第2話 ハジマリノウタ
長らくお待たせしました。モバイル投稿のためやや短めです。感想、アドバイス等ありましたらどうぞ。
ふとシェランが顔を上げると、店の隅にピアノが佇んでいるのが目についた。丁寧に手入れされて埃こそかぶっていないが、しばらくの間使われていなかったことが窺える。彼は店員である少女に聞いてみた。
「あれは君が弾くのかい?」
少女はシェランが見ている方を確認し、少しばかり目を細めた。
「いいえ、あれは私の祖父の物なの。譲り受けたはいいけど私は弾けないから…」
少女の瞳が、悲しく揺れる。そんな彼女を見て、シェランはあることを思いついた。
「俺が弾いてもいいかな?」
唐突な提案に、少女の目は見開かれた。しかしすぐに歓喜の声を出す。
「あなた、弾けるの?それなら弾いてあげて。きっとその方が、あのピアノのためにもなると思うから…」
少女の言葉を受けたシェランは、ピアノの前に座る。ふたを開け、試しに鍵盤を叩いてみた。小さな店に、ピアノの音が跳ねる。順々に鍵盤を鳴らしていく。どうやら調律はされているようだ。
シェランはゆっくりと演奏を始めた。優しくも力強いメロディーが、部屋に響き渡る。調子に合わせて、シェランは歌い始めた。
ほがらかな朝日に命の声上がる
生まれし力高らかに
小さなその手で希望を掴み
小さな足で大地踏みしめ
永遠の旅路 進みゆく
空よ歌え海よ笑え
森の木々もあの鳥も
すべてこうして始まった
命よ歌え
尊き生命よ
最初はただ聞いていた客達も、徐々にシェランの歌に同調する。一つの流れは周りを巻き込み、いつしかそこにいた観客全員がその歌を歌っていた。歌が終わり、シェランが鍵盤から手を離すと、賞賛の拍手がわき起こった。その時誰も気付かないところで、店員の少女がこっそり涙を流していた。店に来ていた老人が立ち上がる。
「『ハジマリノウタ』か、懐かしいのう。若い頃を思い出すわい。」
老人はシェランの手を取り、両手でしっかりと包み込んだ。顔には満面の笑みが浮かんでいる。気恥ずかしくなって、シェランは頭をかいた。
「ええ、これは俺が音楽を始めたきっかけの歌なので…」
シェランがこの店で披露した『ハジマリノウタ』は、何十年と歌われ続けている名曲。自分の曲ではないけれど、シェランにとっては思い出の歌。いや、彼に限らず大勢の人にとって、思い出深い曲なのだ。老人に限らず、歌を聞いていた人々が賛美の言葉を述べる。大観衆のコンサートでもなければ栄光あるコンクールでもない、小さな店での演奏会。けれど人々の温かい言葉に、シェランは胸が熱くなった。
本当に求めていたのは自分が人を喜ばせることかもしれないな、とシェランはぼんやりと考えた。




