びっくりキラキラ市場
「はーい! 皆用意できたね! 出発するよー」
「「うぇーい!」」
「うえーい!」
パルフェット様の掛け声に、元気に答える双子お兄ちゃんズとプティ君。
今から全員で市場へと向かうのだ。
…………うん、本当の本当に全員で向かう。
ドゥース様もセリューさんもゼンも。
屋敷の中が空になってしまうが、守護の魔法を屋敷と牧草地にしっかりかけて全員でお出かけだ。
そして、皆お出かけ用に服を改めたのだが。
ドゥース様とパルフェット様は、市場に視察や商談などのお仕事目的で向かわれるらしく、かっちりとした正装だ。
お二人は一緒に向かわれるが、市場に付いたら別行動となる。
そんなお二人の息子である子供達もいつものツナギや普段着ではない。
とは言っても、彼らはドゥース様達に付き添うわけではなく、市場をいろいろと見て周ることがメインなので装ではなく、綺麗でおしゃれな一般服を。
そして俺も、綺麗めの一般服をパルフェット様からお借りして着替えている。
ゼンとセリューさんはあまりいつもと変わらず、冒険服と執事服だ。
市場では子供達といろいろと周るつもりだが、その途中で俺とイケメンは身分証を取得しに都心部へと向かう旅に必要な物を買い揃えることになった。
俺も魔力操作がかなりできるようになり魔力制御装置も外れたし、そろそろここに滞在する理由がなくなってきてしまたので次の準備にかかるというわけだ。
確かに、俺が目覚めてからあと数日で二週間になるわけだし、ゼンが言っていた予定通り。
ここを離れるという実感が湧かないのだが、あと数日で俺はここを離れることになる。
ゼンは初めに…………。
――――『今後の人生どう歩んでいきたいか考えるといい』
そう言ってくれたが、俺はまだ今後の人生どうしたいかなんて思いついていなかった。
ある程度の身分や生活は保障されるという話だが、どこまでの保証かはそういえば詳しく聞いていなかった事に今さら気づく。
一番大事な聞くべきところであるはずなのに、ここでの穏やかな生活のおかげですっかり頭も心の気持ちも緩んでしまっているようだ。
――――――今後の生活、考えないとなあ。
「リーン!」
「行くぞー!」
「あ、はーい」
とりあえずは市場だ!
「ぅっわ! 高っ! コワ!」
「リンタロウ、あまり動くとブレて落ちてしまうよ?」
「脅すな!」
なんとなんと! とうとう俺は初の飛竜に乗っているー!!
と言っても、ゼンの相棒である飛竜の背に同乗させてもらっている形なんだけどな。
だって俺、飛竜に乗るの初めてで一人で騎乗なんてもちろんできないから。
俺の後ろで飛竜の手綱を握り、操縦しているゼンがわざわざ脅してくるのだが、結構シャレにならん。
どんどん高くなる景色に恐怖も湧くが、飛竜に乗れているというわくわくとした高揚感もまた同時に湧いてくるので、今の俺の顔はごちゃ混ぜで凄いことになっているだろう。
「もう少ししたら風も高度も安定するから大人しく捕まっていてくれ。安定したらゆっくり周りを見渡せる」
『ここの領地はとても景色が良いから眺めると良い』とゼンが言うので素直に俺は言うことを聞くことにした。
ちなみに飛竜は大人二人が余裕で乗れるくらい力持ち。
実際、俺も現在ゼンと二人乗りで、最初こそ揺れたが今はだいぶ安定してきている。
特にゼンの飛竜はリッシュ家に複数いる飛竜よりも大きくてガタイも良いので安心して乗っている。
二人乗り以上は小さな子供があと一人くらいであったら三人乗りできるらしい。
リッシュ家で一番大きい飛竜にドゥース様とパルフェット様、そしてプティ君が同乗しており、あとはセリューさんとベルトラン君がそれぞれ双子お兄ちゃんズを前に乗せて合計四匹の飛竜でお出かけだ。
「リンタロウ、そろそろ周りを見てごらん」
「ぁ…………、わぁー……すっごい!」
絶景かな絶景かな!!
