなんだぞ! ゼンありがとう!!最後にデザートまで食べさせてくれて!」
「俺も皆で美味しく食べられて幸せさ」
「おま……、その胃袋どうなってんだよ」
「まだまだいけるぞ?」
「嘘だろ!? 普段の量の何倍だと思ってんだ! 旅道中の中でも死ぬほど食ってるって言って良いほど食べてるぞ!」
「まあ俺にとって食事は嗜好品だから」
「今その食事量で、どうやって旅道中はたったあれだけでもつんだ?」
「まああれはあれで栄養取れてるから」
謎だ。謎すぎる。
ファンタジーはイケメンの胃袋までファンタジーにしてしまうのか??
そんな変な事を考えつつ、俺も腹一杯になった腹を抱える。
「俺も腹一杯だわ」
「良かった。リンタロウも好きなの食べれたみたいだしな」
「む……、あ、ありがとな。一緒に食べてくれて」
そう。かく言う俺もデザートまで食べさせてもらいました。
リコの実のクランブリュレタルトなんて美味しくないはずないだろ。
絵面からして美味そうすぎた。あれは。
「おぉ! 海が見えて来たぞ! ほら見ろ! リンタロウ!」
「ほんとだ……って、進行方向海に向かってるけど大丈夫なわけ!? 海も走るって言ってたけど線路はどうなってんの!?」
「大丈夫大丈夫。水陸両用って言っただろ」
「でも線路ってどうなるんだ? 途中で船に変わるのか? このスピードでどうやって??」
今あと数キロ先に見えている海に向かってるこの列車のスピードは半端ない。
一回一時停止でもしてファンタジーだから魔法か何かで船にでも変わるのかと思うだろ? 普通。
「何言ってるんだリンタロウ線路は海に浮かんでてその上をそのまま走るぞ。このスピードのまま」
「へ?」
っっっっでたよ!ファンタジー!!
俺の想像の斜め上を行きやがった!! 線路が浮かんでる!? どう言う事だよ! しかもこのスピードのまま!? 脱線しないのか!? というか海で沈まないのか!?
「ははは、混乱してる」
「するだろ! 普通!!」
「よくわからんが、俺は列車自体初めてだからそういうもんだと思ってた!」
「そうだよなあ、ヨルはそもそもが何もかも初めてだもんな……」
どうやら詳しく聞くと、この列車の車輪と線路には魔石が仕込まれているらしく。その魔石同士が必ず接触し、このスピードを維持して走り、海の上も魔石の効力で列車が沈まず浮かびながら走るんだと。
なんだそれ。
こんなでかい列車動かしてる人間、魔力切れ起こさないわけ?
「その辺はエンジンを動かしているメインの魔石の魔力量で補っている。自然から魔力チャージが行える大きな魔石を乗せているんだ。その他細かい動力は専門のスタッフが交代でみている」
あー、はい。そうですか。ファンタジー様様。
「おい! もうすぐ海だ!」
「はいはい。海ね。海」
「海に入る瞬間は絶景だぞ。見ておけリンタロウ」
冒険者として経験豊富であろうゼンが言うので、俺は席に座ったまま前方を見た。
バッシャーーーーーーーン!!!
「うわ! 水飛沫すご!」
「わっはは! キラキラして凄い綺麗だぞ!」
びっっっっくりしたあ! まさか、ここまで水飛沫が飛ぶなんて! そりゃそうかこんなスピードで走ってるんだもんな。魔法で何やかんや揺れはないとしても、物理的にこれだけの水飛沫飛ぶか。
ここがテラスとはいえガラス張りなのはそう言う理由があるからか。
「あや、もう終わりかあ?」
「入水の一瞬だけあの勢いの水飛沫が起こるんだ。でも外を見てみろもう一面が海だぞ」
「ほへー! これが海か! 青いんだな!」
「そこは前の世界と一緒で安心したよ」
「異世界の海もこんな感じか?」
「うん。こんな感じ」
「へぇー! 綺麗だなあ」
海、見たのいつぶりだろ、良い思い出ないんだよな……。
思い出すは黒歴史。
ここはあっちとは違う。思い出すだけ無意味だ。
そんな事をふと思ったその瞬間。
ガッッシャアアアアァアアアアンンン!!
