その46 出立式
親を連れていきたいか、と聞かれて断った。
これは観光旅行ではない。冒険であり、開拓だ。
うちの家族には、それぞれの生活がある。
連れて行くのはムリ。
出航前日、王宮で盛大な壮行会が執り行われた。
みんな、晴れがましい顔半分、不安半分の表情をしている。
どこにも辿り着けないんじゃないか?
辿り着いたとしても、不毛の荒野なのでは?
でも大丈夫。
他の大陸にもちゃんと人が住んでいる事を、私は知っている。
何で知ってるのかと聞かれても答えられないけど、なぜか知っている。
「ホントに行くの?」
その夜。さすがに気が立って眠れないでいると。
あの男の子が不意に現れた。
久しぶりな気がするし、ついこの前会った気もする。
「実体?」
「だって君、いつまでも寝ないし。」
男の子は、私が使っている王宮の客室の、ベッドのそばの椅子に座った。
「ちょうどいい所に。聞きたいことがあったんだ。外洋にでたら、あなたにもらった魔法は使えなくなる?」
「そんな事はないよ。僕が取り消すまでは、ずっと使えるけどさ。」
男の子は、椅子の上であぐらをかいた。
「何かさー、つまんない。もっとこう、敵国の姫をぎゃふんと言わせるみたいな、痛快アクション、ないの?」
寝間着の私は、腕組みして男の子を見つめた。
「何言ってんの。ちゃんとお望み通り、傭兵団から追放されて、アルダーをぎゃふんと言わせて、エドモン君に溺愛されてるじゃん。強力魔法で、誰にも行けなかった外海に出航して、伝説になるのよ。ラノベのネタだったら十分でしょうよ。」
ちなみにエドモン君はまだ、出航の準備に追われて、戻って来ていない。
男の子は、口を尖らせた。
「そりゃそうだけどさ。」
「なんだったら、東の大陸で何かしら活躍してやるわよ。」
私がそう言うと、
「うーん。まぁいいけどさ。東の大陸は、いくらか人が住んでるけど、文化レベル、ここよりずっと低いよ?」
男の子は、クローゼットに掛けてある私のドレスを見た。
「インフラ整ってないし。あんな素敵ドレス着ても、泥汚れとウ○コ汚れで、すぐ着られなくなるよ。」
「ウ○コ汚れとか言わないで。」
うちの田舎もそこそこインフラ不備だったので、まぁ分かる。
「ずっと隣村といがみ合ってる感じで、食べて行くのに精一杯。それでもホントに行くの?」
「行ってみたいのよ。」
「ふーーん。」
男の子は肩をすくめた。
「まぁいいか。たまには僕の子孫を外に出しても。」
「子孫?」
「うん。この大陸に住むヒトは、三分の一は僕の子孫。君で大体二十代ぐらいの曾孫になるかなあ。」
頭が真っ白。
「お、おじいちゃん・・」
「その言い方、傷つく。」
神様ではなく、ご先祖様だった男の子は、可愛らしくぷぅと頬を膨らませる。
「とにかく、そんなに行きたいなら、外を見て来るといいよ。」
何か色々突っ込み所はあるけど、あんまりびっくりして、それ以上は聞けなかった。
というわけで。
翌日は出立式。
大型の帆船を付けられる港は、王都を流れるゼート河の河口の街にしかないので、とりあえずそこまで、もう少し小型の船で移動する。
大勢に見送られて、色とりどりの布で飾られた船へのタラップを渡る。
観衆の中にはカリン姫もいた。貴賓席に座っている。
遠くからでも分かる、真っ青な顔をしている。
ふっふーん。
エドモン君は、あなたと結婚するぐらいなら、明日をも知れぬ冒険の旅に出た方がマシなんですってよ。
とか言ってやりたい。
でもどっちかというと、どさくさで自分の願望が叶って、エドモン君は超ご機嫌。
カリン姫のことなんか、全然眼中にない。
むしろちょっと可哀想になる。
「カリン姫に挨拶したの?」
横に立って父王や兄王子達に手を振るエドモン君に、こっそり聞いてみる。
「あ」
すっかり忘れていたらしいエドモン君は、貴賓席のカリン姫を探して、おそらく目があったんだろう。
満面の笑みで手を振った。
わなわなと肩を震わせているのが、ここからでも分かる。
ごめん。なんか火に油を注いだかも。
出航します、との声がかかる。
もやってある綱が解かれ、船はしずしずと動き出した。
歓声が、一段と大きくなる。
とりあえずみんなが見えなくなるまで甲板に立って手を振る。
そして、勧められた椅子に座った。
「この日を待っていたんだ。」
エドモン君は嬉しそう。
私も嬉しい。
この国は、あの神様っぽい男の子の箱庭だったので、ちょっと納得出来なかった。
外から見ることが出来れば、色々腑に落ちる事もあるだろう。
河を下ること、三日。
ずっと天気も良く、すれ違う猪牙舟に手なんか振ったり、のんびりの船旅。
河口の港に着くと、今度は本当の大型帆船に乗り替える。
さぁ、外洋へ出発だ。




