長女の涙③
翌日、土曜日。
青空が広がる穏やかな朝。
結咲の家族は、久しぶりにみんなで出かけることになっていた。
父、母、祖父、祖母。
そして、一時留学から帰ってきた一輝、志希、美季。
今日は家族で過ごす大切な時間だった。
「結咲、帽子かぶろうね。」
母が優しく声をかけると、結咲は小さな手を伸ばした。
「おー!」
その元気な声に、家族みんなが笑顔になる。
公園へ着くと、父と祖父がレジャーシートを広げ、祖母と母がお弁当を並べる。
結咲は芝生の上を一生懸命歩いていた。
まだ小さな足取り。
それでも、前へ進もうとする姿に家族は自然と笑顔になる。
「結咲、おいで。」
父が手を広げる。
結咲は嬉しそうに歩いていく。
「ぱぱ!」
その声に、父は嬉しそうに結咲を抱き上げた。
「上手に呼べたな。」
次に祖父が手を伸ばす。
「じーにも来てくれるか?」
結咲は笑顔で近づいた。
「じー!」
祖父は嬉しそうに笑う。
祖母も優しく手を広げる。
「ばぁばは?」
結咲は祖母を見ると、にこっと笑った。
「ばぁば!」
その瞬間、祖母の顔がほころぶ。
志希はその様子を静かに見つめていた。
昨日まで、自分には何もないと思っていた。
でも今は違う。
(私にも、守りたいものがある。)
家族の笑顔。
結咲の笑顔。
それは雀力では測れない、大切なものだった。
少し離れた場所。
彰は木陰で修行をしていた。
結咲たちから離れすぎない場所を選び、周囲を警戒しながら忍術の鍛錬を続ける。
一振り。
また一振り。
鋭い動きの中にも、護衛としての冷静さがあった。
「彰さん。」
声に振り返ると、陽菜が立っていた。
今日は結咲に会うため、そして彰へ渡したいものがあって公園へ来ていた。
「お弁当、作ってきました。」
彰は少し驚く。
「俺に?」
「はい。」
陽菜は笑う。
「いつも結咲ちゃんを守ってくれているから。」
「ちゃんと休んでほしくて。」
彰は静かに頭を下げた。
「ありがとうございます。」
お弁当の中には、丁寧に作られた料理が詰まっていた。
「……おいしいです。」
その言葉に、陽菜は嬉しそうに笑う。
「よかった。」
「無理しすぎないでくださいね。」
「ああ。」
彰は再び結咲へ視線を向ける。
小さな少女が、家族に囲まれて笑っている。
その姿を守ること。
それが彰の役目だった。
その光景を見ていた志希は、ゆっくりと息を吸った。
昨日、優梨に話した言葉を思い出す。
『私は長女としてじゃなく、一人の志希として向き合う。』
もう迷わない。
家族に伝えよう。
自分がずっと抱えてきた気持ちを。
志希は家族のもとへ歩き出した。
――今度は、逃げるためではない。
大切な人たちと向き合うために。




