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第4話 「“また会おう”は、また会わない。」

 日曜日の午後三時。喫茶ロンドの丸い掛け時計は、実際より七分進んでいた。


 窓際のいつもの席では、小森美咲がアイスコーヒーの氷をストローで砕いていた。


「遅い」


 誰に言うでもなく呟く。


「三分だよ」


 向かいで文庫本を読んでいた桐生蒼真が、腕時計を見て言った。


「ここの時計なら十分」


「時計の七分までひばりの責任にするの?」


「時間にだらしない人間は、進んでいる時計にも遅れるの」


 隣では、立花玲央がシュガーポットの蓋を鏡代わりにして前髪を直している。


「デート帰りだろ。余韻とか口紅とか、整える時間がいるんだよ」


 神崎大和は新聞を広げたまま鼻で笑った。


「ひばりが話を整えてから来るなら、三分で済むはずがない」


 そのとき、店の扉についたベルが鳴った。


 雨宮ひばりが、長い髪に秋の風を絡ませたまま入ってきた。片側だけ編み込んだ髪には小さな花飾りが揺れている。頬から鼻筋にかけたそばかすの下で、口が不満そうに尖っていた。


「聞いて」


 挨拶より先に言い、空いている椅子へ鞄を置いた。


「会ったよ」


「誰に?」と玲央。


「今日デートした人に決まってるじゃない」


「会わずにデートする可能性も、ひばりなら残ってるから」


「ちゃんと会った。駅まで送ってくれた」


 美咲が身を乗り出した。


「それで?」


「別れ際に、また会おうって」


 四人の表情が同時に止まった。


「ああ、それはダメだね」


 声まできれいに重なった。


 ひばりは椅子へ座りかけた姿勢のまま、四人を見渡した。


「どうして?」


 美咲が、さも常識を教えるように言った。


「“また会おう”は、“もう会わない”って意味だから」


「反対じゃない」


「恋愛では同じなの」


「日本語が?」


「男が」


 ひばりは納得できない顔で、ゆっくり椅子へ腰を下ろした。


「また会いたくないなら、“もう会わない”って言えばいいのに」


「それを言えないから、“また会おう”で逃げるんだ」と大和。


「日本語を反対に使ってまで?」


 注文を取りに来た芦屋玲奈が、伝票を胸元に抱えたまま足を止めた。


 喫茶ロンドで働き始めてまだ日が浅い。長い栗色の髪を後ろでまとめ、借り物のエプロンをきちんと結んでいる。きちんとしすぎているせいで、彼女だけが店内で面接を受け続けているようにも見えた。


