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再び現れた陰

 




「守護の魔法が破られて警笛が鳴ったと思ったら、よくも我が家を荒らしてくれてるね」







 リッシュ家でいつも通り、夕食の準備をセリューとしていたパルフェットは、まず己が施した守護魔法が破られた気配を感じ、その場を置いてすぐさま家の外へと出た。


 屋敷を出た瞬間に耳に入ってきた警笛の音。

 魔力を込めて吹く笛の音は長距離にも渡って危険を知らせることができるので、笛を吹いたベルトランから屋敷の傍に立つパルフェットまで容易に届いた。


 そして、二度響く警笛。

 その二回の警笛の音でパルフェットは敷地内に危険が入り込んだ事実に表情を変えた。

 それは、ここ何年も子供達にさえ見せた事のない鋭い瞳であった。



「奥様、お持ちいたしました」



 パルフェットが外に出た瞬間に察しの良いセリューは、屋敷の武器庫に綺麗に整備された状態で置かれていた武器を、必要な分だけ見繕いパルフェットの傍へと現れた。

 セリューから差し出された武器の一つ、狙撃銃を手に取り構えるとパルフェットは備え付けられている照準器を覗き込み先を見つめる。

 すると、照準器の前で発動される魔法陣。それにより、より遠くが見通せるのだ。


 屋敷は高台に位置しており照準器から見えるパルフェットの視線の先の牧草地には、まずこちらへと走ってくる牛達と子供達の姿が目に入り、更に奥には飛竜と馬に跨り子供達へと近づいて来ている不届き者共の姿があった。


 ここで冒頭のパルフェットの台詞に戻るのだ。



「セリュー、援護する。主要人物以外を切り捨てろ。――――ただ、殺すな。子供達の前だ」

「御意に」



 既に細身の剣を携えているセリューが、先に己の性質特化を駆使して先に進む。

 パルフェットは、その場を動く前にセリューから受け取っていた銃の収まっているショルダーホルスターを装備すると、その場で手に所持していた狙撃銃をしっかりと構えなおした。


 照準器から見える光景は先程と変わっており、子供達は数人の不届き者共に囲まれており、他の不届き者共は牛を次々に盗んでいっているではないか。



「人の敷地に勝手に踏み込んで、盗みをし、我が家の子供達にまで手を出そうだなんて」



 パルフェットはとても、とてもゆっくりと息を吐き、吸い込んでを、何度も繰り返す。

 細く、長く。


 その呼吸の間にも変わる状況。

 子供達に近づく不届き者が二人。その内の一人を捻り倒すリンタロウ。

 だが、その間にもパルフェットの呼吸は変わらない。

 視線は更に鋭く狙いを定め、吸い込み、吐いていく呼吸も更に鋭く、どんどん耳からは音が消えていき心の臓の音まで聞こえなくなるような集中。


 双子が土壁を作る光景。


 一つ一つ丁寧にパルフェットの銃口に魔法陣が構築されていく。


 そして創り出されたばかりの土壁が崩れ去る。

 その瞬間。








 ――――――――ズガァアン!!!








「許されると思うなよ」



 撃ちだされた弾丸は三つに割け、狙い通りに不届き者共の銃を撃ち落とした。











 *********











 俺は今状況を整理している。

 たった今、撃ち落された銃は破壊され地面に転がり、手に持っていた銃を撃たれた男達は衝撃が自分の手や腕にまできたのだろう、それぞれが手や腕を抱えて痛みに悶えている。

 その男達がすぐさま銃を再び手に取ることはできないだろう。


 目の前に居るリーダーらしき男は先程まで何もかも計画の内とか言いながら、今はうろたえているのでどうやらこの遠距離攻撃は計画の中には入っていなかったようだ。


 …………これを機に、逃げられる。



「リン! セリューが来た!」



 シャルル君のその言葉にリーダーらしき男から目を離し、後ろの屋敷の方角を見ると、まだ遠いがセリューさんが牛を盗んでいっている男達をバッタバッタと切り捨てながら、こちらに近づいて来ていた。


