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となりのNISA貧乏ちゃん ~彼女のNISA積立額、月10万円。デート予算、月5,000円。~  作者: しばたろう


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第5話 かわいい後輩と彼女の視線

「ここだけど、この記載では条件が明確でないので、こういう場合は――」


 俺は自席のモニタを指さしながら、山根さんに仕様書の書き方をレクチャーしていた。


 隣席から椅子を引き寄せ、一緒にモニタを眺める山根さん。


「はい。なるほどです」


 はきはきと受け答えをする。


 しかし。


「じゃあ、ここの場合、どうすればよいです?」


 グイッと体を寄せてくる山根さん。


 ……ち、近い。


 なんだか、いい香りがする。


「この場合はね……」


 俺は動揺を悟られないよう、なんとか冷静さを保ちながら説明を続けた。


「ありがとうございます。長瀬先輩」


 ふいに、屈託のない笑顔を向けられる。


「いやあ。どういたしまして。山根さん、飲み込みが早くて大したもんだよ」


「長瀬先輩の教え方がとても上手だからですよ」


 くりっとした瞳に見つめられる。


 照れる。


 刹那。


 ――ぞくり。


 横顔に、強烈な視線を感じた。


 おそるおそる視線を向ける。


 斜め向かいの席。


 モニタの向こうから、真顔の葵ちゃんが俺を見つめていた。


 ……えっ。


 いつから見てたの?


「あっ、ごほん」


 俺は慌てて咳ばらいをした。


「じゃあ、山根さん。席に戻って、続きを進めてくれるかな?」


「はい。ありがとうございました。長瀬先輩」


 山根さんはにこやかに頭を下げ、自分の席へと戻っていった。


 ……どうにも、やりづらい。


◇


 週末。


 俺のアパート。


 トントントン。


 キッチンから軽快な包丁の音が響く。


 葵ちゃんが料理を作ってくれているのだ。


 エプロンをした葵ちゃんの後ろ姿に、思わず見とれる。


 最近は、さすがに暑くて、サイクリング&公園散策は一時休止となっていた。


「寒いのは良いのだけれども、暑いのはどうにもならないわ」


 葵ちゃんはぼやいていた。


 で、その代わりに、葵ちゃんは俺んちにやってきて、手料理を振る舞ってくれるのだ。


 キッチンから、スパイスの食欲をそそる香りが漂ってくる。


 まな板の上では、色とりどりの野菜が手際よく刻まれていく。フライパンで野菜を炒める音がしたかと思えば、今度は鍋がことことと音を立て始めた。


 やがて、テーブルに並べられたのは、彩り豊かな野菜カレーだった。


 赤や黄色のパプリカに、鮮やかな緑のブロッコリー。大きめに切られたナスには、カレーの色がじんわりと染み込んでいる。


 見た目からして、なんだかおしゃれだ。


「はい、どうぞ」


「おおっ。うまそう!」


 ひと口食べる。


 スパイスの香りが鼻を抜け、野菜の甘みが口いっぱいに広がった。


「うまい!」


「ふふっ。よかった」


 葵ちゃんは、うれしそうに微笑んだ。


 葵ちゃんは料理がとても上手だ。


 さすが、日ごろから自炊を徹底しているだけのことはある。


 俺なんて、ゆで卵をゆでるぐらいのことしかできない。


 こんな料理を毎週食べられるなんて、俺は幸せ者だと思う。


◇


「山根さんて、すでに社内にファンクラブができているらしいわよ」


 野菜カレーに舌鼓を打っていると、ふと、葵ちゃんが思い出したようにつぶやいた。


「そうなの?」


「そうよ。まったく、男たちってしょうがないわ」


「うむ。まったく、けしからん」


 俺は真剣にうなずく。


「佑太くん。そんな彼女のチューターになれて、良かったね?」


 葵ちゃんが、にこっと微笑む。


 ぞくり。


 気のせいか、部屋の温度が五度ほど下がったような気がした。


「仕事中も、仲良さそうだし……」


「いや、違う」


 なぜか懸命に否定してしまう俺。


「なにが違うの?」


 追撃の手を緩めない葵ちゃん。


 ……まずい。


 俺は意を決した。


「葵ちゃんのほうが、ずっと、かわいい」


「あら」


 葵ちゃんの目から殺気が消える。


 俺の彼女様は、ご機嫌を回復されたようだ。


 よかった。


 ……いや、待て。


 俺、なんでこんなに必死になっているんだ?


 そもそも、山根涼香は、非常に明るく社交的な性格で、誰に対してもフレンドリーに接するのだ。


 俺に対してだけ、特別な態度を取っているわけではない。


 ……たぶん。


◇


「そういえば、山根さん、この前お土産をくれたわね。週末に箱根に行ってきたって」


「うん。その前は海に行ってきたって言ってたな。最近の若い子はアクティブだよね」


「ふふっ。佑太くん、どこのおじさん?」


 コロコロと笑う葵ちゃん。


 どうやら、ご機嫌は麗しいらしい。


 ……今なら、いけるかもしれない。


 俺は意を決して提案した。


「どうだろう。俺たちも、旅行なんて?」


「うちはうち。よそはよそ」


 取り付く島なし。


 ……葵ちゃん。


 俺、そのセリフ、子供のころ親に言われた記憶があるよ。


「そうですよね……」


 思わず引き下がりかけたものの、山根さんの話に多少なりとも触発されている可能性はある。


 俺は恐る恐る、もう一押ししてみた。


「今度、ボーナスが出たら、行けないかな? 二人の交際半年記念で」


 葵ちゃんは、俺の顔をじっと見つめた。


「そうね。考えとくわ」


「よしっ!」


 交渉の前途に希望の光が差した。


「ただし、近場の安いところね?」


 ……俺の彼女は、まったくブレない。

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