「申し訳ありません。会話が聞こえてしまったのですが、“また会おう”は、再会の意思を示す言葉ではないのでしょうか」


 ひばりが勢いよく玲奈を指した。


「ほら。玲奈もそう言ってる」


「玲奈はまだ東京の男の嘘に汚染されてないのよ」と美咲。


「わたし、東京の男の方から嘘をつかれた経験はございます」


「急に重いの出さないで」


 玲奈は少し考え、伝票の端へ何かを書き始めた。


「では、再会する場合と、しない場合があるのですね。どう判別するのでしょうか」


「実際にまた会えたら、会うほうだったって分かる」と蒼真。


「事後にしか判明しないのですね」


 玲奈は真面目な顔で頷き、伝票にもう一行書き加えた。


 ひばりが覗き込む。


「何て書いたの?」


「“また会おう――結果待ち”です」


 大和が新聞を下ろした。


「店員が客の恋愛を伝票で管理するな」


 美咲は氷を砕く手を止めた。


「ひばり。最後に相手、どこ見てた?」


「電車の時刻表」


「はい、終了」


「どうして?」


「君より次の電車を見てた」


「でも、電車は毎日来るよ。わたしは今日しか来ない」


 一瞬、全員が黙った。


 蒼真が静かに頷いた。


「それは、ひばりが正しい」


「でしょ?」


「ただ、電車は時間どおり来る」


 美咲が吹き出し、大和が新聞の陰で肩を揺らした。


 ひばりだけが、まだ何も諦めていない顔をしていた。


     *


 同じ日の夕方。アパート二〇一号室、立花玲央の部屋には、床より高い場所がほとんどなかった。


 脱ぎ捨てた服、台本、コンビニ袋、役作りのために買ったらしい片方だけの革手袋。その隙間に、玲央と大和が向かい合って座っていた。


「もう一回、最初から頼む」


 玲央が台本を構えると、大和は露骨に嫌な顔をした。オーディションで玲央が演じるのは、三年間の禁煙を破って煙草へ手を伸ばす男。奇しくも大和も禁煙三年目で、それだけの理由で練習に呼ばれていた。