 その光景を見ながら、俺は自分自身にアドレナリンがどばどば出ているのが凄く分かる。

 目の前で起こっている事が今までにない経験で、人がどんどん切られて血を流し倒れていくのを見れば普通なら恐怖を感じ言葉で言えない何かに襲われるだろうが、アドレナリンのおかげとセリューさんが手加減しており相手の傷が致命傷に至ってない様子なのもあってか、今は冷静に物事を考えられている。


 きっと、セリューさんのその奥、屋敷の近くにパルフェット様がいるに違いない。

 セリューさんは剣を振るっているので、きっと俺達の周りに居た男達の銃を撃ち抜いたのはパルフェット様だ。

 そして、一番厄介そうなリーダーらしき男を撃ち抜かなかったのは立ち位置的に俺達が邪魔で動けないから。

 その証拠に、セリューさんの周りの男達が撃たれているが、未だにリーダーらしき男は無傷である。



「っちぃ!! こんなにも早くアレを使わないといけなくなるとは!!」



 もう一度リーダーらしき男を見ると男は何かをぼやき、銃をこちらに向けている手とは反対の手でローブの中を探り何かを取り出そうとしている。


 まずい!!!

 これ以上、男に何かをさせれば逃げられなくなる!!


 そう判断した俺はすぐさま子供達の頭を抱えてその場に倒れこんだ。



「伏せて!!!」

「「っわ!!」」

「ぅぷ!」











 *********











 パルフェットはセリューを援護しつつ、子供達の様子を探っていた。


 ちょうどパルフェットの位置や角度からだとあと一人、子供達の傍に無事の姿で残っている男を撃つには子供達に頭を下げてもらわねば、銃弾に巻き込んでしまう可能性があるので撃つに撃てないのだ。


 リンタロウならば、状況を理解しこちらの意図を感じ取り動いてくれるはず。

 そう確信しているので、パルフェットは静かにその時を見逃さないように子供達の様子を探っていた。


 そして。



「――――――良い子」








 ――――――――ズガン!








 パルフェットの考えの通り、リンタロウが行動を起こしたことによって銃口は子供達の傍に居る男一人に向けられ、銃弾は発砲された。











 *********











「っうぐぁ!!!」



 リーダーらしき男が手にしていた拳銃が撃ち抜かれる。

 俺が考えていた予想は当たっていたのだ。

 パルフェット様がリーダーらしき男を撃ち抜いてくれた。



「皆! 今のうちに逃げよう!」



 俺はまだ何が何だか分かっていない様子の子供達を立たせると、第一の安全の為に逃げさせた。

 子供達は俺の言うとおりに屋敷の方向へと走り始め、俺もその後ろに続いて背後から子供達を守れるように走る。



「くそがぁ! このまま、逃がすわけがねえだろ!!」


 

 そのまま無事に逃げ切るために走っていると、後方より苦悶しながら吐き出される声が聞こえたので俺は走りつつもその声の方向へ振り返る。

 すると、パルフェット様に撃たれ苦悶していたリーダーらしき男が、拳銃を持っていた手とは逆のローブの中にいれていた手を振りかざし、何かを地面に叩き付けていた。







 

 パリィン!







 