ゼンの言うとおり目の前の景色は素晴らしかった。
昼間で明るい日差しに照らされているリッシュ領は青々とした木々や牧草地などがつやつやと輝いて広がり、所々に花も見える。
そして進むにつれて見える建物も日本では見ない建物で、遠くから見えるサイズ感のおかげもあって可愛らしい。
上からだと小さく見える牛達が、前の世界とは違う見た目のせいかその白い姿が幻想的にも見える。
たまに視界に入る鷲に似た鶏がちょっと違和感を演出しているが、ご愛敬だろう。
「やっぱり良い所だな……ここ」
俺の独り言に後ろに居たゼンは答えてはくれなかったが、伝わってくる雰囲気が同意してくれているので良しとしよう。
目的地の市場だが、その時々によって開催する場所が変わるらしく、今回はリッシュ家からちょっと離れた場所の領民の牧草地だという。
だが、飛竜だとそこまで時間がかからないらしく約十五分ほどで目的地の市場へと着いた。
「はぁー…………、想像してた市場より派手!! ていうか、めっちゃ広いしテーマパークみたいだな!」
上からも見えていたのでその時点でも驚いたが、市場の入り口に来てみてもさらに驚いた。
前の世界での人気テーマパークみたいな雰囲気のとてもキラキラとした市場であった。
アトラクション的な乗り物は見当たらないが、上から一瞬見えた時に子供が遊べそうな屋台やちょっとした遊具っぽいのもあった気がする。
飛竜は市場の端に併設されていた、前の世界で言う駐車場ならぬ飛竜停留所に預けてある。
かなりの大勢が来る大イベントだったらしく、市場の周りには各地から来るお客や商人のための宿泊用テントなどの施設設備がきちんと併設されていた。
俺はこんな大きな市場とは思わなかったので想像していた市場との違いに驚いた。
そりゃあ、子供達がめちゃくちゃ行きたがるはずだ。
「「早く! 早く! 行こう!!」」
「こら、お前達! そうやって興奮して離れるんじゃないぞ」
興奮している双子お兄ちゃんズに、しっかり者のお兄ちゃんであるベルトラン君がすかさず注意する。
「さあて! 子供達、そしてリン君! お目付け役としてセリューとゼン君が傍に居るから、離れて迷子にならないように! いいね!」
「「「「はーい!」」」」
パルフェット様の言葉に思わず、俺は子供達と同レベル扱いに不満というか疑問を言いそうになったが、パルフェット様の無言の圧力に屈して子供達の後に素直に、はい。と返事をしました。はい。
「そして、今からお小遣いを配りまーす!」
「「ぃやったー!」」
「わーい!」
「ありがとうございます。母上」
パルフェット様の手から順番に配られていくお小遣い。
子供はこうやってお金の感覚や大事さを学ぶのだと、俺はしみじみしていると。
「はい。これリン君の」
「えっ? 俺ですか??」
「そう。リン君の! 旅支度の費用はゼン君が全て支払うらしいから、安心して。これで美味しいお昼ご飯やお菓子とか、何か欲しい品があったら買ってね」
「そんな! 貰えません!」
今でさえ滞在中の食事などお世話になっているのに、頂けるわけがない。
ゼンでさえ後見人だから色々と支払うと言われても、やはり気持ち的にはどうにか働くなりして返そうと思っているし、子供達の仕事を普段から手伝っているとはいえ滞在中のご恩を返せてないと思っているのだ。
そう思っているのに、差し出されたお小遣いを受け取るという行動がどうにも俺にはできなかった。
「おやあ? だって他の兄弟はお小遣いを貰ってるのに、新たに兄弟の仲間入りしたリン君が貰えないのはおかしいでしょう? 子供達、特に年下組は無駄遣いしないようにあまり大きな金額を持たせてないから、リン君のほうに子供達全員分のお昼代も含まれてるの。リン君のお金のお勉強にもなるだろうしね。お昼ご飯はまかせたよ? リンお兄ちゃん」
『ついで、でいいから何か気に入ったものがあればこれで買っておいで』と、パルフェット様はそう言うと俺の片手を取りその掌の上に金貨の入った小袋を置いた。
