表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/45

鳴り響く笛

 




「はいはーい! 今日もゼン君に代わって私がお勉強会の先生ですよー。皆、昨日勉強したことは覚えているかなあ?」

「「「「「はーい!」」」」」



 なぜゼンではなくパルフェット様が指導役をしているかと言うと、楽しく市場で一日過ごした次の日からゼンは、以前ベルトラン君から聞いた半年前から問題になっていた窃盗事件に付きっきりになっているのだ。

 俺達の旅の出発予定であった二週間はその事件のせいで多少過ぎてしまったが、事件が無事に解決し次第、旅に出ることになっている。


 ちょうど先日市場が終わったそうで、市場に割いていた警備の人員をまた元に戻せることになったらしいのと、どうやら窃盗事件を犯していた窃盗団の尻尾を掴んだらしく、とうとうそいつらを捕縛する計画になり事件も佳境になっているのでとても忙しそうなのだ。

 それに加えてドゥース様も窃盗事件に参加されていて、二人はここ最近朝早くから夜遅くまで働き通しなので少し心配。


 今朝も…………。










 

「――――――ゼン、もう行くのか?」

「リンタロウ? こんな朝早くにどうした?」



 子供達もまだ起きていない早朝というよりも、まだ夜の時間帯だがゼンとドゥース様は支度を済ませて玄関から外に出るところだった。



「……うん、最近あんまり顔見れてなかったから見送りをって」

「そうか、ありがとう。一緒に竜舎まで来るか?」

「うん」



 俺はドゥース様とゼン、そして俺と同じで主人を見送るために居たセリューさんと一緒に竜舎まで向かった。



「リンタロウ、朝早かったのによく起きれたな」

「それはお前もだろ。俺だって早起きできる」



 別に俺は寝坊助というわけではないが、未だに朝は双子お兄ちゃんズに起こされている。

 俺だってだらしないと思われたくなくて、何度か双子お兄ちゃんズより早く起きようと時間を調節して目覚ましをセットして寝ているのにもかかわらず、あいつらどうしてか目覚ましが鳴る一分前に起こしに来るんだよ。

 俺はあいつらを寝かしつけてから、自分の部屋に戻って目覚まし時計を設置しているので何時に俺が起きるかあいつらは知らないはずなのにおかしいだろ?

