その9 帰省
ありがたい事に、十五歳の脳みそは、二年前の学習内容をうっすらおぼえていた。
十日もたてば、かなり取り戻せそうな具合になって来た。
若さってサイコー。
よし。
ここから巻き返す。
魔法書の写本も、やや遅れ気味ながら授業にはギリ間に合いそう。
やるじゃん、私。
二年で学ぶ魔法のメインは、物を動かす事。
要するに、両手が塞がっていてもドアが開けられるとか、うっかり川に流しちゃったバケツを拾うとか、そういう基本的だけど凄く役に立つ魔法。
この先どんな魔法使いになっても、必要になる。
クラスメイトに助けて貰いながら、勉強を進める。
二年の終わりの進級試験は無事合格。
よかった。
傭兵団を追い出されてから、四ヶ月が経っていた。
「一時はどうなるかと思ったけど。」
夏休みに入って、リリアと笑い合う。
お互い無事進級して、一ヶ月の夏休みに突入した。
リリアの実家は王都だから、すぐ帰れるけど、私なんて、片道徒歩で半月かかる。
往復するだけで、夏休みが終わってしまうので、一年生の時は帰らなかった。
でももう四年帰ってないので、今年は思い切って帰省する事にする。
乗り合い馬車を使う人もいるけど、残念ながら高くつく。
野宿しながら、故郷に向かう。
「あー。ヨッコイショー○チ」
途中、木陰で休憩する時に、うっかりオヤジギャグが出た。
そう言えば、これもオヤジギャグだけど、特に何も起こらない。
私の魔法の悪いところは、どれがどんな効果か、使ってみないと分からない所。
「ヨッコイショーイ○」は、何となく元気が出る気がするけど、はっきりとは分からない。
「アルミ缶の中にあるミカン。」
「隣の空き地に囲いが出来たってね!へー!カッコイイー!」
これも、フルで言わないと効果が発動しない。
「アルミ缶の上にあるミカン」だと、発動しない。
他に使えそうなオヤジギャグ、ないかなぁ。
そもそも前世でも、そんなオヤジギャグかっ飛ばすタイプではなかったので、今考えても思いつかない。
「そんなバナナ」は、ホントになんにも起こらなかった。
「猫が寝こんだ」もダメ。
発動条件の問題かも知れないけど。
道々歩きながら、考える。
途中、荷馬車に乗せてもらって距離を稼ぐ。
女の子って得だ。
これがオッサンだったらなかなか乗せてもらえないけど。
野宿だって、厩のすみっコぐらいならすぐ借りられる。
もちろん、なんで警戒されないかと言えば、非力だからだ。
普通に自分だけでやりたいことでも、他人の力を借りないとどうにもならない事が多い。
それが得かは、まぁ微妙。
そんなこんなで思ったより早く、故郷のアルベ村についた。
「ただいま!」
「わー、ねーちゃんだー!」
畑仕事をしていた弟達が走り寄ってくる。
うちは弟三人、妹一人。
あと、漁に出ている両親と、膝の悪いばあちゃんの、私を入れて八人の大所帯だ。
「元気だった?」
「村にお医者様が来てくれて、ばあちゃんが喜んでるよ!」
ウムウム。
それは何より。
一番上の弟が、中学校に通っている。
私の仕送りで、学費が何とかなったらしい。
そう思うと、傭兵団を追放されたのは痛手だなぁ。
でも飛び級で私が医療系魔法使いになって戻って来たら、医者を雇わなくてもいいし、ばあちゃんの膝の治療もタダだ。
卒業までの数年を、どう繋ぐか、だな。
やがて漁に出ていた両親が、魚が入った籠を片手に戻って来た。
「セレネ!お帰り!」
その姿を見た途端、セレネの記憶と立花幸太郎の記憶がすごい勢いで脳裏をよぎった。
それはもう、走馬灯の勢いで。
立花幸太郎時代の両親は、農家だった。
米を売ったお金でオレら姉弟を育ててくれた。
コンバインが古くなったので、買い換えるかどうか、すんごい悩んでたな。
翻って、セレネの親は漁師。
朝早く漁に出て、日が昇ると船は戻って来る。
ただ魚は傷みやすい。
干すか燻製にするか塩漬けにしないと、売りに行けないので、朝とった魚をすぐ加工する必要がある。
毎日大変。
両親とも朝から晩まで働いている。
それなりの値段で売れるから生活に若干余裕はあるものの、ちょっと躓けば終わり、という感じがある。
せめて冷蔵庫があればいいのに。
うーん。
木の箱に温度が下がる魔法陣を書ければ、冷蔵庫の一丁上がり、になる気がするんだけどなー。
ちなみに持って帰って来た魚は、今日の夕食分だ。
ヤッター、お刺身・・じゃなかった。
どんなに新鮮でも、生は食べないんだった。
残念。
「ただいまー!そんでお帰り!私手伝うね。」
さっそく籠の魚を手に取って、下ごしらえを手伝う。
ほとんどの魚は食べられるけど、たまに毒を持つのや、身が薄くて食べる所があまりないのがいる。
そんなのは、干した後、畑の肥料行きだ。
色々改善の余地があるなあ。
井戸の所でウロコを落としていると、
「ねーちゃん、お客さーん。」
は?
誰だろう。何人かの幼馴染の顔を思い浮かべる。
立ち上がって、表に回った私の視界に入ったのは、黒髪ワンレンの男前。
エドモン副学長だった。
え?
何してるんですか?




