兄の約束①
朝。
結咲は縁側で、小さな牌を並べていた。
白。
発。
中。
まだ小さな手で牌を握る姿は、とても可愛らしい。
しかし、その牌には大きな意味があった。
結咲はツモ姫。
大三元の力を持つ少女。
そして――。
光一が最後まで守ろうとした存在だった。
「結咲。」
声をかけたのは、一輝だった。
結咲は振り返る。
「にぃ。」
その一言に、一輝は優しく笑う。
一輝にとって、結咲は特別な存在だった。
大三元の力を持つからではない。
妹だから。
ただ、それだけだった。
「今日は無理するなよ。」
一輝が言うと、結咲は小さく首を傾げる。
そして、持っていた牌を一輝へ差し出した。
「……遊びたいのか?」
結咲は嬉しそうに笑う。
一輝も笑った。
「分かった。」
「少しだけな。」
その姿を、少し離れた場所から彰が見ていた。
彰は微笑む。
結咲に必要なのは、力だけではない。
こうして笑わせてくれる家族も必要なのだ。
しかし。
その日の午後。
空気が変わった。
彰はすぐに気づく。
「……誰かいる。」
周囲を警戒する。
すると、暗闇から一人の人物が姿を現した。
「ツモ姫。」
冷たい声。
彰は結咲の前に立つ。
「何者だ。」
男は答える。
「知る必要はない。」
「ただ、確認したいだけだ。」
視線は結咲へ向けられる。
「光一が、なぜこの子を守ったのか。」
彰の表情が変わる。
光一。
その名前を知る者。
しかし、この人物が何を知っているのかは分からない。
麻雀界には噂があった。
光一が最後に戦った相手がいる。
だが――。
その戦いの結末を知る者はいない。
光一が倒されたのか。
何かを守るために姿を消したのか。
真実はまだ闇の中だった。
男は一枚の牌を取り出す。
「勝負をしよう。」
「ツモ姫の力を見せてもらう。」
結咲は牌を見る。
いつものように興味を持つ。
怖がることはない。
しかし。
彰は気づいた。
「……おかしい。」
敵が作った場によって、雀力の流れが乱されている。
結咲の力が発揮できない。
さらに、まだ幼い身体では負担が大きい。
結咲は牌に触れる。
それでも、いつものような力は出ない。
悔しそうに小さな手を握る。
その時。
「俺がやる。」
声がした。
一輝だった。
彰が振り返る。
「一輝。」
一輝は結咲の前にしゃがむ。
「大丈夫。」
「兄ちゃんがいる。」
結咲は一輝を見る。
そして、安心したように頷いた。
一輝は卓の前へ座る。
敵が笑う。
「妹の代わりか。」
一輝は首を振った。
「違う。」
「結咲は、誰かの代わりになる存在じゃない。」
「俺は兄として、妹を守るだけだ。」
その言葉を聞いて、彰は静かに見つめる。
一輝の強さは、雀力だけではない。
大切な人を思う気持ち。
それは彰にも分かるものだった。
一輝には過去がある。
雀キング大会。
そこで優勝した経験。
そして、その日は――。
結咲が生まれた日だった。
「俺が優勝した日は。」
一輝は牌を切る。
「人生で一番嬉しい日でもあった。」
「強くなった日じゃない。」
「妹が生まれた日だからだ。」
その言葉とともに、一輝の表情が変わる。
兄としての覚悟。
それが、麻雀にも表れていた。
彰はその姿を見ていた。
一輝は護衛ではない。
自分とは違う役割。
でも。
結咲を大切に思う気持ちは同じだった。
「……一輝。」
彰は心の中で思う。
(お前は、結咲にとって大切な兄だ。)
その頃。
遠く離れた場所で、謎の人物が勝負を見ていた。
「やはり……。」
「光一が守ったものは、力ではない。」
「未来だったのか。」
静かに牌を握る。
光一が何を守り抜いたのか。
その真実へ近づく者が、少しずつ現れ始めていた。