「ここで煙草を見つめて、それから、ゆっくり口へ近づける」


 玲央は小道具の煙草を指先で持ち、眉間に皺を寄せた。


「遅すぎる」


「葛藤してるんだよ」


「その速度だと、煙草を初めて見る原始人だ」


「じゃあ、どうすればいいんだ」


「吸いたい奴は煙草を見つめない。考える前に火をつける」


 大和は玲央の指から一本抜き取った。


 口にくわえ、ライターを鳴らす。


 玲央が慌てた。


「待て。本物に火つけるのか?」


「手本だ」


「三年やめてたんだろ?」


 大和は答えず、炎を先端へ近づけた。


 橙色の火が紙を舐める。先端が赤く燃え、大和はゆっくり煙を吸い込んだ。


 玲央が固唾をのんで見守る。


 大和は煙を肺へ入れたまま目を閉じた。


 三年ぶんの沈黙のあと、長い息とともに白い煙を吐き出す。


「……たまらん」


 しみじみと言った。


     *


 夜になると、喫茶ロンドは昼より少しだけ狭くなる。


 客が増えるからではない。古びたランプの光が、店の隅を暗闇のほうへ押しやるからだ。


 いつもの席では、美咲が右手の人差し指を立てていた。


「男の人差し指の長さって、アソコの長さに比例するらしいわよ」


 蒼真が本から顔を上げた。


 玲央は自分の指を見た。


 大和は見なかった。見ないようにしているのが、いちばん分かりやすかった。


 蒼真は右手の人差し指を左手で挟み、定規を見るような目つきで確認した。


「反対の指も使っていい?」


「二本足してどうするのよ」


「左右差があるから」


 玲央は両手をテーブルの下へ隠した。


「俳優は身体的特徴で評価されるべきじゃない」


「短いんだ」と大和。


「役者としての可能性は長い!」


 そこへ玲奈が、丸い盆へ五人分の飲み物を載せてやってきた。


「お待たせいたしました」


 美咲の前へホットコーヒー。


 蒼真の前へミルクティー。


 玲央の前へアイスコーヒー。


 大和の前へクリームソーダ。


 ひばりの前へブラックコーヒー。


 全員が、自分の前に置かれた飲み物を見つめた。


 注文と合っているものは、一つもなかった。


 玲奈は盆を両手で抱え、少し緊張した笑顔を浮かべている。


 美咲が最初に顔を上げた。


「ありがとう、玲奈」


「ありがとうございます」と蒼真。


「完璧」と玲央。


「俺がクリームソーダを頼む顔に見えたなら、見る目がある」と大和。


「黒いね」とひばり。


 それぞれが飲み物を受け取った。


 玲奈は安心したように一礼し、カウンターへ戻っていく。


 彼女が背を向けた瞬間、五人の手がいっせいに伸びた。


 ホットコーヒーは大和へ。


 ミルクティーはひばりへ。


 アイスコーヒーは美咲へ。


 クリームソーダは玲央へ。


 ブラックコーヒーは蒼真へ。


 言葉を交わす必要はなかった。


 五つのグラスとカップが、見事な連係で本来の持ち主へ収まった。


 玲央がクリームソーダのさくらんぼをつまんだところで、玲奈が振り返った。


 五人は同時に飲んだ。


 玲奈は満足そうに微笑み、また前を向いた。


 美咲が小声で言った。


 蒼真はブラックコーヒーを一口飲み、顔をしかめた。


「これ、大和の?」


「俺はホットだ」


「じゃあ、誰の?」


 五人はもう一度、カップを見た。


 ひばりがミルクティーを飲みながら言った。


「わたし、ココア頼んだよ」


 完全な正解ではなかった。


     *


 十分後、ひばりは思い出したようにテーブルを叩いた。


「それでね、駅で“また会おう”って言われたあとなんだけど」


「まだ続いてたの?」と美咲。


「わたしの中ではずっと続いてた」


「途中で人差し指の話してたよ」


「あれはみんなの話でしょ。これはわたしの話」


 ひばりは、相手の男が改札へ入ったあと、一度だけ振り返ったと説明した。


「振り返ったなら、また会いたいんじゃない?」と玲央。


「忘れ物を確認した可能性が高い」と大和。


「わたしが忘れ物?」


「置いていけたか確認した」


「大和、今日ずっと意地悪ね」


 大和は立ち上がり、店の奥へ向かった。


 数分して戻ってくると、玲奈が通路の途中で足を止めた。


 大和のそばへ一歩近づき、鼻を小さく動かす。


 もう一歩近づく。


「何だ」


「大和さん」


「近い」


「もしかして、煙草を吸いました?」


 テーブルにいた四人の顔が、一斉に大和へ向いた。


「吸ってない」


 即答だった。


 玲奈はもう一度、肩口のあたりを嗅いだ。


「吸いましたよね?」


「煙草の近くにはいた」


 蒼真が訊いた。


「火のついた煙草の?」


「かなり近くにな」


 大和は右手の人差し指と親指を、一センチほど開いた。玲央が「口との距離じゃない、それ」と指摘する。


 美咲が立ち上がった。


