その8 男のロマン
「アルダーは馬鹿だな。」
私の話を聞いた副学長は、まずそう言った。
ほんと、激しく同意。
「でも、一応義理は果たしたので〜。戻りたいんですけど〜。」
可愛く言ってみる。
副学長はため息をついた。
アルダーとは昔、一緒に戦った仲であるらしい。
「まぁ、とりあえず復学を認めるから、明後日から授業に出なさい。」
「はーい。」
改めて副学長の顔を見た。
男前だなぁ。
赤い稲妻団の、顔面偏差値四十以下をずーっと見てきたせいか、久々に副学長の顔を見ると、以前の十倍増しにイケメンに見える。
「私の寮の部屋はどこを使えばいいんですか?」
「前の部屋が空いている。そのまま使うといい。」
良かったー。
寮に向かう途中で、リリアに会った。
良かった。まだ残ってたんだ。
「お帰りー!無事に戻って来られたんだ!」
「ただいまー!」
リリアには、医療系魔法使いの研修として、辺境の魔獣退治の手伝いに行く、と言ってあった。
「どうだった?」
「何か・・お給料貰えるって聞いてつい乗っちゃったけど、大変だった〜。」
私が戦術系魔法が使える事は、秘密にしている。
リリアはもう四年生だけど、私は二年生の半ばからだ。
頑張れば飛び級させてくれるらしいけど、とにかく魔法書の写本を作るのに、当分かかりそう。
授業を確認して、物置に置いていた荷物を引っ張り出す。
そして愕然。
私、二年までに習った事を、ほぼ忘れてる。
そりゃそうか。
あのオヤジギャグ魔法ばっかり使ってたんだもん。
ヤバい。
急いで1日かけて復習する。
こんなので、まともな魔法使いになれるのか不安。
という事を翌々日、副学長に相談してみた。
「あー。まともかどうかは分からんが、魔法使いという事なら、心配いらんだろう。医療系魔法使いでなくても、普通に戦術系魔法使いで生活出来る。」
書類仕事をこなしながら、エドモン先生は答えた。
「え。じゃあ私がこの学校にいる意味って?」
思わずそう言ったら、
「知らん。俺は、君が戻りたいって言ったから便宜を図っただけだ。後は自分で考えろ。」
冷たっ。
そう思いながら黒髪のワンレンを眺めていると、さすがにまずいと思ったのか、エドモン先生はペンを置いて、こちらを見た。
「医療系魔法使いになりたいと思ったから戻って来たんじゃないのか。」
あ。そうだった。
「そもそも戦術系魔法で生活出来るんだから、君はもう一人前という事だ。一人前の魔法使いがもう一度学校に入り直した例は、今までにない。」
なるほど〜?
そりゃそうか。六年かけて卒業して、もう一回戻って来るなんて、普通はないよね。
副学長は、書類の乾き具合を見ながら、言葉を続けた。
「卒業資格が必要なら、戦術系でなら、実技による卒業試験を受けられるように手配するが。」
戦術系魔法使いは、基本、魔獣と戦う事が前提なので、何かしら戦術魔法が使えればオッケーらしい。
いわゆる「ファイヤーボール!」とか「ウィンドカッター!」とかそんな感じ。
男のロマンだな。でもめっちゃ恥ずい。
訳のわからない当て字の必殺技とかね。
ただ残念ながら、この世界の魔法呪文は「ポンポコピーのポンポコナー」という感じだから、男のロマンからはほど遠い。
「最初に言っただろう。辺境で魔獣退治をすれば、医者を雇って君の村に派遣出来るほどの報酬が出る。国も幸せ、君の故郷も幸せ。一石二鳥だ。」
「それ、私の幸せは含まれてませんよね?」
「・・まあ、そうだな。」
しれっと言いましたよ、この人。
「とにかく医療系魔法使いを目指すなら、改めて勉強し直すしかない。それに関しては、君の努力次第だし、俺に出来ることはない。」
「・・はぁい。」
仕方ないので引き下がる。
ちっ。
もう少し、気遣ってくれてもいいのに。
自分の仕事の事しか頭にねぇのかよ。
とか思いながら、まぁ人の事は言えないな、とも思う。
前の人生、娘の進路相談において、ほぼ同じ事を言った覚えがある。
自分の頑張り次第。
正論だけど。
言われる側になると、もうちょっと「どう頑張ればいいか」とか「ここを乗り越えれば何とかなる」的な、励まし込みの助言が欲しかった。
そりゃ娘に嫌われるよな。
今更分かっても仕方ないけど。
そんなこんなで、気合い入れて復習に取り組む。
自分で頑張り次第って言った以上、頑張るしかない。




