その5 一人前っぽい
そうだった。
あの時神様っぽい人から、
「つけてあげるからね。」
と言われた能力を、一個思い出した。
それは。
「オヤジギャグで魔法を発動する能力」。
嘘だ。
あり得ない。
つけてくれるにしても、もうちょっとマシな何かがあったはずだ。
「ガ」
ガチョーンとか言いかけて、慌てて口を閉じる。
もしかして、図書館の地震も、オレ?
オレかも。
そうかも。
なんか言った記憶がある。
うわ。恐っ。
あんまりびっくりしたので、しばらく無口になって、リリアを心配させた。
ただ要するに、オヤジギャグを言わなければいい。
それも前の世界のオヤジギャグなんだから、気をつければ大丈夫。
私は、十二歳の新米魔法使い。
自分で言うのもなんだけど、結構可愛い女の子だ。
大丈夫。
六月に年度が代わって、二年生になるまで、一度も失敗しなかった。
私は十三歳になった。
魔法はどんどん難しくなってきた。
初級魔法の中でも、生活関連魔法と呼ばれる物に移っている。
生きているものではなく、静物・無機物に魔法をかける。
その最たるものが、物を浮かせる・移動させる魔法。
おおー。すごいぞ。
魔法使いっぽい。
これが出来れば理論上、箒で空を飛ぶ事も出来る。
自分で自分を浮かせる事も理論上出来るけど、浮かせる事に集中しないといけないので、他の事が何も出来ない。
やってみたら、床から3ミリ浮いた状態のまま、一歩も動けなかった。
しかも自分の中の魔素を結構消費するので、魔法を解いた後、ぐったりしてしまう。
オススメしない。
「無理はダメよ。」
リリアに言われる。
だよね。
彼女と同じ授業を受けるのも、今年までだ。
私は医療系魔法使いを目指しているけど、彼女は農業系魔法使いを目指している。
医療系が学ぶのは、
「病気治療」「怪我治療」「体力回復」「栄養補給」などの魔法。
農業系が学ぶのは、
「水やり」「土壌改良」「虫害防除」などの魔法。
他に工業系と戦術系があって、それぞれに細かく講義が分かれている。
あまり重ならない。
寂しいな〜。
まぁ寮は一緒なんだけどね。
あと、新入生が二百人ほど入って来た。
自分が新入生だった頃を思い出して、懐かしい。
人数多くて、食堂がわさわさする。
みんな頑張って生き残ってー。
私の同級生は、十五人に減っている。
「でも今年は多いよね。」
ディナが、教室に移動しながらそう言った。
私たちの代の倍ぐらい、新入生がいる。
年齢はバラバラ。
過去には八歳で入学した子もいるらしい。
再挑戦で入ってくる人もいるし、私とリリアは同い年だけど、ディナは一個上だし、他にも明らかに年上な同級生はいる。
でもみんな、一人前の魔法使いを目指している同志だ。
と思っていたら、ある日ディナが、裏庭でナンパされているのを見た。
相手は四年生の男子。
ディナがいいならいいんだけど、どうも彼女は嫌がっているみたい。
まぁね〜。綺麗で大人っぽいディナなら、他に好きな人がいそうだ。
ちょっとだけディナを助ける。
物陰から小声で
「恐れ入谷の鬼子母神!」
男の背中がビクッとなった。
面白い。
そう言えば、他のオヤジギャグを試した事がなかった。
「○たり前田のクラッカー。」
とか言ってみる。
パン!と何かが弾けるような音がした。
続けてパパパパパン!と爆竹みたいな音。
「熱ツッ」
みたいな悲鳴が上がった。
男な逃げていき、呆然とするディナだけが残った。
よしよし。
なるほど、そのクラッカーか。
一応、オヤジギャグと微妙に関連があるっぽい。
他にどんなオヤジギャグがあったっけ。
役に立つ魔法を見つけたい。
別の日に、誰もいない裏庭で、これは鉄板だろうというオヤジギャグを、小声で言ってみる。
「布団が吹っ飛んだ。」
ビュンと風が吹いて、目の前でつむじ風になった。
おおー。
やっぱりね。そうだと思った。
他にどんなオヤジギャグがあったかな。
「隣の空き地に囲いが出来たってね。へー、かっこいー。」
・・・。
これはダメっぽい。
うんともすんとも言わない。
じゃあ
「驚き桃の木山椒の木。」
とか。
桃来る?山椒来る?
ワクワクして見ていると、裏庭の隅に生えていた木の枝が、急にニョキニョキ伸び始めた。
わぁ。
何。
びっくりした。
高さが倍になった木をみあげる。
桃でも山椒でもないけど、驚きの木だ。
なるほど。
使い道はよく分からないけど、役に立つ事があるかも。
すごいな。
風も火も木も扱えるなんて。
一人前の魔法使いっぽい。




