英雄
朝。
彰は一族の屋敷へ呼ばれていた。
古くから残されている記録庫。
そこには、白・發・中。
三元牌にまつわる長い歴史が記されていた。
大三元。
麻雀では役満と呼ばれる特別な役。
しかし、この世界ではただの役ではなかった。
人々の願い。
欲望。
恐れ。
様々な想いが重なってきた存在だった。
「彰。」
長老が静かに呼ぶ。
「今日、伝えることがある。」
彰は姿勢を正した。
「影月一族は、大三元の監視役から外れることになった。」
「……。」
彰は驚く。
長い間。
影月一族は、大三元に関わる者を見守り続けてきた。
危険を防ぐため。
争いを止めるため。
そう信じられてきた役目。
しかし。
時代は変わった。
「恐れることで守る時代は終わった。」
長老は言う。
「これからは、信じることで守る時代になる。」
その話を聞いた祢音は、静かに目を伏せた。
「……私たちは。」
「守っているつもりだった。」
「でも、いつしか恐れることばかりになっていたのかもしれません。」
彰は祢音を見る。
かつて、大三元を巡る争いに巻き込まれた女性。
失ったものを抱えながら、それでも未来を守ろうとしている。
その時。
彰は一冊の古い記録を見つける。
そこに書かれていた名前。
光一。
陽菜の兄。
そして――。
結咲を守った男。
光一には、特別な力があった。
千里眼。
未来を見る力。
しかし、それは幸せな力ではなかった。
誰も知らない未来。
見たくない未来。
それを見ることができてしまう。
光一は、ある未来を見ていた。
小さな少女。
結咲。
白・發・中。
大三元を和了する少女。
しかし、その周りには争いも見えた。
力を恐れる者。
力を欲しがる者。
その未来を変えなければならない。
光一はそう思った。
ある夜。
光一の前に、影月一族の上層部が現れる。
「光一。」
「お前には未来が見えるはずだ。」
「大三元を持つ少女が、争いの中心になる未来が。」
光一は静かに答える。
「見えている。」
結咲がまだ誕生していない時
光一は、ある未来を見てしまった。
暗闇の中。
小さな手で牌を握る赤ん坊。
周囲には、優しく見守る人々の姿。
その子が笑うたびに、人と人の心が繋がっていく。
そして光一は理解した。
「あの子が……次の時代を繋ぐ存在なのか。」
その子の名は、結咲。
生まれるであろう小さな命。
上層部は言う。
「ならば分かるだろう。」
「争いが起きる前に原因を消すしかない。」
光一は顔を上げた。
「違う。」
「結咲は原因じゃない。」
「恐れている人間の心が、争いを生むんだ。」
上層部は理解できなかった。
「綺麗事だ。」
「力を持つ者を放置すれば、また悲劇が起きる。」
光一は白の牌を見つめる。
「大三元は、人を傷つけるためのものじゃない。」
「誰かを守りたいと思う心があるなら、未来は変えられる。」
光一と影月一族上層部の戦いが始まった。
影月一族の力。
そして、光一の読み。
未来を見る千里眼。
激しい戦いだった。
しかし。
光一は相手を倒すために戦っていたわけではない。
未来を変えるために戦っていた。
上層部が叫ぶ。
「なぜだ!」
「なぜ、そこまで一人の赤子を守る!」
光一は答える。
「未来を見たからだ。」
「小さな手で牌を握る子どもを。」
「その子を囲んで、笑っている人たちを。」
光一は最後まで諦めなかった。
自分がどうなるか。
それも千里眼で分かっていた。
それでも。
未来を変えるために戦った。
彰。
陽菜。
優梨。
三人は、光一が残した記録を読む。
最後のページ。
そこには短い言葉が残されていた。
『力を恐れるな。』
『力を持つ者を信じろ。』
『未来は、誰かを想う心で変えられる。』
陽菜の目から涙がこぼれる。
「お兄ちゃん……。」
「最後まで、私たちのことを考えていたんだね。」
優梨は白・發・中を見る。
「光一さんは、大三元を守ったんじゃない。」
「大三元を持つ人の未来を守ったんだ。」
彰は静かに拳を握る。
自分は今まで、強くなることばかり考えていた。
守るためには力が必要だと思っていた。
でも。
光一は違った。
未来を信じる強さを持っていた。
その頃。
結咲は何も知らず、彰の近くで笑っていた。
小さな手。
小さな笑顔。
光一が最後まで守ろうとした未来。
それが、今ここにある。
祢音は空を見上げる。
「光一さん。」
「あなたが守った未来は……」
「ちゃんと続いています。」
白。
發。
中。
三つの牌に込められた想いは、次の世代へ受け継がれていく。
未来を見た男。
そして。
未来を守った男。
光一の想いは、彰と結咲の未来へ繋がっていく。




