兄の約束②
麻雀卓を挟み、一輝と謎の敵は向かい合っていた。
静かな空間に、牌の音だけが響く。
カチッ。
一輝の表情は変わらない。
普段の穏やかな姿とは違う。
長男として。
兄として。
守るべきもののために戦う顔だった。
「面白い。」
敵は笑う。
「妹のために、そこまで変わるか。」
一輝は牌を見ながら答える。
「当たり前だ。」
「結咲は俺の妹だから。」
その言葉に迷いはなかった。
一輝の打ち方は、派手ではない。
しかし、隙がない。
相手の流れを読み。
危険を避け。
勝つための道を確実に進む。
彰はその姿を見ていた。
「……強い。」
思わず口に出る。
雀力だけではない。
一輝は、自分が何のために戦っているのかを理解している。
それが強さになっていた。
敵は大きな手を狙っていた。
「ここで終わりだ。」
強烈な一手。
しかし。
一輝は静かに牌を置く。
「それは読んでいた。」
敵の表情が変わる。
一輝は流れを変えた。
少しずつ。
確実に。
追い詰めていく。
「なぜだ。」
敵が問う。
「なぜ、そこまで冷静でいられる。」
一輝は答える。
「守りたいからだ。」
「怒りや焦りで戦えば、守れるものも守れない。」
「兄なら、大切なものを守るために冷静でいる。」
その言葉に、彰は静かに頷いた。
それは、護衛としての考え方にも通じていた。
そして。
最後の一局。
一輝は牌を引く。
その瞬間。
幼い頃の記憶が蘇った。
小さな妹。
初めて抱いた結咲。
家族みんなが笑っていた日。
そして――。
雀キング大会で優勝した日。
あの日。
勝利の知らせを聞いた直後。
結咲が生まれた。
一輝にとって、あの日は二つの奇跡が重なった日だった。
「だから……。」
一輝は牌を置く。
「俺は負けない。」
「結咲が生きる未来を守るために。」
勝負は決着した。
敵は静かに立ち上がる。
「なるほど……。」
「光一が守ろうとした理由が、少し分かった気がする。」
彰が反応する。
「光一を知っているのか。」
敵は答えない。
「まだだ。」
「真実を知るには、時間が必要だ。」
そう言い残し、姿を消した。
静かになった場所。
結咲は一輝のもとへ歩いていく。
小さな手を伸ばす。
「にぃ。」
一輝はしゃがむ。
「どうした?」
結咲は一輝の手を握った。
そして、嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、一輝も微笑んだ。
「ありがとう。」
「結咲。」
「兄ちゃん、これからも頑張るからな。」
帰り道。
彰と一輝は並んで歩いていた。
「今日は助かった。」
彰が言う。
一輝は首を振る。
「俺は兄として当たり前のことをしただけだ。」
彰は少し笑う。
「それができる人間は、強いと思う。」
一輝は少し驚いたあと、笑った。
「彰に言われるとは思わなかった。」
二人は顔を見合わせる。
立場は違う。
彰は護衛。
一輝は兄。
でも。
大切な人を守りたいという気持ちは同じだった。
その夜。
和光界。
光一は静かに地上を見ていた。
そこには。
結咲の笑顔。
一輝の優しい表情。
彰の信頼。
光一は何も言わない。
ただ――。
優しく微笑んだ。
「……。」
受け継がれたものは、力ではない。
誰かを守りたいと思う心。
それが、人を強くする。




