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転生チート魔法使いだったのに、世界は意外にシビアだった話  作者: たかなしコとり
第3章 結婚

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その41 忘却

じゃあね、とリリアが去った後、私は中庭でちょっとぼぅっとしていた。


リリアみたいに大抵の人は、普通に生活して、仕事とか生き甲斐とか見つけて、普通に結婚して子供とか産んでジジババになって、普通に死ぬんだろうなぁ。


私も、もう一度魔法医として自立して、それが生き甲斐とかになったり?


あるいは魔法戦士として、魔獣討伐に精を出して、どんどん西の森を開拓して。


そうだ。いっそ竜殺しの英雄になるか。

でもそれ、オヤジギャグ魔法があっての事だしな。


他に選択肢といえば、船?

船でみんなで出航するしかないのか。

うちの家族と。エドモン君と。リリアが一緒に行きたいって言ったら、リリアと。


リリアがオーケーするかな。連れていきたいって言ったらリリアの家族も?

大所帯だな。


それで水棲魔獣をバッタバッタと倒しつつ、東にあるという太陽の国を目指す。

まあ、イケそうな気はする。


ただ、辿り着いたら幸せになるのかという不安はある。

そもそも太陽の国がどんな国か、全然分からないし。


あー。なんかもう、考えるの嫌になってきた。


何がイヤって、ここが魔獣のエサを飼育するための施設だって事だ。

それさえ聞かなければ、私も普通に幸せになれた気がするのに。


ぐるぐる考えていると、うつむく私の視界に足が見えた。

「ごめんね?」


「わぁ。」

声出ちゃった。あの神様っぽい男の子だった。

「あんた、い、生きてんの?」

本当に神様だったら、怒らせそうな言い草。


「生きてるよぉ。」

男の子は笑った。よかった、気にしてない。

「そんでさ、色々ごめんね。あんまりぶっちゃけたんで怒られちゃった。」

てへペロ。


「誰に。」

「友達。君に干渉しすぎだって。」

へー。神様にも友達いるんだ。


男の子は、後ろに組んだ腕をもじもじさせた。

「女の子困らせちゃダメでしょって。確かにそうだよね。それで考えたんだけど、僕が言った言葉、取り消すね。」

「取り消すってどうするの。」

「君の記憶から消す。」


あ、魔法っぽい。

「そんな事できるの?」

「思い出さないようにするだけ。ほら、小さい頃に一度会っただけの友達とか、だんだん思い出さなくなるでしょ。あんな感じ。」


いいように言っているけど、結局自分の失言を取り消したいだけだ。

「でも、事実は変わんないよね?」

ヒトはドラゴンのエサのエサ。

「うん。」

男の子はあっさり頷く。


「それがイヤなの。」

「イヤって言われても。やっとこれで納得してもらった仕組みだしさ。僕も壊したくないんだ。」

男の子は、ピッと私のおでこをつついた。


「えー。」

「大丈夫。イヤって思った事も忘れるから。」

「だって。順番に魔獣のエサとか、絶対イヤ。」

「基本的には、犯罪者にならなきゃ大丈夫。」


治安も良くなるし、一石二鳥。

気持ちは分かる。確かに今、国内の治安はいい。

でも、犯罪発生率を上げるのは、実は簡単だ。物価を上げるとか税金を上げるとか、庶民の暮らしを苦しくすれば、犯罪発生率は飛躍的に上がる。


「納得出来ない。」

抵抗すると、男の子はハァーっとため息をついた。

「ホントはさ、も一回転生し直すとか考えたんだけど、そうも行かなくなって。」

「何で。」


何気なく聞いたら、男の子はちょっと目を伏せた。

ていうか、めっちゃ私のお腹を見た。

え、何?


「生物学的にはさー、男の方が断然地位が低いの。ニワトリだって牛だって、先に肉になるのは雄でしょ。」


なんか怖いこと言ってるぞ。


「だから女の人が魔獣のエサになるのは、本当に余程の犯罪者だけなんだよ。安心して?」


男の子の笑顔に、ぼぅっとなる。

安心。していいの?


「セレネ?」

声をかけられて、我に返る。


見ると、エドモン君が私を覗き込んでいた。


「あれ?今そこに男の子いなかった?」

「俺がきた時は、誰もいなかったな。」

エドモン君は、私を立たせた。

「ずっとここにいたのか?」


辺りはもう、日暮れに近い。結構長い間ここに座っていたみたい。

「暑いだろう。大丈夫か?」

「あのね、今」


言いかけて、びっくりする。

今、ええと。結構いろいろ話した気がするのに。


「男の子が?」

「そう。」


それで、なんだっけ。

「えーと。犯罪者になっちゃダメだって言われた。」


ん?とエドモン君が怪訝そうな顔になる。

「なにか悪事を企んでいるのか?」

「そ、そうじゃなくて。」


あれー?

おかしい。あんなに悩んでいた何かを思い出せない。


「ふ、船でこの国を出たい。」

そう。

うっすら思い出せるのは、この国がイヤだと思った事。逃げちゃいたいって思った事。


でも理由は思い出せない。


「日差しにやられたか?」

エドモン君は心配そうだ。

とにかく夕食の時間だから、と食堂へ向かう。


なんかもう、頭クラクラする。

気持ち悪い。

先に保健管理室へ、と連れて行かれて、そこで魔法医の先生に言われたのは


「おめでたなんじゃない?」


ヤバい。

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