「三年やめてたでしょ!」


「三年もやめたんだぞ。一本くらいご褒美だろ」


「禁煙のご褒美に喫煙するの?」


「三年間、休まず禁煙したんだ。禁煙を休ませろ」


「禁煙って疲れるんだね」とひばり。


「理解しないで」と美咲。


 玲奈は心配そうに大和を見た。


「一本吸いますと、また吸いたくなるのではありませんか?」


「ならない」


「俺の部屋でもう二本吸った」と玲央。


「おまえは黙ってろ」


「俺のせいみたいに言うな!」


 美咲が大和の上着のポケットへ手を伸ばした。大和は身体をひねって避ける。


「煙草、出しなさい」


「嫌だ」


「子供?」


「大人だから吸えるんだ」


 追及が始まったところで、美咲の腕時計が目に入った。


 彼女は急に手を止める。


「やば。もうこんな時間」


「仕事?」と蒼真。


「違う。人と会うの」


 鞄を取り、乱れた前髪をガラスへ映して整える。


 玲央が目を細めた。


「男だな」


「どうしてそうなるのよ」


「女は女に会う前、俺たちを置いて逃げない」


「あんたたちからは、いつでも逃げたいわよ」


 美咲は立ち上がったが、ひばりに袖を掴まれた。


「誰?」


「友達」


「名前は?」


「タカシ」


 全員の顔が変わった。


「男じゃん」と玲央。


「友達よ」


「名字は?」と蒼真。


「知らなくていい」


「人差し指は?」と玲奈。


「玲奈まで何を覚えたの!」


 玲奈は叱られ、姿勢を正した。


「申し訳ありません。直前の会話から、必要な確認事項かと」


 ひばりが美咲の袖を離さない。


「付き合ってるの?」


 美咲は答えず、視線をそらした。


 その沈黙だけで十分だった。


 玲央が両手をテーブルについた。


「紹介しろよ!」


「絶対に嫌」


「なんで?」


「あんたたちに見せたら、絶対に何か言うから」


「言わないよ」と蒼真。


「あんたは静かに言う。玲央は自分と比べる。大和は興味ないふりをして一番細かく見る」


「わたしは?」とひばり。


「本人に直接聞くからダメ」


 玲奈がおずおずと手を上げた。


「わたしは、お会いしてもよろしいのでしょうか」


 美咲は一瞬だけ言葉に詰まった。


 五人、と言いかけた顔だった。


 だが、すぐに玲奈も含めて見渡す。


「全員ダメ。私がもっとタカシを知ってから」


「あんたたちに会わせても壊れないくらい」


 美咲はひばりの手を振りほどき、店を出ていった。


 扉のベルが鳴り終わっても、五人はしばらく入口を見ていた。


 玲央が最初に口を開いた。


「タカシって、絶対ろくでもないぞ」


「まだ名前しか知らないよ。全国のタカシに謝りなよ」と蒼真。


 ひばりは美咲が置いていった氷の溶けたアイスコーヒーを見た。


「美咲、楽しそうだったね」


「そう?」


「うん。怒ってたけど、楽しそうに怒ってた」


 蒼真は扉の外へ目を向けた。


 美咲の姿は、もう下北沢の夜へ紛れていた。


「だから、まだ見せたくないのかもね」


「何を?」と玲央。


「楽しそうな自分を」


 大和は上着のポケットから煙草の箱を取り出した。


 玲奈が遠くのカウンターから、じっとこちらを見ている。


 大和は箱を戻した。


「今のは吸うためじゃない」


「何のため?」とひばり。


「本数を確認した」


「何本だった?」


「吸いたくなる数だ」


     *


 翌日の昼休み。


 大和は職場の自席で、机の引き出しを五センチだけ開けていた。


 中には火のついた煙草が一本、金属製のクリップケースに載せられている。


 大和は周囲を確かめ、引き出しから煙草を取り出した。


 一口吸う。


 引き出しへ戻す。


 煙を下へ吐く。


 消臭スプレーを机の下へ噴く。


 口臭ミストを口へ噴く。


 パソコンへ向かい、仕事をしている顔をする。


 隣の島から同僚が立ち上がった。


 大和は引き出しを閉めた。


 同僚が通り過ぎる。


 開ける。


 吸う。


 戻す。


 吐く。


 消臭スプレー。


 口臭ミスト。


 仕事の顔。


 三度目には、動作が洗練されていた。


 四度目、背後から上司の声がした。


「神崎」


 大和は慌てて引き出しを閉め、手に持っていた消臭スプレーを口の中へ噴射した。


「っ――!」


「どうした?」


 目に涙を浮かべながら、何事もなかった顔で振り返る。


「口が、爽やかになりました」


「そうか。午後の資料、頼むぞ」


「はい」


 上司が去る。


 大和は机へ向き直り、声を殺して激しくむせた。


 閉じた引き出しの隙間から、細い煙が上がっている。


 パソコン画面の端には、社内標語が表示されていた。


 ――小さな異変を、見逃さない。


 大和はそれを閉じた。


     *