 地面に叩き付けられた何かから、ぶわりと黒っぽい靄のようなものが広がり、まだ近くを走っていた俺達の所までそれは瞬時に届いてしまう。



「しまっ、ぐっ!!!」



 俺はすぐさまにまずいと思い何か行動に移そうと瞬時に動くも、黒っぽい靄の勢いには勝てずに子供達と一緒に靄の中へと入ってしまう。

 そしてその瞬間、靄が晴れていない視界の悪い中でも分かった。

 人間らしき誰かが、俺の背に乗って思いっきり地面に押さえつけてきた。

 どうにかして身を動かして逃げようと試みるも、かなりの力で押さえつけられており無理だった。

 そんな状態でも、次に何かできることはないかと考えたその瞬間に靄が一気に晴れていく。


 靄が晴れた瞬間、目に差し込んでくる夕暮れ時の日差し。

 その眩しさに俺は少しだけ目が眩むが、目が光に馴染み視界がクリアになった光景は、黒っぽい靄が晴れたはずなのに絶望の黒で染まっていた。


 目の前に広がっていたのは、凄まじい数の先程まで居なかった顔ぶれの男達。

 子供達は囲まれて、俺達に近づいて来ていたセリューさんの方にもおそらく黒っぽい靄から現れたであろう男達が襲い掛かっている。

 どうやら今現れた男達は先程まで居た男達とは違い、戦闘や魔法の手練ればかりなのだろう。


 先程まで居た男達に対しては余裕をみせて戦っていたセリューさんが、人数におされているのもあるだろうが、非常に戦いづらそうである。

 そして何より気になる事が、パルフェット様の援護射撃が無くなっているのだ。

 逃げ走っていた牛達もまた次々と荷車や檻に詰め込まれていき、どんどん状況が悪化していく。











「いやぁ、思っているより早い出番になってしまいましたねぇ」











 どこかで聞いた声。

 その声は俺の背後、俺を押さえつけている人物から聞こえる。



「先日ぶりですねぇ、おにーさん」



 俺を押さえつけていたのは、先日の市場で声をかけてきた。


 ――――――あの幻覚と思いたかった、人を値踏みする汚い瞳をした男であった。



「あんた……あの時の」

「また会いましたねぇ。ささ、おにーさん。これを付けましょうねえ」



 あの時、市場で会った男はそう言うと、先程別の男達が持っていたのと同じ手錠を俺の手首に取り付けた。

 この男に話しかけられていると言うだけで鳥肌が立つのに、触れられている事実に吐き気がしてくる。


 だが、男から手錠を付けられた瞬間、吐き気とはまた違う別の凄い違和感に襲われる。

 その違和感はつい先日まで俺がずっと感じていた違和感だ。



「これって、もしかして制御装置!」

「せーいかーい」



 男は俺に手錠を付けると、簡単に俺を押さえつけることを止めて離れていく。



「おにーさんはまだこの世界に来たばっかりだけど、もう魔力操作は制御装置つけなくてもある程度できるんでしょう? 魔法も何か習っていたみたいだし。念のため制御装置は付けておかないとねー。もちろん。子供にも」



 俺はこのリッシュ家の敷地から出て魔力を出した事は一切ない。

 だから俺の魔力操作が制御装置外せるようになったとか、つい最近の治癒魔法を習っていた出来事までリッシュ家の人達以外は知らないはずなのに、どうしてこの男は知っている?

 

 俺がそう考えを巡らせている間にも、市場で出会った男は他の男達に指示して子供達に手錠を付けさせるつもりだ。



「く、くるな!」

「お前らなんて、お前らなんて! 母上が!」

「その母上様はー? おっかしいねぇ? さっきまでバンバン撃ちまくってたのが無くなっちゃったねぇ? あっれぇ? ……どうしてだろぉうねぇ」

「「ひっ!」」

「ひぅ、ぅうわぁああああん!」



 嫌な笑顔で子供達に迫る市場で会った男の放つ言葉の感じだと、パルフェット様が発砲しなくなった理由は絶対にこいつが何かしたせいだと分かる。


 その事も、セリューさんの事も、笛を鳴らしたベルトラン君の事も気になるが、今は子供達だ!


 シャルル君とサロモン君は男の言葉に怯え、恐怖に我慢が出来なくなったプティ君は泣き叫び出した。

 市場で会った男に指示を出されて、手錠を持った子供達を囲んでいた男の一人が、無容赦にプティ君の腕を掴み上げる。



「まずは、目当ての末のチビだな」

「っふぇえええ! にいちゃぁあああああ!!!」

「「プティ!」」


「くそ! 子供に手出してんじゃねえぞ!」



 俺に背を向けてプティ君の腕を掴み上げている男に向かって、俺は倒れていた体勢から己の腕を軸にして思いっきり足を振り上げた。

 だが、その足は狙っていた男に当たる事はなく、まだ近くにいた市場で会った男に掴まれてしまう。



「っち!!」

「うーん、いい蹴りしてるね。おにーさん、さっきの動きもそうだけど少しは護衛術か何かを習っていた感じだねぇ」



 本当に、この男はいつからどこで見ていたのか。

 俺の魔力操作の事も、ついさっきまでの出来事もどうやって見ていたのかこの男は知っている。

 おそらく、さっきまでのリーダーらしいと思っていた男はそうではなく。

 こいつが本当のリーダーなのだとはっきりと分かる。

 何故かというと、周りにも指示を出していたこの男、先程までリーダーと思っていた男とは違い、俺の蹴りに瞬時に反応し対応して防ぐその動きや視線、言葉の端々などから全く隙を感じないのだ。


 そして、そんな男に掴まれた足を無造作に投げ捨てられたが、俺はその反動を利用して転がり起きた。



「やっぱり良い動きするねぇ」








 ボコッ!