俺は、でも……と言いかけたが、パルフェット様はドゥース様と一緒に『いってきまーす! 可愛い子供達! 楽しんで!』と言って市場の中に消えて行ってしまった。
さすがは肝っ玉母さんパルフェット様。
ちょっと強引だが、その大きくて温かい優しさがくすぐったくも嬉しい気持ちになる俺。
こんな風にお小遣いなんて渡されたの、いつぶりだろ。
あと……お兄ちゃんって、呼んでもらっちゃった。
「「リーン!」」
「俺達も市場に行きましょう! リンタロウ様!」
「リンにいちゃー!」
「………………今行くよー!」
市場の入り口で待ってくれている皆の元へ俺は小走りで向かった。
「リーン!」
「次こっち―!」
「はいはい」
「リンにいちゃ、だっこ」
「ほいほい、おいでー」
市場に入ってから、凄くはしゃいでいる双子お兄ちゃんズに疲れは全く見えない。
プティ君はさすがに歩き疲れたのか抱っこをせがまれたので抱きかかえるが、様子を伺うとまだまだ元気そうだ。
そうそう、市場に入ってから驚いた。
やっぱり領主様の息子である子供達の顔は、領民に知られているみたいでこの領地の民の人は必ず子供達に挨拶していた。
ベルトラン君に聞くとよく催し物などには子供達も顔を出しているし、農業をする際には他の領民の知恵も借りに子供達の体験学習教室なるものにも参加しているので顔は皆に知られているとの事。
しかしだ。
なんと、俺の事も皆に知られていた。
いや、もちろん俺の顔は見覚えがあるわけではなかった。
そりゃあ、俺はリッシュ家の屋敷から牧草地以外に出たことなかったし、他の領民の方にも出会った事ないので当たり前。
だから子供達の傍に見知らぬ人がただ歩いているだけだと思われそうだが、どうやら異世界から来た異世界人がリッシュ家でお世話になっている事は皆が知っており、ゼンも警備関係である程度の領民に顔見せは済んでいるため傍に居た見知らぬ人が異世界人である事には領民皆が気づいたのだ。
一番最初は、プティ君くらいの小さな子供だった。
「おにいちゃん……いせかいの人?」
「えっ? ……あ、うん。そうだよ」
「わぁ! おかえりなさい! おにいちゃんこれあげる!」
子供はそう言うと手に持っていた飴玉袋に入っている飴玉を二粒くれたのだ。
俺がお礼を言おうとしたが、その前に飴玉をくれた子供は親御さんらしき人の元へと戻って行ってしまった。
俺は少し呆気にとられたがそれだけで終わらず、その後の他の領民の人の勢いが凄かったのであたふたした。
次から次へと会う領民の方が俺に『お帰り』と言い、何かしらの品を渡してきたり、出店を出している領民の方は食べ物屋であったら商品である食べ物をくれたり、その他の出店でも店に出している品を何かしら渡してきてくれた。
それに便乗して、俺が異世界人と気づいた領民でない商人などの人々も、お帰りと言葉をくれたり何か渡そうとしてくれるので困った困った!
もう制限なくという言葉がぴったりの状況で、皆さんいろんな品をくださるので見かねたセリューさんが皆さんを止めてくれた。
しかも頂いた品、例えば食べ物系以外の物は一度、飛竜停留所の荷物置き場で預かってもらってくる。とセリューさんは言って、品々を俺の代わりに持って行ってくれているので、現在は傍に居るお目付け役はゼンだけだ。
すぐに食べないといけない頂いた食品類は子供達とゼンと分けていただくことにした。
もちろん、セリューさんの分も別に確保している。
おかげでパルフェット様に頂いた食事代が浮いた。
セリューさんが市場に居る皆さんを落ち着かせてくれたおかげで、今はすれ違いざまやいろんな出店に顔を出す際にお帰りなど声掛けをくれるくらいだ。
今は遊び系の出店を皆で周っている。
「皆様楽しまれていらっしゃいますか。セリュー、ただいま戻りました」
「「あ! セリュー!」」
「セリューさん! 荷物ありがとうございました!」
「いえいえ、これしきの事。お気になさらないでください」
双子お兄ちゃんズが行きたいと言った出店に寄ろうとしたその時、結構な荷物を任せてしまったので時間がかかったのであろうセリューさんが俺達の元へと戻ってきてくれた。
本当にありがとうございます!
