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ツモ姫  作者: 耀
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22/31

戻れない時間

静かな夜。

祢音は夢を見ていた。

そこには、失ったと思っていた時間があった。

小さな家。

暖かな光。

そして。

元旦那と、一歳の娘。

皐。

夢の中の皐は、まだ言葉を話せない。

小さな手。

小さな足。

一生懸命、祢音のところへ歩いてくる。

何度も転びそうになりながら。

それでも。

母の元へ向かってくる。

祢音はしゃがみ込む。

小さな手が、祢音の指を握る。

「……皐。」

涙がこぼれる。

「ごめんね。」

「守れなくて……。」

皐は答えられない。

まだ言葉を知らないから。

ただ。

母の指を握り、笑っていた。

その笑顔が。

祢音には何より苦しかった。

もし。

あの日に戻れたら。

もし。

違う選択ができたなら。

元旦那と皐と。

普通の家族として暮らせていたかもしれない。

皐の成長を見ることができたかもしれない。

歩く姿。

笑う声。

初めて話す言葉。

全部。

見届けたかった。

「もう一度……。」

祢音は願う。

「やり直したい。」

しかし。

夢は消える。

小さな手の温もりも。

家族の姿も。

光の中へ消えていった。

目を覚ます。

祢音の頬には涙が流れていた。

「……夢か。」

それでも。

胸に残った温もりは消えない。

「皐……。」

祢音は名前を呟く。

忘れたことなど一度もない。

その後。

祢音は影月一族に呼び出された。

広い部屋。

一族の者たちが並ぶ。

「祢音。」

冷たい声が響く。

「お前は一族の意思に背いた。」

「本来、監視するべき存在を守っている。」

祢音は黙っている。

「ツモ姫を守る理由は何だ。」

祢音は答える。

「結咲は力ではない。」

「守るべき、小さな命よ。」

その言葉に、一族の者たちは顔を歪める。

一人の女が近づく。

「変わったわね。」

「昔のあなたなら、こんな選択はしなかった。」

近い距離。

柔らかな声。

しかし。

その言葉には罠があった。

「戻ってきなさい。」

「あなたなら許される。」

祢音は静かに見る。

「それは命令?」

女は微笑む。

「忠告よ。」

「次は、許されない。」

祢音は首を振る。

「私はもう決めた。」

「私は、結咲を守る。」

その言葉を聞いた瞬間。

一族の長が立ち上がる。

「ならば。」

「処分するしかない。」

部屋が静まり返る。

祢音は顔を上げる。

「……。」

長は告げる。

「影月一族に背いた者。」

「仲間を裏切った者。」

「その罪は――。」

一瞬の沈黙。

「首を斬り、終わらせる。」

その場にいた者たちが息を呑む。

祢音は目を閉じる。

恐怖はなかった。

ただ。

思い浮かぶのは。

結咲の笑顔。

そして。

小さな皐の姿。

「……。」

祢音は静かに拳を握る。

(まだ、終われない。)

一族の長は命じる。

「準備をしろ。」

「処刑の日を決める。」

その言葉を最後に。

祢音は連れて行かれる。

暗い部屋。

一人になった祢音。

窓の外を見る。

「結咲……。」

そして。

「皐……。」

届かないと思っている名前を呟く。

しかし。

運命はまだ終わっていない。

母として。

守る者として。

祢音の戦いは、これからだった。

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