 その夜、喫茶ロンドでは、大和に対する臨時裁判が開かれていた。


 裁判長は美咲。


 検察は蒼真、玲央、ひばり、玲奈。


 被告人の大和には、弁護人がいなかった。


「職場でも吸ったでしょ」


 美咲が問い詰める。


「吸ってない」


「昨日と同じ答えね」


「事実は一日で変わらない」


「服から煙草と消臭剤とミントの匂いがします」と玲奈。


「三つ揃ったら自白と同じだよ」と蒼真。


「新しい香水だ」


「“会社のトイレ”って名前?」とひばり。


 大和はテーブルを叩いた。


「アンフェアだと思わないのか!」


 店内の客が一瞬だけ振り返った。


 美咲は怯まない。


「何がよ」


「おまえら五人の悪い癖は放置されて、なぜ俺だけ責められる」


「煙草は身体に悪いからでしょ」


「おまえの怒鳴り声だって身体に悪い」


「誰の?」


「俺のだ」


 大和は美咲を指した。


「おまえは何でも仕切って、人の部屋の冷蔵庫まで勝手に開ける」


「腐ったものを捨ててあげてるの」


「ほらな。自分の欠点は親切に言い換える」


 次に玲央を指す。


「玲央は話を盛る。通行人に一回振り返られただけで、ファンに顔が割れたと言う」


「危機管理だ。売れる前から顔を守ってる」


 大和の指が蒼真へ移る。


「蒼真は考えすぎる。コーヒー一杯に、今日の体調と明日の睡眠まで持ち込む」


「選択には理由が必要だから」


「さっきの注文は、理由より優しさを選んだ」


 玲奈が小さく目を見開いた。


「先ほどのご注文、間違っていたのでしょうか」


 五人の動きが止まった。


 蒼真が微笑んだ。


「大和が全部間違えたの」と美咲。


「俺は注文を運んでないぞ」


 玲奈は納得しきれないまま、それでも話を戻した。


 大和はひばりを指す。


「ひばりは人の話を聞かない。遅れて来ても、全員が自分の話を待っていたと思ってる」


「待ってないの?」


「待ってない」


「でも、みんな質問するよ」


「話が分からないからだ」


「じゃあ、目が離せないってことね」


 最後に大和は玲奈を見た。


 玲奈も緊張した顔で、自分が何を指摘されるのか待っている。


「玲奈は――」


 大和の指が止まった。


「何でしょうか」


「何でも謝りすぎる」


「申し訳ありません」


「今だよ!」


「すみません」


「二回目!」


 玲奈は口を閉じた。


 少しして、おそるおそる言う。


「では、謝らないほうがよろしかったでしょうか」


「質問に変えたな」


「謝罪しないよう努力しております」


 玲奈は困った顔で黙った。


 蒼真が大和を見る。


「でも、大和も人の欠点を並べる癖があるよね」


「俺のは反論だ」


「普段から覚えてたんでしょ」


「記憶力がいいんだ」


「自分も長所に変えた」と玲央。


「長所だからな」


 美咲が玲央を睨んだ。


「あんたもさっき、俳優としての危機管理って言ったでしょ」


「俺のは本当に長所だ」


「私の世話焼きだって長所よ」


「わたしの話も、最後まで聞くと面白いよ」とひばり。


「僕のは考えすぎじゃなくて慎重」と蒼真。


「わたしは、丁寧でありたいだけです」と玲奈。


 六人が、それぞれ自分だけは例外だと言い始めた。


 美咲は玲央の見栄を責め、玲央は蒼真の優柔不断を責め、蒼真はひばりの時間感覚を指摘し、ひばりは玲奈が固すぎると言い、玲奈は大和の言葉遣いが強いと控えめに指摘した。


 大和対五人だったはずの裁判は、いつの間にか全員対全員になった。


 その騒ぎの中心で、大和はそっと煙草を取り出した。


 誰も見ていない。


 ライターを鳴らす。


 小さな炎が灯る。


 大和は満足そうに一口吸い、煙を吐いた。


 最初に気づいたのは玲奈だった。


「あっ、大和さん!」


 全員が振り返る。


 大和は煙草を指に挟み、穏やかな顔で言った。


「続けろよ。今、玲央のプリンのほうが身体に悪いところだった」


「消しなさい!」


「俺の欠点は、個性だ」


「それだけは違う!」


 五人の声が重なった。


 大和は逃げるように立ち上がり、煙草を持ったまま店の外へ向かう。


 玲央と美咲が追い、蒼真も席を立つ。ひばりは自分のミルクティーを持ってついていき、玲奈は店員として止めるべきか、仲間として追うべきか迷ったあと、エプロン姿のまま全員を追った。


 六人が一斉に出ていき、喫茶ロンドの扉のベルが激しく鳴った。


 残されたテーブルには、取り違えたままの飲み物と、美咲が忘れた伝票が一枚。


 玲奈の字で、こう書かれていた。


 ――タカシ。結果待ち。


 その下に、ひばりがいつの間にか書き足していた。


 ――大和。禁煙も結果待ち。

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