 ――グシャ!



「…………ん?」

「プ、プティをかえせ!」

「リンタロウに、二人に手を出すな……!」



 シャルル君とサロモン君が、魔力を使いプティ君を掴み上げている男とリーダーの男にむかって土の塊をぶつけたのだ。


 凍り付いてしまうその場の空気。











「っぎ!!」

「ぐぅっ!!」


「子供だからって、容赦しないよ?――――――大人しくしてないと、このまま潰しちゃうかも?」



 男の力で蹴り上げられ地面に叩き付けられるシャルル君とサロモン君。

 リーダーの男はその勢い止まないうちに大人の大きなその手で二人の頭を掴むと、二人が倒れこんでいる地面に、更に押し付け不気味に囁いた。


 俺はそんな光景を目にして、正気でいられるほど大人ではなかった。



「くそ野郎がぁあああ!!」



 ――――――パァン!



 子供達に駆け寄ろうと足を踏み出したその瞬間。

 熱を持つ左脚。


 そう、俺は撃たれたのだ。

 目の前に居るリーダーの男に。

 男が所持している銃からは僅かに硝煙が昇っている。


 撃たれた痛みで力が入らなくなった脚のせいで崩れ落ちる俺の身体。

 咄嗟に力の入る上半身で身体を支えたため完全に地面に倒れこむことなく、どうにか上半身を起こす形で撃たれた左脚を見る。

 どうやら、脚を掠めるように撃たれたようで傷は浅いようだが、慣れない痛さに傷口が脈打っている。



「売り物になるのに傷を付けたくなかったけど、思ったよりおにーさん厄介だから大人しくしてもらうね」



 俺が、撃たれた脚に気が向いている間に近づいていたリーダーの男。

 男はそう言葉を放つと俺の頭に己の足を振り下ろした。


 逃げる暇なんてなかった。


 何度も、何度も。

 頭だけでなく、腕も、胴体も、銃弾を受けた脚までも。


 振り上げられる足の数が増えるたびに、消えていく俺の意識。


 あぁ、ダメだって。

 このまま気を失ったらどうなる?

 声が聞こえなくなってしまったシャルル君とサロモン君は?

 それとは反対に響くプティ君の泣き叫ぶ声。

 それに、パルフェット様、セリューさん、ベルトラン君…………。


 駄目だと分かっていても、俺は暗い意識の底へと落ちていった。











 *********











「ふぅ、可愛い顔しながらおにーさん意外としぶとかったなぁ。やっと落ちたよ」


「おい! あんた!」


「んー? 今度はなーにー?」

「この家の領主夫人が銃を使うとは計画の話で聞いてたが、こんな遠距離を撃てるなんて聞いてねーぞ! おかげで俺の右腕は使えねえし部下は何人もヤラれちまった!」

「あぁ、君は第一陣を任せた人かぁ」



 リーダーの男に向かって来るボロボロの一人の男。

 それは先程、黒い靄を発生する前まではリーダーと思われていた男であった。



「どうしてくれるんだ!! こんだけ被害がでりゃあ俺の方が大損じゃねえか! あんたが良い稼ぎになるっていうから手を貸してやったってぇのに、責任取ってくれるんだろうなぁ!!」

「あーはいはい。分かってますよー。ちゃんとそこのところは考えていますって」

「ぇ…………、っはは、なんだ。話が分かるじゃねぇか」



 頭に血が上っている勢いのまま怒鳴り散らした男は、自分が怒鳴り散らしたところで目の前に詰め寄っている男がすんなりと責任取るだなんて言わずにごねるのではと思っていたので、リーダーの男が逆にさらっと理解を示したことに拍子抜けしてしまう。



「そうですよー、分かってますよー。全て、計画の内ですから」


「っへ?」



 





 ――――――パァン!

 ドサッ…………。








「さて、さくっと撤退しますよー」










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