その6 ゼーレっぽい
ある日、急に副学長に呼ばれて青ざめる。
呼ばれる心当たりがない。いやあり過ぎる?
副学長の部屋へ行って、
「何かご用でしょうか?」
と、言ってみた。
逆に
「何かご用かは、君が分かっているだろう?」
と、突っ込まれた。
「えー?」
と、とぼけてみたけど、ダメだった。
副学長はゴホンと咳払いした。
「二カ月前、『怯え』の魔法が使われた時、スタン先生は君のクラスの授業中だった。あと、半年ほど前図書館が揺れた時、君が中にいた事は、最初に自分で言ってたよね?」
まぁそーなんですけど。
副学長は、ちょっと男前だ。
噂では昔、王都を襲った竜を魔法で撃退した事があるらしい。
オレからすると若造だけど、この年で副学長なんだから、頭も切れるんだろう。
「両者に当てはまるのは、君しかいなかった。しかし君の成績は中ぐらいだし、しばらく様子を見ていたけど、特になんてことない普通の生徒だった。」
「はい。」
普通です。
副学長はにやりと笑った。
「ところが、だ。昨日その窓から、妙な動きをする女子生徒が見えたので、何しているんだと見ていたらだな。」
思わず背後の窓を見やる。
この窓、裏庭に向いていたのか。
「急にこう、ニョキニョキと。」
あー。
やられた。見られてた。
がっくりする。
「・・退学ですか?」
しかし副学長は腕を組んで、うーんと唸った。
「その辺の判断が難しい。校則に『みだりに魔法を使って人を傷つけてはいけない』とあるが、どうかな。図書館の件では怪我をした生徒がいたが、君は意図していなかったようだし。」
思わずぶんぶんと頷く。
「そうなんです!」
副学長は、もう一度うーんと唸った。
「しかも君が使った魔法は、通常の古代語魔法ではなさそうだ。」
あー。そりゃそうかも。
だったら何魔法?
「何魔法なんだ?」
「は?」
副学長から発せられた問いに、私は間抜けな返事をした。
「え、何魔法か分からないんですか?」
「嫌味か。」
ムッとする副学長に、私は慌てた。
「いえ、えーと、自分でも何魔法か分からないんですけど、副学長にも分からないんですか?」
「どちらかと言えば、精霊魔法に近い。しかし精霊魔法は、例えば木や風ならばエルフ、火なら竜族と、種族そのものと密接に結びついている。通常ヒトには使えない。」
えー。
そうなんだ。
「地震もそうだ。『揺らす』魔法はヒトにも使えるが、対象の大きさによって使う魔力も大きくなる。詠唱も膨大だ。しかしドワーフならば、『揺れろ』のひと言で地震を起こせる。」
おおー。
「で、君だ。君はドワーフには見えない。かと言ってエルフにも見えない。どうやって魔法を発動しているんだ?」
机の上に両肘をついて、指を組んだ姿勢に、なんかゼーレっぽいなと思う。
「分かりません。」
神様っぽい人に能力貰ったなんて白状して、大丈夫かどうか分からない。
男前だから善人かつ味方、なんて事はない。
詐欺師は大抵いい人に見える。
副学長は、うーんとまた唸った。
「でも呪文はあるんだろう?」
「はぁ。」
そこまでは認める。
「じゃあ、ここでやってみて。」
えー。いいのかね。
じゃあ、一番被害の少なそうなヤツを。
「恐れ入谷の鬼子母神。」
ボソッと言ってみる。
副学長の顔が青ざめた。
「これは強力だな。」
あ、強力なんだ。
「解呪出来るか?」
「分かんないです。」
そう言うと、副学長ははぁーとため息をついて、初めて聞く呪文を唱えた。
私がかけた「怯え」の魔法は解呪されたらしい。
「他にどんな魔法が使える?図書館で使った魔法は?」
えー?ここで?
「大丈夫なんですか?」
揺れて大騒ぎになるのでは。
「いいから。」
促されたので、小さく唱えてみる。
「ガチョーン。」
一瞬の後、ガタガタッと窓ガラスが鳴った。
グラグラと床が揺れる。
しかしほんの2秒ほどで、揺れは止まった。
副学長は半口を開けて、私を見た。
しばらく沈黙。
やがて今までの最大の長さで、「うーーーん」と唸ってから、ひと言。
「デタラメだな。」
まあ、私もそんな気がします。
それに副学長の説明では、木を使う魔法と地面を使う魔法は両立しない。
この上、
「あた○前田のクラッカー」
の、火っぽい魔法も使えるって言ったら、ますますデタラメだ。
副学長はまじまじと私を見つめた。
「君は医療系魔法使い志望と聞いた。それは変更の効かないものかね?」
「へ?あのー。うちの故郷は無医村なので。私がみんなの役に立てるようになりたいんです。」
「君が医者を雇って、君の故郷に派遣するというのはどうだ?」
思わず副学長の正気を疑う。
なんですと?
医者を雇うほどの資金が、私のいったいどこに?