 そんなあいつらが、俺を大声で起こした後に鳴り響く目覚まし。

 まじでカオスだぞ。


 今日はセットしていた目覚ましより自然と早くに目が覚めてしまったのだ。

 そのおかげかさすがに双子お兄ちゃんズは寝ていたので、自然に起きれた俺は最近まともに顔を見ることができていなかったドゥース様とゼンを見送ろうと思ったのだ。


 竜舎に着いて、ドゥース様とゼン、セリューさんは飛竜に鞍を付けて出発準備をしている。

 もちろん、俺も鞍付けを手伝っている。

 飛竜達はセリューさんが事前に食事などを済ませてくれているらしいので、鞍を付けるくらいで準備が簡単に済むそうだ。



「おはよう、カリスタ。今日も綺麗だね」



 俺はゼンの相棒の飛竜カリスタに挨拶をし、優しくその顔を撫でた。



 最初カリスタと出会ったのはあの《発覚! 飛竜がトカゲ事件》の時だ。

 実は本来カリスタはゼン以外の人間には懐かず触れられるのを嫌うらしいのだが、初めて会った時にさり気なく背に触れた俺は嫌がられるどころか、もっと撫でろと強請られた。

 もう、その時の周りの反応と言ったら目ん玉零れ落ちるんじゃないかっていうほど目を見開いて驚いており、その事を聞いた俺も驚いた。

 世話になっているリッシュ家の人達でさえ、カリスタに触れようとすると噛まれるそうだ。

 ちなみに真っ先に噛まれたのは双子お兄ちゃんズと思われそうだが、そうではなくドゥース様が一番最初に噛みつかれたらしい。

 それもそれで驚きだよな。



 朝なのにきちんと目が覚めているらしいカリスタは俺にもっと撫でろとすり寄ってくる。

 もちろん俺はそれにしっかりと応えてやる。

 なんてったってこれからお仕事頑張るんだぞ? しっかりと労ってやらんとな。

 俺は、カリスタの黒曜石のように艶々とした美しい鱗に覆われた頭を、わしゃわしゃと撫でて最大に甘やかす。



「カリスタはすっかりリンタロウに懐いたな」

「いいだろ? そのうちゼンを上回る、フラれても知らんからな」

「はは、それは困るなあ」



 そうやって俺のつまらない言葉にもゼンは笑ってくれる。

 俺は近くに垂れていた手綱を掴んで、カリスタに『今日もよろしく頼む』と言いながら優しくその頭を撫でてやっているゼンに渡した。



「ありがとう、リンタロウ」

「…………気を付けて行けよ」

「もちろん。今日には方が付く。帰ってきたら労わってくれるか?」

「……そりゃあ、もちろん。


 ………………頑張って仕事して帰ってくるカリスタをな!」



『そこは俺だろう?』と言いながら笑っているゼンの言葉は聞かなかったことにした俺は、もう竜舎から出て飛竜に乗る直前のドゥース様にも挨拶をする。



「ドゥース様、お気をつけて」

「あぁ、リンタロウ殿、見送り感謝する」



 ドゥース様は挨拶をした俺に続いて竜舎から出てきたゼンを見ると飛竜に乗り、本格的に出発する体制に入った。

 それに倣ってゼンもカリスタに乗り出発準備を完了させた。



「二人とも! 本当にお気をつけて!」

「リンタロウ殿、家族に今日は早く帰ると伝えてくだされ」

「リンタロウ! 二度寝をするんじゃないぞ!」



 そう言って、二人はまだ星が輝く月夜の夜空へと飛び立っていった。











 本当に思い出しただけで、ゼンの一言多い口を縫い付けてやりたい気分になるが、それは置いといて。

 ゼンは今日には方が付くと言っていたので、きっと今日には窃盗団の捕縛をするに違いない。

 危険がない、と言い切れない事件にかかわっている二人を思うと心配になる。


 まあ、はっきりと心配してますって顔を子供達の前でしてしまうわけにはいかないので、俺は通常通りお勉強会を受けている。

 そして、そんなゼンがいないお勉強会は、先程の通りゼンに代わってパルフェット様が俺達に魔力操作や魔法の指導をしてくれている。



「じゃあ、昨日と同じでリン君とプティは私と再生、治癒を練習します。シャルル、サロモンは五大魔法の基礎をベルトランに教えてもらい引き続き練習です。ベルトランはしっかりと復習すること」



 パルフェット様の指示に従い、それぞれが自分の勉強を始めた。

 何故俺が再生と治癒について勉強しているのかというと、俺は魔力の性質特化がパルフェット様の性質特化に似ている所があることから、同じことができないか試したところ、できてしまったゆえだった。

 数日前にパルフェット様に初めて教えて頂いた時に…………。



「うーん、私の再生、治癒とは似ているようで似てないと思ったからどうかと思ったけど、一応できはしたねぇ……。とは言っても私の魔力の動きとは違うし、再生、治癒した結果は私のとはやっぱり少し違って、それだけでなくなんかちょっと再生された草は生命力に満ちてるし、治癒は傷跡がなんか若返った気がする…………」



 との事で、俺はパルフェット様の教えに従い真似してやってみただけなのだが、どこか違うところがあるらしい。

 俺にはその違いは見て分からないし、再生と治癒というのは繊細な魔力操作が必要らしく、パルフェット様のように広範囲を再生したり、大きな怪我を治癒させたりとかはできない。

 魔力を身の内に収めつつ適量の魔力を出すという細かい操作が難しいのだ。

 一応どれくらい魔力を出して魔法を使えるか試してはみたのだが、誤爆という言葉がぴったりの魔力の暴発を起こした。せっかく魔力制御装置を付けなくてもよくなったにもかかわらず初日の魔法のお勉強会で起こした騒動が再来である。