目印や集合場所を決めていたわけではないのに、セリューさんはどうやって俺達を見つけたのか少し疑問が浮かんだが。
そんなことよりも一仕事してくれたセリューさんに、俺はすかさずセリューさんの分と分けて置いた食べ物をセリューさんに勧めたのだが、仕事中なので後で頂きますと受け取りはしてくれたが後で食べるそう。
ちょっとご飯を食べないのは心配したが、さすがは執事だなあと思いもした。
「リンタロウ様、セリューも戻ってきましたので俺達兄弟は一度別行動をしてもいいでしょうか?」
「「へ!? なんで!」」
「お前達、出かける前に話したことをもう忘れたのか!」
「はっ!」
「そうだった!!」
「別行動ってなあに?」
「リンタロウ様とはちょっと離れて俺達だけで買い物に行くんだよ、プティ」
「ふぇ? そーなの?」
どうやらプティ君には心当たりがないみたいだが、双子お兄ちゃんズは心当たりがあるらしく、ベルトラン君に敬礼をしてどうやら従うようだ。
「何か買いたいものがあるんだ? 俺は別行動じゃなくても皆が買いたい所について行けるけど……」
「リンタロウ様は、ほら! ゼン様と旅支度のお買い物をしなくてはいけないでしょう? ちょうどいいタイミングですので、ここで一度分かれて買い物に行くというのはどうでしょうか? ね!」
「「うんうんうんうん!」」
「双子もこう言ってますし、お供にはセリューを連れますので俺達の心配はせずに済みますし!」
「そう? じゃあ……」
「……プティ、リンにいちゃと一緒がいい…………」
俺はゼンの様子を見て問題なさそうであったので別行動をしようと言おうとしたが、俺に抱っこされたままのプティ君が別行動を拒否し、ギュッと抱き着いている手の力を強めた。
「プティ、買い出し先でさっき食べたいって言っていたキャンディを買ってあげるから、一緒においで」
「……むぅ」
困った様子のベルトラン君と魅惑のキャンディとの誘惑で悩んでいるプティ君。
プティ君の可愛い様子に俺はついついその状況を永遠と眺めそうになるが、ベルトラン君が困っているので手助けすることにした。
「プティ君、俺、プティ君が選んでくれるキャンディが食べたいなあ。でも、どんなキャンディ選んでくれるのか今は内緒の方があとで渡された時にびっくりして大喜びすると思うんだけどなあ?」
「プティ、リンタロウ様に内緒でとびっきり美味しいキャンディを選んで驚かせよう?」
もうこういう話をしている時点で内緒ではないじゃないか。と無粋なこともちょっとは思うが、プティ君の様子を見ると大丈夫のようだ。
「プティ、リンにいちゃに美味しいキャンディ選ぶ」
「よし、じゃあおいでプティ」
そう言うベルトラン君に俺はプティ君を渡した。
「では、リンタロウ様! また後ほど!」
「「リーン! あとでなー」」
「リンにいちゃー、あとでねー」
「それでは、リンタロウ様、ゼン様。坊ちゃま方はわたくしにお任せ頂き、お二人でお買い物を楽しまれてください。では」
元気よく俺とゼンに手を振りながら子供達は目的の出店へと足を進めてセリューさんもそれについて行った。
その姿を俺も手を振り返しながら、人ごみに消えてしまうまで眺めていた。
「…………子供達にフラれて少し寂しいだろ。リンタロウ」
「うるっせえ! さっさと買い出し行くぞ!」
本当にいらない言葉をよく言う口だな!
図星を指された俺は、どこから見て回ったらいいのかも分からないのにスタスタとゼンより先に進んでいく。
ゼンはクスクス笑いながらも俺についてきて、まず最初はあそこから見ようかと後ろからアドバイスをくれた。
さあ、経験のない人生初の旅支度だ!




