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第8話 伝えたいのは

“やりたい事には全力で取り組みなさい”


 母の言葉が脳裏に蘇る。シェランは電話を傍らに置くと、長い息を吐いた。自分のやりたいこと。それは、彼女に想いを乗せた歌を送ることに他ならない。伝わってくれるかは分からない。全力で取り組んだとしても、ダメなときはダメだ。けれど、中途半端で終わる訳にはいかないのだ。



 シェランは机の前に座ると、おもむろに紙の上でペンを走らせ始めた。とりとめもない単語が次々に羅列されていく。シェランは己の心を表したる言葉を、できるだけ多く書き出したのだ。そうした後、無秩序な言の葉達はやがて列をなし、まとまった意味を持ち始めた。しかし、ただ意味が伝わるだけではだめだ。歌を作ることと、文章を組み立てることは必ずしも同じではない。歌にはリズムがある。また、言葉の響く感じも。シェランは書いては消し、また書いては消しを繰り返していた。


 どれほど時間が経ったのか、熱中していたシェランには分からない。手にしていたペンを置き、長いため息をつく。そのまま、ぼんやりと天井を見上げた。熱気の篭った部屋に、風が通る。いつの間にか汗をかいていた体には心地よい。静まった心で、シェランは再び自分の書いた文字列を見た。ここで気に入らなければ、やり直し。不愉快がなくなった時に、ようやくこの文章は歌詞になる。


 ぐしゃり。シェランは言葉が書き綴られた紙を丸めた。違う。これは俺の“言葉”ではない、と。元来芸術家気質の彼は、失敗の未練をあっさりと切り離す性格を持ちあわせていた。新しい紙を取り出して、また自分を激励する。気にいった歌詞が書けるまで、何時間、いや、何日と作業を続けた。

 ペンを動かす度に汗が手ににじんだが、熱中している彼にとってそんな事はどうでもよかった。納得できる歌詞が書けさえすれば。



 そうして歌詞ができあがっても、一息つけるわけではない。リズムとメロディー、そして伴奏。それら全てがきちんと組み合わさってこそ、これは歌となる。

 常から全力のシェランだったが、今回ばかりは時間がかかった。失敗したくないというような思いからかもしれない。大勢の前で披露する事よりも、たった一人に伝えるだけが難しいなんて。シェランは少し苦笑した。だが、それもいい。シェランは鍵盤の上で指を動かし、イメージを形にするべくピアノを鳴らす。たった一人、あの少女の事だけを思い浮かべて―――

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