その45 準備万端
国王陛下に呼ばれてエドモン君と王宮に行った。
謁見室ではなく、執務室。
山のように本が積んであった。
王様はちょっとお疲れのようだった。
「セレネ。エドモンから話は聞いたと思う。」
人払いされ、勧められて座った席は、国王陛下のすぐ横だった。
「時間がないので無礼講とする。今から話すことは他言無用である。」
わー。なんか王家の秘密っぽい。
本の山の中から取り出して開いた一冊は、ものすごく古そうだった。
「これは、王家秘蔵の建国記だ。本来なら王家の直系しか見ることは出来ん。」
おおっと。
そんな大事な本を、私に見せていいのかね。
「この本によると、春の季節風の頃、元の国からこの大陸に辿り着くのに、七日かかったとある。今の季節、風は逆に吹く。おそらく十日もあれば、我々の祖先の国に辿り着くのではないかと考えている。」
びっくりした。
王様は、この国の成り立ちに関する謎を、全部ご存知なんだ。
そりゃそうか。
「ただ、今まで歴史上何度も外洋に出るのを試したが、成功した事はない。しかし君ならやれるかも知れないと、エドモンが言うのだが。どうだろう。」
私は首をかしげて考える。
魔獣には「火花」の魔法。帆船の推力には「つむじ風」の魔法でなんとかなりそう。
「まぁ、条件次第で行けそうな気がします。」
「本当か!」
勢い込む国王に、ちょっと引く。
「ただ、私なら行けるというだけで、航路を開くという意味ではないですが。」
慎重に言ってみる。
「それでよい。」
国王は大きく息をついた。
「それでよい。すぐに準備をさせる。」
隣に座るエドモン君を見る。
「いいの?」
いつも不機嫌そうなイケメン王子は、不意ににこっと微笑んで頷いた。
「きちんと方向と距離を測りながら進めば、行った先で高速移動陣を組んで、ここと行き来が出来る。」
おお。嬉しそうだ。
この大陸を出られる。
「もう大体の手はずは整っている。用意が完了するのに、五日ほどだ。君も、持っていくものを用意しておいてくれ。」
え。早い。
もう少し心の準備をする時間が欲しい。
すると、見抜いたように国王陛下が説明してくれた。
「カリン王女が、本格的に兵を揃えているらしい。こちらに向かってくるのも時間の問題だ。なのでそれまでに、大々的に出立式を執り行う。もちろんカリン姫も呼んで、だ。」
何をどうしようと、もうエドモン君はユール王国には居ないのだと見せる必要がある。
「全力で用意を急がせている。君も色々不安はあるだろうが、できる限りの事はする。任せて欲しい。」
力強く言われても。
あんまり急で、不安しかない。
御前を下がった後、エドモン君が荷物や人員の一覧を不安がる私に見せてくれた。
船員に関しては、相当の腕利きを含む十名。
料理人。天文学者。
私とエドモン君を守る護衛士。
私の出産の手助けをしてくれる助産婦さん。この人は私の侍女も兼ねている。
荷物に関しては、揚陸艇が二基。
高速移動陣のパネルの部分。
向こうに着いてから必要になると思われる、工具類。医療品。布類。
そして相当数の魔導書。もちろん写本だし、私にもエドモン君にも必要ないかも知れないけど。
あと、積み込めるだけの食材。
全員が、最低でも二十日食べられるだけの量を積み込む。
そもそもエドモン君が優秀な魔法使いなので、水とか魚とか海で取れそうな物は心配ない。
行けるかも。
部屋の荷物はあらかたまとめて、必要な物は船に送り、残りは王宮の倉庫に送る。
ま、私は見てるだけだったけどね。
残り二日、リリアに別れを告げる。
めっちゃ怒られた。
「それって、副学長と離婚すれば済む話なんじゃないの?」
おおぅ。
パンチ力強め。
「何も、あなたが付き合って外国行かなくたっていいじゃないの。命の危険があるんでしょ。お腹の赤ちゃんまで危険にさらして。」
そう言われれば、そうかも。
そこで、自分の気持ちを隅々まで検分してみたけど、不思議に思えるほど一緒に行かないという選択肢はなかった。
「でもさー。エドモン君のこと、好きなんだ。」
「成り行きで結婚したんじゃないの。」
リリアの強めパンチは続く。
「まあ、そうなんだけど。」
「せめて赤ちゃん産んでからにしなよ。」
「うん。リリアの気持ちは分かる。立場が逆だったら、私もそう言う。」
でも、じゃあなんで急ぐかと言えば、フラメ王国が今月末にも攻めてくるからで、出産を待ってたんじゃ、二国間が戦争状態になるからだ。
そしてなんで外洋に出るかと言えば、エドモン君が、もうユール王国にもフラメ王国にもいられないからだ。
少なくとも、カリン姫の頭に上った血が、ちょっと冷えるまでは。
「大丈夫。来年の春、季節風の方向が変わったら、帰って来れるから。」
「何言ってんの。その頃産まれてるでしょうよ。」
「あ、そうか。」
「もー。のんき過ぎて呆れるわ。」
リリアは呆れたように、肩をがっくり落とした。