 とまあ、そういう騒動もあったので少しずつ少しずつ、魔力性質の近いパルフェット様に教えて頂くことでより繊細な魔力操作が出来るようになるようにと、俺は再生と治癒の魔法について学んでいるのだ。


 パルフェット様が先生であるお勉強会。

 その合間のお昼休憩にピクニックを挟みつつ、いつもと変わらず夕方の子供達のお仕事が始まるまで勉強会は続いた。











「――――――ルールルルルル」



 時は過ぎて夕方。

 俺は子供達と夕方のご飯を与えるために牛達を集めていた。

 今ではこの変な呼び方で牛を呼ぶのにも慣れたモノで、むしろ牛を呼ぶのがなかなか上手くなったのではないかと少し自画自賛してしまうほどだ。

 子供達と散らばっていつものように牛を集める。

 今日は俺とシャルル君、サロモン君とプティ君のセットで離れながら同じ場所に牛を誘導していっている。



「――――――なあ、リン」

「ん? どうした? シャルル君」



 カコンカコンとベルを鳴らしながら牛をいつも通り集めていたら、突然シャルル君に声を掛けられた。

 いつもはお仕事時には真面目に働く双子お兄ちゃんズの片方、双子のなかでどちらかと言うとよく喋るほうのシャルル君が突然話しかけてきたのには驚いた。

 彼のいつもの明るく元気な様子とはちょっと違う雰囲気に違和感を感じた俺は、ベルを鳴らしていた手を止めて近くに居たシャルル君と目の高さを合わせて話を聞くことにした。



「リンは……旅に出るんだろ」

「うん、そうだな。身分証は絶対欲しいから旅をして取りに行かなくちゃ」

「あの、身分証取ったら…………」

「どうした……?」



 いつもならはきはき喋るシャルル君が珍しく俯いて言い淀んでいる。

 珍しい出来事に俺はこれはただ事じゃないなと思い、シャルル君と更に距離を詰めて彼の足元に膝をつき目線が彼の高さより下になってしまうが、今は俯き気味のシャルル君の視線にちょうど合うのでいいだろう。



「どうした? 俺、何か悪い事しちゃったか?」



 そう言う俺の言葉に、シャルル君は首を横に振り否定をした。



「あ、あのな。その……」

「うん、ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞くから」

「その…………、リンは、身分証を取ったらここに帰ってきてくれるか?」



 それは俺がここ数日考えていたことだった。



「俺……俺は」



 さっきまでのシャルル君と違って今度は俺が言い淀んでしまっている。

 ここ数日、市場での買い物が終わってから俺は、その事ばかり考えていたと言っても過言ではない。

 買い物が終わってから、屋敷で空いた時間に少しずつ買った品物の整理をしているのだが、その時にふと思うのだ。

 これから俺は何がしたいのか、と。


 こちらに来てからの出来事を振り返ってみたら、とても楽しい記憶しかなかった。

 前の世界では経験の無い、楽しいという記憶。

 これは、こちらに来て献身的に俺の世話をしてくれたリッシュ家の皆と、先日温かく俺の帰還を祝福してくれたリッシュ領の民の皆さん、そして何よりゼンのおかげだと思っている。

 

