守る者の罪
夜。
結咲は小さな牌を並べていた。
白。
発。
中。
その隣には、彰がいた。
「結咲。」
呼ばれると、結咲は顔を上げる。
「今日は早く寝ろ。」
彰は優しく言う。
結咲はまだ遊び足りないように牌を握る。
その姿を見て、彰は少し笑った。
「本当に……。」
「普通の子供なんだよな。」
大三元の力を持つ少女。
ツモ姫。
多くの者が特別な存在として見る。
しかし、彰にとって結咲は違う。
守るべき、小さな命だった。
その頃。
祢音は一人、夜道を歩いていた。
影月一族。
かつて自分がいた場所。
しかし今は違う。
結咲を守ると決めた。
それは、一族への裏切りを意味していた。
「……。」
背後から声がした。
「随分変わったものね。」
祢音は足を止める。
暗闇から現れたのは、影月一族の女。
「祢音。」
「まさか、あなたが守護する側になるなんて。」
祢音は警戒する。
「何の用?」
女はゆっくり近づく。
「確認よ。」
「あなたが本当に一族を捨てたのか。」
その言葉には、冷たい笑みがあった。
「昔のあなたなら分かっていたでしょう?」
「危険な力を持つ者は、排除するべきだと。」
祢音の表情が曇る。
「……私はもう違う。」
女は祢音を見る。
「本当に?」
「昔、大切なものを守れなかったあなたが?」
その言葉が、祢音の胸に刺さる。
皐。
失ったと思っていた娘。
守れなかった過去。
「あなたはまた失うわ。」
女は囁く。
「今度は、あの小さな姫を。」
女は祢音の前に立つ。
「戻ってきなさい。」
「あなたなら、まだ許してあげる。」
優しい声。
しかし。
その裏には脅しがあった。
「断れば……。」
「結咲も。」
「あなたが大切にしている人たちも。」
「どうなるか分からないわよ。」
祢音は拳を握る。
「……。」
その時。
女は少し笑った。
「相変わらずね。」
「昔から、守りたいものができると弱くなる。」
「でも――。」
「そういうところが、あなたの魅力でもあるのだけれど。」
甘い言葉。
しかし、祢音には分かっていた。
これは誘惑ではない。
心を揺さぶるための罠。
「私はもう迷わない。」
祢音は言う。
「私は、守る。」
その夜。
祢音は結咲を見る。
小さな寝顔。
穏やかな表情。
その姿に、別の記憶が重なる。
幼い皐。
小さな手。
自分を信じて笑っていた娘。
「……。」
祢音の胸が苦しくなる。
(ごめんね……皐。)
守れなかったと思っていた娘。
そして今。
目の前には、守らなければならない小さな命がいる。
結咲を見るたび。
祢音は思い出してしまう。
もし、あの日。
もっと強ければ。
もっと早く気づけていたら。
皐を失わずに済んだのではないか。
彰は祢音の様子に気づいた。
「祢音。」
「何かあったのか。」
祢音は一瞬黙る。
しかし。
首を振る。
「大丈夫。」
彰は祢音を見る。
嘘だと分かる。
でも、無理に聞かなかった。
「一人で抱えるな。」
その言葉に、祢音の目が揺れる。
昔の自分なら。
全てを一人で背負っていた。
でも。
今は違う。
守りたいものがある。
一緒に戦う仲間がいる。
その頃。
影月一族では。
一人の人物が報告を聞いていた。
「祢音は完全に結咲側についた。」
「ならば……。」
「次は、あの少女を狙う。」
その人物の手には、一枚の写真。
そこには。
幼い皐の姿があった。
祢音は知らない。
自分が守ろうとしている結咲。
そして。
失ったと思っている皐。
二人が、大きな運命で繋がっていることを。
しかし。
確かなことが一つある。
今度こそ。
祢音は、大切なものを失わない。




