追放された雀士
優梨は、古びた麻雀牌を握りしめていた。
その牌は、代々受け継がれてきた神崎家の大切な牌。
しかし、今ではその家は麻雀会から追放された一族と呼ばれていた。
「どうして……私たちは追放されたの?」
幼い頃、優梨は祖父に尋ねた。
祖父は悲しそうな顔で答えた。
「お前の曾祖父は、雀キング戦で不正を疑われた。」
「だが、本当は何もしていなかった。」
「それでも麻雀会は信じてくれなかった。」
証拠があると言われ、一族の言葉は届かなかった。
その日から神崎家は、麻雀会から姿を消した。
大会に出ることも許されず、雀士として認められることもなくなった。
優梨はずっと悔しかった。
「私が強くなって……いつか一族の名誉を取り戻す。」
そう決めていた。
そんなある日。
優梨はある噂を聞いた。
「ツモ姫が現れたらしい。」
「まだ一歳の女の子なのに、すごい雀力を持っているそうだ。」
優梨は驚いた。
「一歳……?」
思わず笑ってしまう。
「そんな小さな子が麻雀を打てるわけない。」
きっと誰かが大げさに騒いでいるだけ。
そう思った。
けれど、もし本当にツモ姫が存在するなら――。
優梨は確かめたかった。
自分の目で。
結咲の家。
玄関の前に立った優梨は、少し緊張していた。
「本当に……いるんだ。」
扉を開けたのは、結咲の母だった。
「あなたが優梨ちゃんね。」
「結咲に会いに来たの?」
優梨は頭を下げる。
「はい。」
「結咲ちゃんと……勝負をさせてください。」
その言葉に、母は少し驚いた。
しかし、優しく微笑んだ。
「分かったわ。中へどうぞ。」
「でも……」
優梨はためらう。
「私は、麻雀会から追放された一族の子です。」
母は首を横に振った。
「あなたは優梨ちゃんでしょう?」
「今日は勝負をしに来た大切なお客様よ。」
その言葉に、優梨は少し驚いた。
居間では、結咲が小さな麻雀牌を握っていた。
「チー!」
「ポン!」
「ロン!」
「ツモ!」
母は困ったように笑う。
「最近、この言葉ばかり覚えているの。」
その姿を見た優梨は思った。
(本当に……一歳の子。)
(この子がツモ姫?)
その時、彰が結咲の前に立った。
「本当に勝負するの?」
優梨を見る目は真剣だった。
「ゆづきはまだ小さい。」
「危ないことをするなら、俺が止める。」
優梨は首を振る。
「傷つけるつもりなんてない。」
「ただ……確かめたいだけ。」
「この子が本当にツモ姫なのか。」
彰は黙って結咲を見る。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「東風戦、開始。」
曽祖父の声が響く。
東一局。
優梨は本気で牌を打った。
一歳の子に負けるわけがない。
そう思っていた。
東二局。
結咲は小さな手で牌を並べる。
「ツモ。」
また和了。
優梨の表情が変わる。
(偶然じゃない……。)
東三局。
優梨は集中した。
(ここで勝つ。)
追放された一族の誇りを背負い、牌を切る。
「ツモ!」
優梨の逆転。
「東三局終了。優梨がトップ。」
彰は驚いた。
「すごい……。」
しかし、すぐに結咲を見る。
「ゆづき、大丈夫か?」
結咲は泣いていなかった。
小さな牌を握って、楽しそうに笑っている。
「ツモ!」
その笑顔に、優梨は少し戸惑った。
そして迎えた東四局。
最後の勝負。
優梨は逃げ切ろうとする。
しかし――。
結咲の周りの牌が、淡い光を帯びる。
曽祖父は静かにつぶやいた。
「雀力が目覚めたか。」
結咲は最後の牌を引いた。
「ツモ!」
その一手で、逆転。
「東風戦終了。」
「勝者、結咲。」
優梨は牌を見つめた。
負けた。
でも、不思議と悔しさだけではなかった。
結咲は勝ったことも知らず、優梨へ小さな牌を差し出した。
「どうぞ。」
優梨は目を丸くする。
「……あなたは、本当に不思議な子ね。」
初めてだった。
追放された一族の自分を、まっすぐ見てくれる相手は。
優梨は小さく笑った。
「次は……絶対に勝つから。」
結咲は嬉しそうに笑う。
「ツモ!」
その日、優梨は敗北した。
けれど同時に、小さな雀士との大切な出会いを手に入れた。