 しかもリッシュ家の皆は社交辞令かもしれないが、俺の事を家族になれと言ってくれた。

 こんなにも温かい、家族という感覚を味わったことのない俺に、リッシュ家の皆は無償の愛という形で目一杯接してきてくれた。

 家族になれと言われた時、咄嗟に隠したが正直に言うと嬉しくて泣きそうになったのは事実だ。


 ハッキリ言うと、この人たちと家族になりたい。


 そう確かに思った。

 だが、俺はこうも思った。


 新しい世界、この世界だったら、俺が前の世界でできなかった事、たくさんの経験ができるのではないかと。

 そう期待が心の中で膨らんでいるのだ。


 そして俺は考えた。

 いろんな経験をするのなら、旅をしてたくさんの経験をするのもいいのではないかと。



 ――――――俺の人生、やり直しをする。



 俺が今まで、できなかったたくさんの経験。

 心の奥底に閉まっていた、やりたい事を縛られずに自由にやるという俺の唯一の夢。



「俺、身分証取ったら…………












 冒険者に、なるよ」











 *********











「――――――じゃあ、作戦通りに」



 己の背に居る武装した男達に指示を出し、ゼンは愛刀の双剣に片手を添えながら音もなく包囲している建物の傍へと寄った。

 そして、傍へ寄った建物の壁に耳を当てて中の様子を伺う。

 ――――だが。



「……………………っ! まさかっ…………!」



 ゼンはせっかく先ほどまで静かに行動していたにもかかわらず、勢いよく建物の入り口に周り、その入り口を蹴破って双剣を素早く引き抜き構えながら中へと飛び込んだ。



「…………やられた」

「――――――ゼン殿! いかがなされた!?」



 続いて、ゼンの様子がおかしかったので合図を待たずに、押し寄せる波のように周りを囲み武装していた男達がドゥースを先頭に、それぞれ所持していた武器を構えながら入口へと駆け付けた。

 だが、せっかく駆け付けたドゥース達の間をするりと抜けながらゼンは叫ぶ。



「罠だ! 嵌められた! 皆、飛竜へ急げ!!」

「なっ!?」











 *********











「じゃあ、リンタロウは、ここへは帰ってこないんだな」



 目を合わせようとしないシャルル君の瞳が少しずつ、少しずつ潤んできている。



「でもね、シャルル君。俺…………、俺、皆の家族に、なってもいいかなあ」

「…………リン」



 潤んで揺らいでいたシャルル君の瞳が、今言った俺の言葉でぴたりと止まった。

 シャルル君のとても素直な反応に、思わずクスリと俺は笑顔になる。

 やっぱりこの子は素直で優しい良い子だ。

 たまに出てくる発言や悪戯はちょっといただけないがな。



「俺、皆の家族になりたい。旅に出ても、ここにいつでも帰ってきてもいいかなあ……」

「……ぐすっ、お、俺が兄上だからなあ!」

「なんでだよ! そこは俺が兄上だろ!」



 どうやらいつものシャルル君に戻ってくれたみたいでよかった。

 それに、今のお返事は家族になるの許してくれたってことでいいのかな。



「おぉーい! シャルルにリーン! 何してるんだよー!」


「リンにいちゃー! ルールルルルル!」


「あ! ごめんごめーん!」



 俺とシャルルは慌ててベルを鳴らし、牛を誘導し集める作業に再び取り掛かった。



 だが、その時。








 ビィイイイイイイイイイイ!!!!!








「え!? 何? 笛??」



 突如鳴り響く大きな笛の音。

 かなり遠くから聞こえてくるので、俺はどこから聞こえてくるのか全然分からなかったが、双子お兄ちゃんズが二人して同じ方向を勢いよく振り向いたのでつられて俺も同じ方向を見る。おそらくこの先に音の発生源があるのだろう。

 でも、この方向は確か…………。



「どうしたの? この音、何の音?」



 鳴り続いている笛の音の正体が何なのか傍に居るシャルル君に聞いてみたのだが、シャルル君は真剣にサロモン君と同じ一点の方向をじいっと見つめて返事はしてくれなかった。

 そして、俺がシャルル君にちょうど質問し終わった後に笛の音がスッと消える。



「…………本当に、どうし」








 ビィイイイイイイイイイイ!!!!!








 再びけたたましく鳴り響く笛の音。



「「――――っ! 逃げるぞ!!!」」

「えっ!?」



 シャルル君とサロモン君は近くに居た牛のお尻を鞄から取り出した鞭で叩いて、いつもより激しくベルを鳴らし牛を走らせた。



「サロモン! プティを!」

「わかってる! プティ! おいで!」



 牛を走らせたサロモン君はプティ君の、シャルル君は俺の手を握ると屋敷の方向へと走り出した。



「ちょっ! ちょっと! どういうこと!?」

「今の笛はベル兄上だ! 一回鳴らせば牛の脱走! 二回鳴ったら!!」

「鳴ったら!?」

「――――――――っ敵だ!!!」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