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となりのNISA貧乏ちゃん ~彼女のNISA積立額、月10万円。デート予算、月5,000円。~  作者: しばたろう


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第11話 明日から、どうやって生きていこう

 九月十六日。


 ダブスコ株は、突然のストップ安となった。


 韓国子会社の上場をめぐる報道がきっかけとなり、投資家たちが一斉に売りに回ったらしい。


 この日の終値は、前日比500円安の2,479円。


 頭が真っ白になった。


 もちろん、多少の下落は覚悟していた。


 それが。


 いきなり、ストップ安だなんて。


 これからは、EVの時代じゃなかったの⁉


 私はいてもたってもいられなくなり、由美に電話をかけた。


「大丈夫。さすがに明日は反発すると思うわ」


「……多分」


 由美の声は、どこか弱々しかった。


「そうよね……」


 私は、電話を切ると、すぐさまSNSの反応をチェックした。


『悪材料が出たのは分かる。でも、ここまで売られるほどなのか?』


『これは押し目買いのチャンスでは?』


 そんな意見を見つけて、私は少しだけ安心した。


 そうよね。さすがに下げすぎよね?


 だが。


 ……怖い。


 たった一日で崖のように崩れ落ちたチャートは、私の心に恐怖を植え付けるには十分だった。


 それでも。


 今日の終値は、2,479円。


 私の信用取引400株の買値は、2,400円。


 まだ、僅かだが含み益がある。


 私は、調子に乗りすぎていたのかもしれない。


 明日、反発したら売ろう。


 そう決心した。


◇


 だが。


 翌営業日の九月二十日。


 私の決意をあざ笑うかのように、株価は再びストップ安をつけた。


 終値、1,979円。


 私は、祈るような気持ちでSNSをのぞいた。


 しかし。


『売りたいのに売れない。どうすればいいんだ』


『明日も、もう一段下がるのか?』


 SNSも、総悲観に包まれていた。


 たまらず由美に電話をかけたが、つながらなかった。


 私は、何もできなかった。


◇


 そして、翌九月二十一日。


 この日も、ストップ安。


 終値、1,579円。


 SNSには、悲痛な投稿があふれていた。


『ダブスコの底が読めない。触るな危険』


『追証払えない人、どうするんだろう……』


『明日は値幅制限が四倍。これ、いったいどこまで下がるんだ?』


『信用二階建てで全力買いしてた人、大丈夫なのか……』


 SNSは、信用取引や追証の話題であふれていた。


 ふいに、電話が鳴った。


 由美からかと思って慌てて出ると、薫だった。


「葵、わたし、追証になっちゃった……」


 薫の声は、今にも泣き出しそうだった。


「お願い。五十万……いや、二十万でもいいから、貸してくれないかな?」


「ごめんね。私も、お金がないんだ……」


 私は、静かに電話を切った。


◇


 それでも。

 九月二十二日。

 

 終値は、1,550円まで戻した。

 

 ようやく、ストップ安が終わった。

 

 もう、これ以上は下がらないかもしれない。


 いや、きっと、ここから反発するはず。


 私は、そう自分に言い聞かせた。

 

◇


 だが、安心できたのは、ほんのわずかな時間だった。


 九月二十六日。

 ダブスコ株は、再び大きく値を下げた。


 終値、1,319円。

 

 私は、スマホの画面を見つめていた。


 買値は、2,400円。


 たった数営業日で、株価は1,000円以上も下がってしまった。


 信用買いした400株の含み損は、432,400円。


 現金48万円から、その損失を差し引くと、保証金として残っているのは、わずか47,600円だった。


 そして、その夜。


 証券会社の口座を確認した私は、見慣れない表示に気づいた。


 追加保証金。


「……追証。とうとう来た」


 指先が冷たくなった。


 画面を開き、詳細を確認する。


 追加で必要な金額は――


 57,000円あまり。


「ご、五万七千円……?」


 金額だけを見れば、決して用意できない額ではない。


 だけど。


 このお金を払ってしまったら、今月の家賃が足りなくなる。


 光熱費も、スマホ代も。


 食費だって、どうすればいいのだろう。


 なにより、

 追加でお金を入れたところで、株価が再び上がるとは限らないのだ。


 私は、もう、この株が再び上昇していく未来を思い描くことはできなかった。


◇


 翌日も、その翌日も、株価はズルズルと下がり続けた。


 あの数日間、私は何をしていたのか、ほとんど覚えていない。


 久しぶりに由美からLINEが届いた。


『ごめんなさい』


 一言だけ書かれていた。


◇


 そして、とうとう追証の期日を迎えた。


 私の400株はなすすべもなく強制決済され、

 信用取引で残ったお金は、わずか4万円だった。


 私は、その日のうちに、現物で持っていた20株も売却した。


 すべての残金を証券口座から引き出した。


 66,000円。


 これが、私の手元に残ったお金だった。


「……明日から、どうやって生きていこう」


 つらいとか、悲しいとか、悔しいとか。


 そんな感情よりも先に、私の頭に浮かんだのは、そのことだった。

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