「うわ! なんだ!?」
「っ! なんつー揺れだよ!」
列車が突然急停止した。
あちこちで悲鳴が聞こえる中、その瞬間ゼンが俺やヨルの側に寄り添いテラス席から転げ落ちそうになるのを助けてくれる。
「ク、クラーケンだああああああああ!!!」
誰かがそう叫んだ後周りを見渡すと、ガラス張りの外には数本のうねうねとした何かの足が蠢いていた。
「クラーケンって魔物だろう!? 初めて見た!」
「ヨル! 今はそんな事言ってる場合じゃない! こんなデカブツに絡みつかれたら列車なんて一捻りだぞ!」
「リンタロウここでヨルと大人しく待っていられるね?」
「ゼン、お前まさか」
「こういう時、冒険者の出番でね」
「…………わかった。無事に帰って来いよ」
「必ずリンタロウの元へ帰ると誓うよ」
じゃ、行って来る。
そう言ってゼンは騒ぎの中、おそらくあの化け物の元へと向かって行った。
****************
さて、まずは列車の外へ出るか。
仮にもこの列車や線路には魔物避けの魔道具も整備されているにも関わらず、あの大物に引っかかるのはちょっと気になるが今は排除が先だな。
リンタロウにも帰る約束をしたし、まあ、俺みたいな冒険者はこの船には他にも乗っているだろうけれど、早く始末するのに越した事はない。
近くにいた避難誘導しているスタッフに声をかけて呼び止める。
「すまない。こういう者なんだが」
「っは! それは……!」
俺が見せたのはS級冒険者しか所持が許されていないプラチナタグ。
こういった豪華列車のスタッフならばVIPの特徴は把握しているものだから、口で説明するより話が早い。
「こちらへ!」
「助かる」
移動しつつスタッフ間で共有されている状況を聞いていく。
「ただいま警護スタッフが退治を試みてますが、この列車を止めれるほどのクラーケンです。我々では限界があり、退治は無理かと思います。こんな時にまさかS級冒険者様がいらっしゃったのは不幸中の幸いです。現在、たまたまこの列車に乗って下さっていた他冒険者様方を列車外へ出て頂きご助力いただく為に一時的に車掌室からの緊急ハッチから出撃準備を行なっていただいております」
「俺もそこに加われば良いのか。ただ、余りにも他冒険者が多いと逆に邪魔になるのだが」
「そこは車掌が出撃メンバーを厳選されるかと、緊急用ハッチはあくまでも緊急用ハッチ。出入り口が狭い上、魔物からの侵入を防ぐ為、一度開いたらすぐに閉じてしまいます。ご存知かと思いますがこの列車の特徴上あんな大物の魔物に襲われる事は想定しておりません。線路やこの列車自体に魔物避けを施しているにも関わらず、このような事態。現在原因追及も並行して行われていますが、原因はまだ特定できておらず……」
「わかった」
「こちらが車掌室です!」
車掌室へと入るとそこには、何人かのスタッフと車掌らしき人物、そして武器を用意している冒険者達がいた。
なぜかそこには先程、しつこく俺に話しかけていた青髪に派手な羽根飾りをつけている男の姿もあった。
こいつも腕に武具を装着しているのを見るに、冒険者だったか。
「車掌! こちらの方はかのS級冒険者様です! 魔物退治にご尽力頂けるとの事です」
「なに!? まさか、こんな所でS級冒険者様にお目見えできる日が来るとは……」
S級と聞いてその場がざわついたが、今はそれどころじゃない。
「現状をお教え願えますか車掌殿」
「これは不幸中の幸い……、現在警護スタッフにより列車内にはまだクラーケンの触手の侵入はされておりません。しかし、この列車を覆うように絡みついて離れず退治する他なく、現在そちらのA級冒険者様を筆頭にプラス五名のC級冒険者様で退治いただこうと話しておりました」
どうやら青髪の奴がA級で他はC級らしい。
しかし、C級冒険者にはあの大物はきついだろう。
遠距離系の冒険者がいればまだ話は違うが、どうやらいない様子だな。
「お兄さん、S級だったんだ……。そりゃあ、さっきの迫力も納得だわ。俺ってば運が良いのか悪いのか大物に声掛けちゃったわけね」
「お前、近距離タイプか」
「俺はこの装備だから近距離タイプに見られがちだけど、性質特化が中遠距離型でね。近接もできるが魔法攻撃はほぼ中遠距離」
なるほど、ならば話は早いか。
「車掌殿、クラーケン退治は俺とこの青髪で行かせてもらう」
「しかし! …………いや、この状況、C級の皆様では貴方の足手纏いになってしまわれますな」
「ご理解ありがとうございます」
「ちょ、ちょっと待って俺とあんただけ? 流石にS級と組んだことないから知らないけど、あのデカブツを退治するんだぜ」
「なんだ、怖いのか」
「いや、そういう意味じゃないけど……! はあ、分かりましたよ。S級冒険者様のお手並みを近くで拝見させて貰える機会なんて早々無いしね」
そうこう言っている間に俺は簡易マジックバックから双剣を取り出し、その他必要な物を用意する。
「俺は近接型だ。主に俺が倒しに行くからお前は邪魔な触手を跳ね除けてくれればそれで良い」
「ひゅー、まさかの1番欲しかった人材じゃん。お手並み拝見しつつ援護させて頂きますよ。あと俺の名前はコルイド。よろしく」
青髪はそう言いながら俺に片手を差し出してきたが、俺はそれを無視して双剣を両手に持ち準備を完了させた。
「車掌殿、緊急ハッチは?」
「こちらです」
「あらら、つれないのね」
「今回限りだからな」
「出会いが悪かっただけだろう?」
その後もぐちぐちと青髪が言ってきたが、俺は気にせず緊急ハッチに入る。
「緊急ハッチは触手が入ってこないようにすぐに閉めます。ご武運を」
その言葉の後に開かれたハッチから、俺達は列車外へと飛び出し、まずは目の前に迫っている触手を斬りつけて外へと飛び出して行った。




