列車の出発
俺が風呂に入った後、ゼンも風呂に入って皆で一息つくと、朝早くに列車のチケットを買ってから時間はもう昼時で。
そうこうしているうちに、列車の出発時間になったのか、アナウンスが入った。
『――――オリマギナ行き、ブライヤーエクスプレス、まもなく発車時刻となります。ご乗車頂いていないお客様はお急ぎくださいませ。繰り返し、お伝えいたします……』
列車の乗車可能時刻になってからすぐに乗車したから、発車時刻まで随分と余裕があった俺達。
ようやく近づいた発車時刻に、ヨルがわくわくと窓の外を眺め始める。
「ヨル。せっかくだから、展望フロアに出発を見に行くか?」
「展望フロア?」
そんなヨルにゼンが提案した内容は、俺にもわくわくと興味を引く内容だった。
「一番前の列車は四階が展望フロアになっていて、フロアの側面や天井が全てガラスでできているから出発時の景色を眺めるのを楽しめると思うぞ。リンタロウも行くだろう?」
「行こう! すぐに行こう! 行くだろ! リンタロウ」
「うん。俺もせっかくだから行ってみたいな」
そうと決まればという事で、俺達はさっそく一番前の車両へと向かう事に。
「わっ、すご。外観だけでも豪華だと思ったけど、内装も負けず劣らず豪華だな」
四階建ての一両目へと踏み入ると、そこは後部車両とはまた別次元の豪華さだった。
一両目に入った瞬間目に入ったのは、一階から二階の中央部分が大きく吹き抜けた先にある豪奢な存在感の煌びやかなシャンデリア。
入り口からずいぶんと奥まである広い一階フロアの床は、前の世界で言えば大理石のような、美しい模様の汚れ一つ見えないピカピカの大きな石タイルが敷き詰められており、その上にふかふかしてそうな絨毯が敷かれてそのまた上にこれまた座り心地が良さそうなソファがシンメトリーに配置されている。
ぱっとフロア内を見た所、この一階には入り口の目の前にサービスカウンターらしきものと、その奥にカフェが併設されているみたいだ。
さっき見たソファはカフェの利用者やその他の乗車客が混じって利用できるみたい。
「って、ヨル。口が開いてる開いてる!」
ふと、ヨルが大人しい事にデジャヴを感じたから、またヨルが何かしでかしやしないかと様子を窺うと、口をぽかんと開けて呆けてるではないか。
これは予想外の反応であった。
ヨルは、今までお爺様達に囲まれて村の中しか知らなかった為、この旅の道中も目新しいものを見つけると目をキラキラ輝かせて飛びついては隈なく見るという行動がほとんどで。
しかも、つい先日立ち寄った村で突然無言になったかと思ったら、村に入るのを禁止されたにも関わらず、ずんずんと皆の静止を聞かずに村に踏み込んだという突飛な行動を行ったのだ。
故に今回も突然無言になったので、また突飛な行動を行うかと思ったのだが……。
どうやら、この目の前の光景はヨルの突飛なスイッチを振り切ってしまうほどの衝撃だったようだ。
まだ口が開いたままだ。
流石に、これ以上開いたままなのはどうかと思ったので、優しく顎を持って閉じておいた。
「ヨル、どうした。そんなに驚いたのか?」
このヨルの反応にはゼンも予想外だったのか、面白いモノを見たと含み笑いが隠せてない声音と表情でヨルに声をかけた。
その掛け声でようやくヨルのどこか行っていた意識が戻ってきた様子。
「はっ! ……ここは貴族か王族とか何かの城かと思った」
「あながち間違ってはいないがな」
「「へ?」」
ゼンの言葉に今度は俺までもがぽかんとしてしまった。
「ほら、列車に乗る前に渡したこれがあるだろう?」
ゼンはそう言うと首にかけてある、ザ・魔法陣っていう模様が描かれているタグが付いたネックレスの様なものを俺とヨルの前に掲げた。
それは、俺とヨルの首にも同じものが下がっている。
「これは特別な通行証でな、この一両目には通行証を持っている者しか入れないんだ。だいたいここを利用するのはチケットとは別にこれが購入できる人間だけ。必然的に王族や貴族、その他は商人や名のある者、冒険者でもそこそこランクがある者くらいしかいない」
「そ、そんな貴重な物だったらかなりの値段がするんじゃ……」
「まぁ、一般的にはそこそこする値段だろうが、せっかくの列車だ。皆で隅々まで楽しみたいだろう?」
その話を聞いて、俺はこのタグが大金に見えてしかたがない。
思わず顔が青ざめる。
「いいのか!? 俺、チケットもこれもお前に支払ってもらったぞ。俺は今まで村で貯金していたお金しかないから、いくらか聞いていないが、チケット代は払えてもこれの料金まではお前に返せないと思う」
そう。ヨルの言うとおり、この列車のチケット代などは全てゼンが支払っている。
チケットを購入する際に、俺はまだこちらの世界のお金を稼いだことないので自分のお金を持っていないし、チケットが無くなるまで時間も無かったので急いで購入したかったのあり、とりあえずまとめて払おうという事になりゼンが払ったのだ。
ヨルが支払いを気にするのも分かる。
「あぁ、その事だが、列車のチケット代もこのタグの支払いも俺に持たせてくれ」
「いや! そういうわけには」
「そうだぞ、ゼン。俺も稼げるようになったらいずれ今までの支払いの分は返そうと思ってるんだ。高価な物は相談してくれないと」
「そう言うと思って黙って買ったんだ。リンタロウは俺が後見人なんだから金の心配をする必要はない。ヨルも夢を持っているのだろう? いざという時の為にその貯金はなるべく使わないほうがいい。未来ある若者に年長者が見栄を張りたいだけだ。気にするな」
丸め込めるように言われて、なんとも納得のいかない俺とヨルはお互い顔を見合わせる。
そんな俺達に、ゼンは続けてこう言った。
「そうだな。どうしても何か返したいというのなら、お礼の言葉と笑顔を貰おうかな」
この追い打ちの言葉に、諦めが付いたのか、まずはヨルがゼンに向けて大輪の花のような笑顔を見せてお礼を言った。
「ありがとう! ゼン。俺が英雄王になった時には何かお礼をするからな!」
そしてそれに続いて俺も。
「ありがとう、ゼン。でも、後見人と言えども必ずこの借りはいずれ返すからな!」
俺とヨルは共に今回は折れるが、ゼンに結局いずれ何かしら理由を付けて今回のお礼をすると遠回しに言う。
ゼンもゼンで、それで構わないのか両手を上げて『了解』と言い、お手上げとこちらに示してきた。
こうしてようやく、展望フロアへ向かう事に。
展望フロアへは階段で上るのかと思ったが、なんとこの世界にもエレベーターが存在したんだ!
