長女の涙④
志希は家族の前に立った。
父、母、祖父、祖母。
そして、一輝と美季。
みんなが優しい顔で志希を見る。
その視線が、今までの志希には少し怖かった。
期待されている。
そう思っていたから。
でも、今は違う。
この人たちは、自分を責めるために見ているのではない。
心配してくれているのだ。
志希はゆっくり息を吸った。
「みんなに話したいことがある。」
母が優しく頷く。
「何でも聞くよ。」
その言葉に背中を押され、志希は口を開いた。
「私……ずっと、自分には何もないって思ってた。」
「長女なのに、麻雀の才能がない。」
「結咲はツモ姫で、一輝も美季も雀力がある。」
「なのに私だけ……。」
声が震える。
「私は家族の期待に応えられないんじゃないかって、ずっと怖かった。」
一輝が静かに志希を見る。
美季も何も言わず、姉の言葉を聞いていた。
「留学中は楽しかった。」
「麻雀のことを考えないで、ただ笑っていられた。」
「でも帰ってきたら、また考えちゃった。」
「私は長女なのにって。」
母の表情が少し曇る。
志希は涙をこらえながら続けた。
「お母さんが苦しんでいたことも知ってる。」
「私のことで悩んでいたことも。」
「だから……私のせいだと思ってた。」
その瞬間。
母が志希の手を握った。
「違うよ。」
優しいけれど、強い声だった。
「志希のせいじゃない。」
「あなたが頑張っていたこと、お母さんはちゃんと知ってる。」
母の目にも涙が浮かぶ。
「私はね、志希に才能があるかどうかだけを見ていたんじゃない。」
「ただ、大切な娘だから幸せになってほしかった。」
「でも、いつの間にか志希を苦しませていたんだね。」
「ごめんね。」
志希の涙がこぼれる。
「お母さん……。」
父も静かに口を開く。
「志希。」
「家族に必要なのは、一番強い人じゃない。」
「一番優しい人がいることも、大きな力なんだ。」
祖父も頷く。
「麻雀の才能だけで人の価値は決まらん。」
「お前が家族を思ってきた時間は、誰にも負けていない。」
祖母は微笑む。
「志希はずっと、この家の大切な長女だったよ。」
その言葉を聞いた瞬間。
志希の胸にあった重いものが、少しずつほどけていった。
「……ありがとう。」
「私、もっと自分を認めてもいいのかな。」
一輝が笑う。
「当たり前だろ。」
美季も頷く。
「志希姉は志希姉だよ。」
その時だった。
小さな足音が聞こえた。
「ねー。」
結咲が志希のところへ歩いてくる。
まだ小さい手で、志希の指をぎゅっと握った。
「結咲……。」
結咲は嬉しそうに笑う。
「ねー。」
志希は涙を流しながら笑った。
「ありがとう。」
小さな妹の温かさが、何よりの答えだった。
自分には何もない。
そう思っていた。
でも違った。
自分には、守りたい人がいる。
そして、自分を守ってくれる人もいる。
志希は空を見上げた。
青い空が、昨日より少し近く感じた。




