その39 制約
確かに、制約があると言える。
今私が持っているチートな魔法を手放したくないなら、それをくれた人の意向に沿わなくてはならない。
例えば向こうにあった様々な便利な家電をこっちで再現したら、なんかあんまりいい顔されなさそうだ。
どこまでなら言っていいのかな。
「エドモン君はさ。この前言ってた海を渡る話、どれぐらい本気?本当に、国を捨てる事になっても大丈夫?」
「二度と戻れない、ぐらいなら大丈夫。例えばフラメ王国側について、こちらを攻撃すると言うなら却下だ。」
エドモン君の中で、一応の線引きはあるらしい。
「王子だからね。」
「産んでもらった恩はある。」
「そっか。」
食事のトレーを前に、少し考える。
「じゃあ言うけど、この魔法をくれた人がいるの。」
「ああ。前にハイエルフかと言ったな。」
「うん。勝手に神様と呼んでるんだけど、まあその人にとって都合が悪いと、私の魔法は使えない。ちなみに、その人が私を異世界からこっちに転生させたらしいのよ。」
しばらくエドモン君は固まっていたけど、やがてハッと我に返って、立ち上がった。
「ちょっと飲み物取ってくる。」
「あ、じゃあ私も。」
トレーを下げて、熱いお茶を入れて、また席に戻る。
エドモン君の頭の中は、きっといろんな事が渦巻いている。
高性能な頭脳がカチャカチャ音を立てて何かしら計算しているのが見えるようだ。
「君の能力は、この世界の成り立ちと」
エドモン君はお茶を飲んで、一息ついた。
「とても似ている。」
言われて気づいた。
確かに。
自由に出来る範囲がある。
それを超えると、全て失われる。
でもあの神様っぽい男の子は言っていた。
自分は神様ではない。羊飼いだと。
オオカミのために羊を育てて、オオカミも羊も全滅しないように見守る。
「鋭いなー。前にエドモン君、みんなこの土地に閉じ込められているって言ってたでしょ。」
「そうだな。」
「あれ、正解。実は」
言いかけて言葉がつっかえる。
あれ?
「あのー。」
やっぱり出て来ない。
「どうした。」
「こ、こ、言葉が、出ない。」
何で。ひどい。
でもエドモン君は納得した顔で頷いた。
「つまり、人に知られてはマズイという事だ。」
「それで納得するんだ?」
「つまり、それもこの世界にかかっているのと同じ制約だと言う事だ。」
そうかも。
「何か腹立つわー。」
眉根を寄せていると、エドモン君は肩をすくめた。
「いや、でもそれであらかた理解した。この世界は、君にそのデタラメ魔法をくれた神様の箱庭だと言う事だ。そして太陽の国はおとぎ話ではなく、この大陸の外に実在する。君は、この大陸を出たらその制約が外れると考えている。」
凄い。せめて頷きたいけど、それも出来ない。
冷や汗が出る。
「おそらく制約も外れるけど、魔法も失われる。それでも外に出たいと思わせる何かが、この大陸にはある。」
エドモン君は、長いワンレンをかきあげて、「うーん」と唸った。
それからカップを片付けて、部屋に戻るまで、エドモン君はほとんどしゃべらなかった。
「何考えてるの?」
聞いてみる。
「ああ。いや。この大陸の周りにいる水棲魔獣は、外洋に出たり、海岸線を西に向かうと出て来て船を襲うんだが。」
「ですね。」
「それで船員が全滅した訳じゃない。帰って来て『水棲魔獣がいて危なかった』と伝えた者が必ずいるはずだ。でなきゃ『外洋に出たら行方不明になる』としか伝わらない。」
あ、なるほど?
「魔獣に船を沈められたが生き残った者がいる。そうすると当然の推測として、外洋に出て行方不明になった船は、きっと魔獣に沈められて全滅したんだ、となる。」
ほうほう。
エドモン君は、黒髪をリボンでゆるく束ねる。
一緒に寝るようになって初めて知ったけど、背中の中ほどまであるこの髪、寝る時に束ねるとか、ナイトキャップに押し込むとかしておかないと、寝ている間に背中で踏んだり引っ掛けたりしてギャッとなるらしい。
普段から括っておけばいいのに、それは嫌なんだそうだ。
「頑張って外洋に出たら、意外にあっさり別の大陸に行けるんじゃないか?」
「い、い、」
神様が、行けないように来られないようにしているって言ってたよ。でもそれも言えない。
「世界の成り立ちに関する話題は、制約がかかるんだな。」
エドモン君は一人で納得している。
なんか、悔しい。
涙目で夜着に着替えようとしていると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「泣くな。俺が勝手に調べる件については制約はかからない。待ってろ。きっと何とかする。」
えーん。優しい。惚れるわ。
「抱いてもいいか?」
「だから聞かないでって。」