正確にはエレベーターという名前ではなくて、こちらの世界では魔法式昇降機と呼ぶらしいが。
使用方法などは前の世界と全く同じで、違う部分は動力源が電力ではなく魔石を使った魔法によるっていうところくらい。
ヨルはマージャーを見たのも初めてらしく、これまたぽかんと口を開けていたが、今度は自分の手で開いた口を閉じていた。
俺はマージャーの動力が魔石っていうところに興味は湧くが、前の世界でエレベーター二は乗った事あったので今回はそこまで物珍しく感じなかった。
きっと、俺より先にこちらの世界に来た異世界転移者か転生者が流行らせたのだろうっていう感じ。
乗り心地は動きがスムーズでとても良かったのには感動したかな。
そして、マージャーに乗りようやく四階の展望フロアへと昇りきり、扉が開いたその時の景色はとても輝かしく目に焼き付いたんだ。
「「わぁ!!」」
「いい景色だろう?」
ゼンの言葉の通り、天井は澄んだ青が広がり、前方にはこれから進む青々とした木々を分けて通った線路が続き、左右はじっくり見る事が出来なかった色とりどりで大小さまざまな建物が並ぶこの町と、様々な服を着た人々が行き交う駅構内をじっくり見渡すことが出来るようになっていた。
左側のガラスに近づいて駅構内をよく見て見ると、なんと! 耳が尖って長い人物が居たり、明らかに身長が二メートル以上あるだろうと思われる者が居たり、肌の色が赤褐色の者もいたり、様々な人種が行きかっているのが良く分かる。
遠目だけど、初めて人族らしくない人種を見る事ができたぞ!!
列車に乗るまでの駅構内にいた時は、チケットを購入する事や乗車についての説明をゼンから聞いたりであまり周りをよく見てなかったから、ようやく落ち着いて見れた。
でたよ! ファンタジー!
なんだか、この光景を見ていると本当に自分は異世界にいるんだなと再認識させられる。
「凄いな! リンタロウ! いろんな人種がこんなにたくさんいるぞ! それによく見れなかったけど、ここの町はこんなに色鮮やかな町だったんだなあ」
「あぁ! 俺、こっちに来てから初めてこんなにたくさんの人種を見たよ。街の風景も色鮮やかでいろんな建物があって綺麗だ」
俺のすぐ横で一緒に景色を眺めていたヨルも、俺と同じことを思っていたよう。
ヨルのキラキラと輝く表情や瞳を見た後、もう一度ガラスの外を見ようと前を見ると、ガラスにうっすらと映っている俺の表情や瞳がヨルのようにキラキラと輝いていて、まるで童心に帰ったようで少しくすぐったかった。
「よかった。どうやら気に入ってくれたようだな」
「ゼン! 連れて来てくれてありがとう!」
「俺も俺も! 俺が英雄王になったら必ずこのお礼はするぞ!」
『――――まもなく出発いたします。ご乗車の皆さまは出発の際の揺れにご注意ください。繰り返しお伝えします。オリマギナ行き、ブライヤーエクスプレス……』
「あは! もうすぐ出発するって! 楽しみだな!」
「おれもちょっとわくわくしてきた。魔法で動く列車、どんな感じなんだろ」
「動き出しは意外と揺れるからな。お前達、近くの手すりに掴まっておけ」
「はーい!」
「わかった」
それから少しの間、ゼンとヨルと外を眺めながら談笑をしていたら、ピィイイイというおそらく汽笛らしい笛の音が大きく音が響いた。
その後すぐにアナウンスで出発の知らせが流れると、ガタンッと大きく車体が揺れ、景色が少しずつ動き出した。
いや、正式に言えば動き出したのは俺達が乗っている列車が動いたのだが。
ゼンに言われた通り、事前に大きな揺れに備えていたから、実際に車体が揺れてもすぐに反応できたので余裕であった。
そんな事よりも、目の前の景色の変化の方が魅力的だった。
「わっ! 動き出したぞ!」
「ははっ、とうとう出発するんだな」
「二人は初めての列車度だろう。存分に楽しんでくれ」
三者三様、ヨルはガラスに張り付いてそのまま外を眺め、俺は進行方向を向いて列車の行く末に胸を弾ませ、ゼンはそんな俺達の様子を余裕のある表情の中、あたたかな瞳で眺めてくれていた。
さあ、ついに出発!
今日も含めて二日もすれば、都心部であるオリマギナへ到着だ!!
俺は次の旅路への期待を列車がスピード上げていくと共に上げていったのだった。




