消えた命
暗い森の中。
一人の少女が歩いていた。
名前は――皐。
彼女は、とある一族に守られながら生きてきた。
その一族の名は、表にはほとんど知られていない。
幼い頃。
皐は一度、命を狙われた。
理由は知らされていない。
ただ、周囲の大人たちが言っていた。
「この子を守らなければならない。」
「生きていることを知られてはいけない。」
そして。
皐を助けた人物。
それは――。
自分の父だった。
昔。
祢音には大切な家族がいた。
夫。
そして、幼い娘。
皐。
しかし。
大三元を巡る争いが起きた時。
影月一族の中で、ある判断が下された。
「危険な力に関わる者は排除する。」
皐も、その対象になった。
祢音は必死に守ろうとした。
しかし。
その争いの中で、皐は姿を消した。
残された証拠。
そして、周囲の言葉。
祢音は信じるしかなかった。
「皐は……死んだ。」
そう思い込んでいた。
しかし。
真実は違った。
皐の父は、娘を守るために動いた。
自分の一族と共に。
「このままでは皐は殺される。」
「ならば……死んだことにするしかない。」
皐の生存を隠すため。
父は、娘の死を偽装した。
そして。
皐を遠い場所で育てた。
「いつか真実を知る日が来る。」
そう信じて。
現在。
皐は父の一族から聞かされていた。
「お前を狙ったのは、祢音の一族だ。」
「母親も、その一族の人間だった。」
だから。
皐にとって祢音は――。
自分を奪おうとした敵だった。
「……いつか会う。」
皐は決意していた。
「なぜ私を狙ったのか。」
「全部聞くために。」
その頃。
祢音は結咲を見守っていた。
小さな手で牌に触れる結咲。
その姿を見るたびに、胸が痛む。
「……。」
昔の自分を思い出す。
守れなかった娘。
失った温もり。
祢音は知らない。
その娘が。
まだ生きていることを。
数日後。
皐は祢音と出会う。
「あなたが……祢音。」
祢音は警戒する。
「私を知っているの?」
皐は冷たい視線を向ける。
「知っている。」
「あなたは、私を殺そうとした一族の人間。」
祢音の表情が変わる。
「……違う。」
「私は……。」
言葉が出ない。
目の前の少女。
なぜか初めて会った気がしない。
その瞳。
その声。
胸の奥に残る、忘れられない感覚。
「……。」
祢音は気づかない。
目の前にいる少女が。
自分が失ったと思っていた娘だということに。
皐も知らない。
目の前の女性が。
自分の母親だということに。
その夜。
皐は父から受け継いだ一族の印を見つめる。
その印には、ある記録が残されていた。
「光一……。」
父の一族は、かつて光一とも関わっていた。
光一が最後に戦った相手。
その候補として名前が挙がる一族。
しかし。
それが真実なのかは、まだ分からない。
暗闇の中。
一人の人物が呟く。
「祢音の娘が生きていたか。」
「ならば……。」
「光一が守ろうとしたものも、まだ残っている。」
大三元を巡る過去。
祢音と皐のすれ違った親子の想い。
そして。
光一の最後の真実。
すべてが、少しずつ動き始めていた。




